素数に憑かれた人たち

 「ゼータ関数の自明でない零点の実数部はすべて1/2である。」

 「素数に憑かれた人たち」は、数学における最も重要な未解決問題「リーマン予想」について、その内容と、解決に挑んだ人々の姿を描いた書。奇数章には数学の解説が記され、偶数章には背景となる歴史や伝記的な話題が述べられている。
 現代数学においても難問であるリーマン予想を、平易に記述し、伝えようとする工夫が素晴しい。数学教育においても、参考になる点が多い。また、数学者が生きた時代背景やエピソードが興味深い。単なる数学の解説書ではない広がりがあり、読み物としても飽きさせない。近現代における数学者の列伝としての側面も持っている。
 歴史の縦糸のひとつとして数学が息づいている様を見事に描いた本。

素数に憑かれた人たち リーマン予想への挑戦【電子書籍】[ ジョン・ダービーシャー ]

映画監督 スタンリー・キューブリック

 「映画を作っているときは、時たま幸せだ。映画を作っていないときは間違いなく不幸せだ。」

 「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」「シャイニング」など、こだわり抜いた名作を世に送り出したスタンリー・キューブリック監督の本格的な評伝。
 写真に熱中した少年時代から始まり、映画を作り始めた頃のエピソードなども綴られている。「突撃」「スパルタカス」でのカーク・ダグラスとの出会いと決裂などもじっくりと記述されている。ピーター・セラーズ主演の「ロリータ」「博士の異常な愛情」も当時関わった人々からの丹念な取材で制作の雰囲気が浮かび上がる。
 圧巻は、「2001年宇宙の旅」の章。およそ全てのSF映画を見て、宇宙や科学に関するありとあらゆる本を読破し、NASAの関係者や原作者アーサー・C・クラークとの対話を重ね、イメージを膨らませていく。撮影の過程の記述も、実に興味深い。SF映画の不滅の金字塔の地位は、今後も不動であると納得できる。
 「時計じかけのオレンジ」「バリー・リンドン」「シャイニング」の撮影、美術、音楽へのこだわりが多彩なエピソードから伝わってくる。
 キューブリック監督の実像に迫る気迫に満ちた労作。

映画監督 スタンリー・キューブリック
ヴィンセント・ロブロット 浜野 保樹

夜と霧

 アウシュビッツの強制収容所という、死と隣り合わせの極限状況の中で、「夜と霧」の著者フランクルは人々の心理を冷静に見つめる。その真摯さが、人間に対する敬意と希望を与えてくれる。
 何度読んでも感銘を受け、自らの生きる意味を考えさせてくれる。
 人類の重き遺産ともいうべき、名著中の名著。

「科学者の楽園」をつくった男

 世界でも最高水準の研究を行っている日本が誇る研究機関「理化学研究所」。その波乱の歴史を、多くの科学者たちの足跡や歴史的背景を含めて描く本。
 ロンドンでの、夏目漱石とグルタミン酸ナトリウムの発見で知られる池田菊苗との出会いから始まり、第三代所長、大河内正敏のもとで科学研究が多彩に花開く過程が圧巻の筆致で語られる。
 長岡半太郎、本多光太郎、仁科芳雄、寺田寅彦、湯川秀樹、朝永振一郎など、多くの科学者たちの生涯にもふれられており、日本の近代科学史を俯瞰する書としてもたいへん興味深い。
 科学と社会との接点、科学と文学との関わりをも示唆した、知的興奮をよびさます重層的な著作。 

自助論

 「天は自ら助くる者を助く」

 サミュエル・スマイルズの世界的ロングセラー「自助論」。努力・勤勉・忍耐・独立・誠実の重要性を、膨大な例で語る著作。1858年、イギリスが世界最強の国であった時に書かれた本であり、文章に勢いを感じる。
 日本では明治4年に中村正直の訳により「西国立志編」として出版され、100万部の超ベストセラーとなった。その独立と向上をうたった文章は明治の青年たちを奮い立たせ、近代化を推進する精神的な支柱のひとつとなった。
 自助論は、150年の時を経てなお多くの人に読まれている。この本を「古い」とか、「あたりまえ」と一蹴するのは簡単である。しかし、本気で向き合って初めて見えるものが世の中にはたくさんある。

