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2009年ベスト

 1日1作。毎日ひとつ何かを紹介する試みを続け、4年5ヶ月になった。2009年に記した中での、ベストを振り返る。

小説 : 宮城谷昌光 「楽毅」
 「楽毅」は、内容の濃密さと、巻が進むにつれて深みが増していく凄さに感嘆した作品。
 他にも 「赤ひげ診療譚」「胡蝶の夢」「箱根の坂」 など、ベストに掲げたい小説はいくつもあった

数学書 : 「素数に憑かれた人たち」
 リーマン予想を、数学の近代史とからめながら解説した、奥行きのある本。

クラシック : ムラヴィンスキー指揮「チャイコフスキー交響曲第5番」
 ムラヴィンスキー指揮のチャイコフスキー交響曲4番、5番、6番は、底知れぬ深淵をたたえた演奏。

ドラマ : 「坂の上の雲」
 日本映像界の悲願が達成された。明治期の日本をじっくりと描く。来年の第二部、再来年の第三部にも期待。

邦画 : 「沈まぬ太陽」 
 覚悟を据えて映像化した制作者に敬意をこめて掲げたい。

洋画 : 「WALL・E/ウォーリー」
 台詞なしで雄弁に語る前半と、賑やかに展開される後半の対比が興味深かった。
 レミーのおいしいレストランルイスと未来泥棒ファインディング・ニモなど、ディズニー・アニメの良作に多く出会えた。

コミック : 「キャプテン」
 何十年ぶりかに読んだが、名作は色あせない。アニメもたいへん良い出来映えであった。 

アニメ : 「プラネテス」
 原作も素晴しいが、内容をふくらませ見事なまとまりをもったストーリーと映像美に結実させたアニメスタッフの力量に感服。

教育: 「高校生のための現代数学講座」
 東京大学玉原国際セミナーハウスでの体験は、今後も大きな財産になるだろう。真剣な眼差しの高校生、若き教員の取組み献身的な大学の先生方の姿勢は印象に残り続けるだろう。

科学:「スーパーカミオカンデ」
 飛騨のスーパーカミオカンデを見学できたことは、今年最も実りあるイベントであった。子どもたちにも本物を見せることができて本当に良かった。

 2009年は、科学と社会を共に見据える体験が多くできた。2010年の新たな出会いに期待したい。

レミーのおいしいレストラン

 「誰にでも料理はできる」

 料理好きのネズミが活躍するディズニー・アニメ「レミーのおいしいレストラン」。ブルーレイで見ると、ネズミの毛並み一本一本まではっきりとわかり、CGの表現力に感嘆する。ことに、料理や厨房の精緻な表現と、パリの街の美しさが素晴しい。
 前向きなメッセージをベースにした、友情、恋愛、陰謀、成長、奇跡、笑いあり涙あり、フルコースのアニメーション。

小澤征爾 ベートーヴェン:交響曲第9番

 小澤征爾指揮、サイトウ・キネン・オーケストラによるベートーヴェン交響曲第9番の演奏を聴く。2002年、松本でのライヴ録音。
 同オーケストラが最初に手がけたベートーヴェンは、1993年の第7番であり、10年を経て、満を持して第9番に臨んだ。精緻さと熱情を備えた演奏。

ベートーヴェン:交響曲第9番<合唱>
ベートーヴェン
B001RRX3BS

ワーテルロー

ワーテルロー [VHS]

 なんでこんなすごい映画がDVDにならないのだろうか。1970年のイタリア・ソ連合作の映画「ワーテルロー」は、圧倒的なスケールでナポレオン最後の戦いを描いたスペクタクル巨編。
 ロッド・スタイガーのナポレオンが、実に味のある演技をしている。好敵手、ウェリントンを演じるクリストファー・プラマーは、惚れ惚れするほど格好いい。
 再び映画館で上映されないだろうか。それが叶わぬとしても、ブルーレイで残すべき名作だと思うのだが。

