素数に憑かれた人たち

 「ゼータ関数の自明でない零点の実数部はすべて1/2である。」

 「素数に憑かれた人たち」は、数学における最も重要な未解決問題「リーマン予想」について、その内容と、解決に挑んだ人々の姿を描いた書。奇数章には数学の解説が記され、偶数章には背景となる歴史や伝記的な話題が述べられている。
 現代数学においても難問であるリーマン予想を、平易に記述し、伝えようとする工夫が素晴しい。数学教育においても、参考になる点が多い。また、数学者が生きた時代背景やエピソードが興味深い。単なる数学の解説書ではない広がりがあり、読み物としても飽きさせない。近現代における数学者の列伝としての側面も持っている。
 歴史の縦糸のひとつとして数学が息づいている様を見事に描いた本。

素数に憑かれた人たち リーマン予想への挑戦【電子書籍】[ ジョン・ダービーシャー ]

天地明察 映画

「天理は、算術と観測、どちらが欠けても成り立たん。」
「私たちが小さいのではない、世が大きいのだ。天はさらに広大だ。」

 冲方丁の小説「天地明察」を原作とする岡田准一主演の映画。滝田洋二郎監督による2012年公開作品。
 江戸初期の天文、和算に関する小道具を緻密に配置し、丁寧に映像化されている。個性的な俳優が競演し、起伏に富む物語にまとめあげている。
 数理の重要さを示す、志をもった映画。

天地明察

フォン・ノイマンの哲学

 コンピュータ、量子力学、ゲーム理論、天気予報など、現代社会を支える理論を数多く構築した天才フォン・ノイマン。本書は、その生涯と関わった人々を描きながら、ノイマンの思想の根底に迫っている。
 ノイマンの圧巻の才能に驚かされるが、関わった数学者や物理学者の略歴も紹介され、実に興味深い。ノイマンは多くの分野に関わったため、現代数学や科学を概観する内容にもなっている。
 特に、第二次世界大戦と科学者たちとの関わりは、原子爆弾開発の史実とあいまって重みをもって読み手にせまってくる。
 1900年代にいかに科学が多様な広がりをもち、実社会への応用がなされた時代であるかを如実に伝えるとともに、私生活が絶妙のタイミングで記載され独特のユーモアをも放ち読み手を飽きさせない。
 真の天才の生涯を通し、現代科学の礎を俯瞰する密度の濃い良書。 
 

フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔 (講談社現代新書)

ノイマン・ゲーデル・チューリング

 二十世紀を代表する三人の天才フォン・ノイマン、クルト・ゲーデル、アラン・チューリングの三人について、代表的な講演・論文とその生涯・思想について触れた書。ノイマンの講演「数学者」、ゲーデルの講演「数学基礎論における幾つかの基本的定理とその帰結」、ノイマンの論文「計算機と知性」の全訳が各章の冒頭に記されている。
 三名の言葉もそれぞれ独特の個性を表出しているが、偉業を成し遂げたその生涯も実に興味深い。特に、結婚にまつわるエピソードが人生を象徴している感がある。各人の最期の姿には、天才の栄光と苦悩が凝縮されている。
 コンピュータや論理学の礎を築いた天才たちの息吹にふれることができる著。

ノイマン・ゲーデル・チューリング (筑摩選書)
高橋昌一郎

わかるPython

 2021年、学校教育においてプログラミングの学習をどう進めるか、問われる年になるだろう。
 文部科学省のGIGAスクール構想の一環として、一人一台のノートパソコンやタブレット端末が配備された。これをどう生かすか、その活用の方向を見定めていく年にもなる。
 手元にパソコンがあるため、プログラミングを学ぶことで児童・生徒自身も活用の幅が広がってくるはずである。プログラミング教育の意味合いはより大きくなっていくであろう。

 現在、デスクトップパソコンで初学者はスクラッチなど「ヴィジュアル系」の言語で学ぶケースが増えている。しかし、本来は「言語」であるため、テキストベースのプログラミングをどこかで学ぶ必要があるだろう。どの言語で何を学ぶか、選択肢はあまりに多い。

 Python は、多くの言語の中でも書法がシンプルで、科学技術計算との親和性もよく、学習に適した言語のひとつと思われる。人工知能の開発に使われることもあり、応用にもつながる言語である。
 数学・理科との連携を見据えた点においても、たいへん優れた学習用プログラミング言語である。今後、教育における活用の幅が広がっていくと思われる。