評伝 大村はま

 「そうだ、やさしいことばでこそ、人の心のなかに入っていけるのだ、むずかしい理論、高い思想、深い感動を、みんなにわかるやさしい、平らな、なめらかなことばで伝えていかなければ、文化はみんなのものにならないのだ」

 98歳になるまで、国語教育に渾身で取り組み、多くの生徒たちを育てた大村はま。その教え子であり、晩年はまの仕事を支えた苅谷夏子氏が著した「評伝 大村はま」。
 大村はまの人格が形成され、国語教師として実践を重ね、多くの生徒の生涯に影響を与える授業を創り上げる過程を丁寧に描いている。
 日露戦争、関東大震災、太平洋戦争、戦後の混乱など、日本の近現代史を背景にしながら、大村はまの関わる人々や当時の学校の様子が生き生きと綴られ、物語としても惹き付けられ、飽くことがない。
 はまの学びや実践から、教育に対する様々な考え方が具体的に記され、極めて示唆に富む。
 平易な言葉で、するすると読むことができるが、実に多角的な視点で大村はまの人物と実践が語られ、内容はたいへんに深い。心にすんなりと言葉がはいってくる。この本そのものが、大村はまによる国語教育の成果とも言える。
 多くの感動と真の敬愛に満ちた、優れた教育書。

評伝 大村はま ことばを育て 人を育て (単行本)
苅谷 夏子

教えるということ 大村 はま

 「私は、子どもがかわいいのであれば、子どもをとにかく少しでもよくしていける、教師という職業人としての技術、専門職としての実力をもつことだ、子どもをほんとうにかわいがる、幸せにする方法は、そのほかにはないと思います。」

 大村はまが、富山県新規採用小学校教員にむけて行った講演「教えるということ」を始め、「教師の仕事」「教室に魅力を」「若いときにしておいてよかったと思うこと」の4編の講演を収めた書。優しい言葉で語られるが、そこには強烈なプロ意識と、教える者としての使命感に溢れている。教育の原点を改めて思い起こさせてくれる凛然とした書。

南極のペンギン

 高倉健が映画撮影で訪れた土地で感じたことを綴ったエッセイを、自ら朗読するCD。いっさい奇をてらうことをせず、素直に風景や心情が語られる。素朴なだけに、ストレートにその優しさが伝わる。それは、「アフリカの少年」「北極のインド人」「ふるさとのおかあさん」「奄美の画家と少女」というエッセイのタイトルにも表れている。
 木訥に語られる素直な想いを聴いていると、俳優高倉健の魅力は、まっすぐに役にまたその人生に向き合っていることでにじみ出ているのだと感じる。
 宇崎竜童の音楽も語りに寄り添い、よい味わいをだしている。

武家草鞋 

 「清廉潔白」という言葉を最近は聞かなくなった。山本周五郎の「武家草鞋」は、清廉潔白を貫いたために世間との折り合いがつかず煩悶する武士の物語である。処世に自分を合わせることを潔しとせず、国許を去って放浪の果てにたどり着いた地。その自然美豊かな地で主人公を見守る老人と孫娘。
 深い人間洞察に裏打ちされた言葉の数々が胸を打つ好短編を、鈴木瑞穂が深みのある声音で味わい深く語る。

だらだら坂 大根の月

 向田邦子の短編小説「だらだら坂」「大根の月」の朗読CDを聴く。「だらだら坂」は、渡辺美佐子の朗読で、中年男の感傷がたおやかに語られる。「大根の月」は、栗原小巻がきりりとした声で語り、胸を突く名編。
 共に、一分の隙もなく構成された見事な短編。CDには、向田邦子自らが作品について語った貴重なトラックも収録されている。

アクセスランキング

Ajax Amazon

  • Amazon.co.jpアソシエイト
  • UserLocal
  • Ajax Amazon
    with Ajax Amazon