ロッド・スタイガー, クリストファー・プラマー, オーソン・ウェルズ, ジャック・ホーキンス,セルゲイ・ボンダルチュク
B00005N0YG

坂の上の雲 5

 歴史のうねりの中で、人々が自らの役割を意識し、突き進んだ「明治」時代を描く「坂の上の雲」。第1部の最後となる第5話では、日清戦争後の19世紀末、秋山兄弟や正岡子規の姿を通して、時代の空気を感じさせる。
 アメリカで海軍の研究を進める秋山真之、ロシアに留学し、その国力を目の当たりにする広瀬武夫、陸軍乗馬学校で騎兵隊を育てる秋山好古。日本の将来を背負った若者たちの凛とした言動が心地よい。
 旅をする正岡子規の姿が、日本の美しい風景と共に印象に残った。軍部の様子の合間に描かれる、叙情に満ちた子規庵での語らいの場面が、物語に絶妙の味わいを加えている。
 明治時代の日本人の矜持と志、品格、懐の広さ。その美質をあますところなく映像化し、観る者に勇気を与えてくれるドラマとなっている。次回放送は1年後だが、その間の長さが気にならないのは、作品の持つスケールの大きさゆえだろう。

NHK 「坂の上の雲」

NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 第1部 DVD BOX
B0030DRYYY

文藝春秋増刊 「坂の上の雲」と司馬遼太郎

 文藝春秋増刊「坂の上の雲」と司馬遼太郎は、中身が濃い企画号。冒頭、日清・日露戦争当時の写真が眼を引く。特集「『坂の上の雲』を私はこう読んだ」では、塩川正十郎、寺島実郎、安藤忠雄、篠田正浩、武田鉄矢など、各界の人々がその思いを綴っている。いかに多くの層に影響を与えた作品であったかが伺える。
 司馬遼太郎自身が「坂の上の雲」について語った講演も実に興味深い。日清・日露戦争を検証した座談会、主要人物事典などを載せ、作品に描かれた時代を知る多くのきっかけを与えてくれる。

文藝春秋増刊 「坂の上の雲」と司馬遼太郎 [雑誌]
B002SUI9HQ

胡蝶の夢 第4巻

 司馬遼太郎の「胡蝶の夢」では、蘭学の広がりが、江戸身分制社会を突き崩す一因となった様が丁寧に描かれている。しかしそれ以上に、松本良順、島倉伊之助、関寛斎、三人の生き方が印象的で、物語の終盤では、叙情の波が胸中におしよせてきた。
 「西洋医学」の徒の生涯をたどりながら、幕末から明治へのうねりと学問の有り様を、練達の筆で情感豊に浮かび上がらせた名作。

胡蝶の夢〈4〉 (新潮文庫)
4101152306

胡蝶の夢 第3巻

 「人間とは、生命を維持するだけの存在であるかどうか」

 一橋慶喜、近藤勇の主治医となった松本良順、語学の天才でありながら、人間関係の能力が欠如している島倉伊之助、医療と社会についての思索を深めていく関寛斎。長崎でポンペの元に学んだ三者の生き様を辿りながら、幕末の諸相を重層的に描く第3巻。

胡蝶の夢〈第3巻〉 (新潮文庫)
4101152292

胡蝶の夢 第2巻

 「医師にとって、病人という対象のみがあるのだ。階級や貧富の差別は、医師の関知するところではない。」

 1857年、長崎海軍伝習所で、医学の開講をしたポンペ。松本良順と共に医学伝習所で多くの医学者を育てていく。ここで、西洋医学の種がまかれると同時に、身分制度が固められている江戸幕府に、自由・平等の西洋思想を錐でもみ込むように穿つことになる。
 幕末の長崎を舞台に、日本における近代医学の黎明を描く、感動の巻。

胡蝶の夢 (第2巻) (新潮文庫)
4101152284

胡蝶の夢 第1巻

 「胡蝶の夢」は、幕末の蘭学者たちの姿を通し、江戸期の身分社会を越えていった人々を描く司馬遼太郎の小説。
 「坂の上の雲」は、冒頭に松山が舞台となっていたが、「胡蝶の夢」は、佐渡から始まる。この出だしがまた秀逸である。佐渡では、世界地図に造詣の深い人が描かれ、一地方から全てを見渡す物語の手法を象徴している。
 島倉伊之助という不思議な主人公を据え、松本良順との師弟関係を軸に、幕末の医療を浮かび上がらせていく巧さは、見事としか言いようがない。

胡蝶の夢〈第1巻〉 (新潮文庫)
4101152276

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