 Python に関する書籍は様々あるが、「わかるPython」は、初心者にとって学びやすい本のひとつである。まず、レイアウトが工夫されており、見やすい。シンプルな例題をもとに文法が丁寧に説明されている。
 オブジェクト指向、ライブラリの活用までふれられ、実践の方向が見えてくる構成になっている。教育的配慮のよくなされた良書と感じた。

 ソフトウェアやネットワークの重要性が増していく現在、日本が国際社会に伍していくためにも、理数教育の充実は急務である。プログラミング学習は、その鍵を握っている。
 一人一台が実現するとき、いかに質の高い教育につなげていくか。本年はその可能性を追究し、教育の充実を図る正念場になるであろう。

わかるPython[決定版]

線形代数とその応用

 「抽象的になるということは、事柄によらず正しいと考えられているが、あまりにもそれを強調すれば真理ではなくなると思われる。」

 線形代数について、このように語るとすっと入ってくるのかと、目を開かされた本である。ガウスの消去法から始まり、線形空間に話が進んで行く。応用例もはさみこみながら、線形代数の本質が読者に伝わる構成になっている。
 この本には、現代数学社の雑誌に連載をするときに、じっくりと向き合った。そのため、開くたびに思いがこみ上げてくる。数学の伝え方と線形代数の奥深さを教えてくれた恩書である。
 高校数学では、行列が数学の教育課程からなくなり、ベクトルも隅に押しやられている感がある。しかし、発展しつつあるネットワークや人工知能は線形代数がなければ記述しえない。日常使っている表計算ソフトは行列のひとつの具体化であり、処理は当然線形代数がベースになっている。データを論拠に語る姿勢を培うためにも、線形代数の素養は不可欠であろう。理科を学ぶ上でもベクトルの知識があったほうがシンプルで分かりやすく捉えることができ、発展性もあるのではないか。
 ベクトルや行列の計算に早くから触れさせない教育課程は、日本の国力低下につながるのではと危惧を覚えずにはいられない。
 数学、とりわけ線形代数の重要性は、日々増している。数学教育の方向を考える上でも本書はたいへん示唆に富む。
 数学への思いを新たにさせてくれる、自らにとっては極めて重要な本。開くたびに影響を与えてくれる本を名著とよぶならば、まさしく数学における名著である。

線形代数とその応用

奇蹟がくれた数式

 インドの数学者ラマヌジャンの半生を描いた映画「奇蹟がくれた数式」。ケンブリッジ大学の数学者、ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディとの交流が胸をうつ。
 数学の描写がしっかりしており、たいへん興味深い。ラマヌジャンの神秘的とも感じられる数式には驚嘆する。静かな感動をよぶ天才数学者の自伝的映画。

奇蹟がくれた数式 [ デヴ・パテル ]

ドリーム

 1961年、依然として人種差別が残るアメリカ南部で、宇宙開発に携わる黒人女性3人を描いた映画「ドリーム」。
 当時アメリカ国内では、ソ連と熾烈な宇宙開発競争が行われていた。黒人女性キャサリンは、黒塗りの資料を渡されるなど同僚から迫害をうけるが、数学を駆使して正確な解答を導いていった。友人のドロシー、メアリーも同様の差別を受けながら、コンピュータ技術習得や資格取得に励み、自らの頭脳で地位を高めていく。
 宇宙飛行における数学がきちんと描かれている点が素晴らしい。見る者に勇気を与えてくれる感動作。

ドリーム (字幕版)

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

 著者は、2011年より人工知能が大学入試問題に挑戦するプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」を立ち上げる。通称「東ロボ」君は、膨大なデータと自然言語処理のプロセスを駆使して、偏差値を上げていく。しかし、そこには「読解力」と「常識」の壁がたちはだかった。
 人工知能の可能性と限界を、入試問題を解かせる過程で明らかにしていく。その経緯もたいへん興味深いが、プロジェクトが導いた現代の教育への提言は切実である。
 AIと共存しなければならない今後の社会における教育に多くの示唆を与える、明快で刺激的な書。

【2019年ビジネス書大賞 大賞】AI vs. 教科書が読めない子どもたち

ラプラスの魔女

 「ラプラスの魔女」は、SF的趣のあるミステリー小説。先を読まずにはいられないストーリーテリングに、科学的な記述がスパイスとなり東野圭吾ならではのサスペンスとなっている。
 フランスの数学者、ピエール=シモン・ラプラスの決定論「ラプラスの悪魔」をモチーフとした野心作。

ラプラスの魔女 (角川文庫)

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