« 2019年11月 | メイン | 2020年1月 »

欧州複合危機

 ヒトやモノの移動をスムーズにし、ユーロ導入など一大経済圏を構築したEU。ヨーロッパ統合の理念を形にした壮大な社会実験である。しかし、大量の移民流入やイギリスの離脱決定など、多くの試練に直面している。この先、EUはどうなっていくのか。
 EUの直面する課題を、豊富な知見と政治学的な視点で明らかにする書。EUの歴史的経緯や度重なる危機も詳らかに記されている。
 理念を形にすることの難しさをまざまざと感じさせてくれる。それでも、EUを世界的規模の一大組織に発展させた人々の並々ならぬ労苦と意志が行間から伝わってくる。
 本書では触れられていないが、EUは広域な文化活動を支援し人類への貢献を志向する組織でもあり、その価値は決して小さくない。
 EUの実相を提示し、現在の社会を俯瞰する上でも多くの示唆に富む良書。 

欧州複合危機 苦悶するEU、揺れる世界 (中公新書) [ 遠藤乾 ]

FOUJITA

 小栗康平監督が、洋画家の藤田嗣治を描いた映画「FOUJITA」。1920年代のエコール・ド・パリの仲間たちとの交流と、1940年代、日本に帰国してからの様子が、コラージュ風に表現されている。
 どのシーンも絵画のようであり、その美の世界に浸ることができる。視聴後は、充実した美術展を堪能したような感覚をおぼえた。
 美意識が横溢する静謐な映画。

FOUJITA

日日是好日

 映画「日日是好日」は、茶道を描いた作品。黒木華演じる女性が、樹木希林演じる先生にお茶を習うという、ただそれだけの映画。ただそれだけなのに、なぜかじっと見入ってしまう。樹木希林の佇まいがなせる技だろうか。本当にすごい人だ。
 日本文化のよさをしみじみと感じさせてくれる静かな映画。

日日是好日

万引き家族

 是枝裕和監督による映画「万引き家族」。樹木希林の老婆とともにそれぞれ過去を引きずりながら暮らす人々の人間模様を描く。
 リリー・フランキー、安藤サクラの夫婦が独特の存在感を示す。松岡茉優、城桧吏との微妙な関係が、絶妙な空気感を作っている。佐々木みゆ演じる少女が、「誰も知らない」の少女のようにいつまでも心に残る。
 駄菓子屋の店主、柄本明がいい。ワンシーンだけの人々それぞれに愛着を覚える。
 家族のありようを鮮烈な脚本で示した、第71回 カンヌ国際映画祭パルムドール賞受賞作品。

万引き家族

誰も知らない

 是枝裕和監督の映画「誰も知らない」の冒頭、スーツケースの中から子どもが出てくるシーンから、画面に釘付けになる。アパートに引っ越すにあたり、家族の人数をごまかすために、スーツケースの中に子どもを入れて運んだのだ。それでも子どもたちは明るく屈託がない。団欒も束の間、新しい恋人ができた母親は、四人の子どもたちをアパートに置き去りにする。
 子どもたちが自然な演技であり、それゆえにずっと印象に残る。とりわけ、柳楽優弥演じる長男の、四人の兄弟姉妹が生きていくための振るまいが健気で、胸を締めつける。
 児童虐待の報道が後をたたない昨今、この映画を思い出す機会が多い。淡々とした映像であったが、いつまでも刺激をし続ける。
 カンヌ国際映画祭 最優秀男優賞、フランダース国際映画祭 グランプリ受賞作品。

誰も知らない

モクモク村のけんちゃん

九ちゃん 「『ごめんなさい』って言われたら、けんちゃんなんて言う?」
けんちゃん 「『いいですよ』って言うな。」
九ちゃん 「それそれ、それが "That's all right." さ。」

 「モクモク村のけんちゃん」は、1970年代当時のTBSブリタニカの英語教材として製作された紙芝居。カセット5巻に収められた物語で、当時小学生だった自分は何度聴いても飽きなかった。美しかった村が遠くからの煙によって汚い空気と川になってしまい、元の村に戻すためにけんちゃんが冒険をする物語。暖かみのある絵と、明瞭なストーリーにより、自然と英語の世界に引き込まれていく。環境問題を予見した内容でもあった。
 けんちゃんが冒険をする国が、英語で話されているという設定が秀逸で、聴き手は、けんちゃんが言葉を覚えていく過程で自然と英語に馴染んでいく。案内役の九官鳥の九ちゃんを通じて、英語の意味がわかるようになっており、実に見事な脚本。小学校英語活動においても参考になる要素がある。
 永らく入手困難な幻の教材であったが、最近、ブリタニカ・ジャパンよりパソコン用のデジタル紙芝居として復刻された。
 子ども用英会話教材の金字塔ともいえる優れた作品。

モクモク村のけんちゃんDVD

ブリタニカ・ジャパン 「モクモク村のけんちゃん」

デジタル紙芝居 FIRST STEPS IN ENGLISH「モクモク村のけんちゃん」 [DVD]

白洲正子の世界

 白洲正子の「樺山資紀」「青山二郎」「補陀落渡海」を、奈良岡朋子が朗読したCD。
 祖父であった樺山資紀の記憶。それは、明治の気質を切り取った文章でもある。歴戦の士であり、幾多の要職についた樺山資紀が、朝食の目玉焼を刻んでスズメに餌をあたえる場面はいたく印象に残った。
 青山二郎に師事し、小林秀雄らと交流のあった時を描いたエッセイもたいへん興味深い。
 補陀落渡海は、平家物語の平維盛のエピソードを綴りながら、入水と信仰に思いを馳せる。
 奈良岡朋子の語りが、文章に香る美学を見事に表出している。

心の本棚白洲正子の世界 奈良岡朋子 朗読

X’mas Party

 アカペラ・グループ、INSPi、チン☆パラ、RAG FAIR が奏でるクリスマス・ソング。
 絶妙のハーモニーとセッションで気分を盛りあげるCD。
 「Winter Wonderland」「Santa Claus Is Comin' To Town」が最高!

X’mas Party [Audio CD] INSPi; チン☆パラ RAG FAIR; RAG FAIR and チン☆パラ

君の名は。

 新海誠監督の映画「君の名は。」は、東京と飛騨の山奥を舞台とした長編アニメーション。男女の入れ替わりという、大林宣彦監督の「転校生」を思わせる設定であるが、精密に描かれた町の絵と彗星接近のファンタジックな設定により、新海誠独自の世界が展開されている。
 とりわけ、糸守町の清澄な空気を感じさせる情景が素晴らしい。東京も細部まで描き込まれ躍動感のある都市として印象に残る。
 作画の美しさ、RADWIMPSの清新な音楽、声優の熱演が和し、見る者を心地良く包み込む珠玉のアニメーション。

君の名は。

秒速5センチメートル

 新海誠監督による映画「秒速5センチメートル」。小学校のときに出会った男女を軸とした三話の連作短編。
 桜の舞い散る季節や、雪の降りしきる街など、美しい風景の中で細やかな心理の移ろいが描かれる。光の加減が絶妙な細密な描写があまりに見事。どの情景もずっとひたっていたいと思わせる優しさがある。
 日本の美を丁寧にすくいあげた、文学的な香気のある作品。

秒速5センチメートル [ 新海誠 ]

アクセスランキング

Ajax Amazon

  • Amazon.co.jpアソシエイト
  • UserLocal
  • Ajax Amazon
    with Ajax Amazon