映画監督 スタンリー・キューブリック

 「映画を作っているときは、時たま幸せだ。映画を作っていないときは間違いなく不幸せだ。」

 「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」「シャイニング」など、こだわり抜いた名作を世に送り出したスタンリー・キューブリック監督の本格的な評伝。
 写真に熱中した少年時代から始まり、映画を作り始めた頃のエピソードなども綴られている。「突撃」「スパルタカス」でのカーク・ダグラスとの出会いと決裂などもじっくりと記述されている。ピーター・セラーズ主演の「ロリータ」「博士の異常な愛情」も当時関わった人々からの丹念な取材で制作の雰囲気が浮かび上がる。
 圧巻は、「2001年宇宙の旅」の章。およそ全てのSF映画を見て、宇宙や科学に関するありとあらゆる本を読破し、NASAの関係者や原作者アーサー・C・クラークとの対話を重ね、イメージを膨らませていく。撮影の過程の記述も、実に興味深い。SF映画の不滅の金字塔の地位は、今後も不動であると納得できる。
 「時計じかけのオレンジ」「バリー・リンドン」「シャイニング」の撮影、美術、音楽へのこだわりが多彩なエピソードから伝わってくる。
 キューブリック監督の実像に迫る気迫に満ちた労作。

映画監督 スタンリー・キューブリック
ヴィンセント・ロブロット 浜野 保樹

レミーのおいしいレストラン

 「誰にでも料理はできる」

 料理好きのネズミが活躍するディズニー・アニメ「レミーのおいしいレストラン」。ブルーレイで見ると、ネズミの毛並み一本一本まではっきりとわかり、CGの表現力に感嘆する。ことに、料理や厨房の精緻な表現と、パリの街の美しさが素晴しい。
 前向きなメッセージをベースにした、友情、恋愛、陰謀、成長、奇跡、笑いあり涙あり、フルコースのアニメーション。

影武者

 武田信玄の負傷により影武者となった男の顛末を描く、黒澤明監督の映画「影武者」。どのシーンも美術的であり、大胆な色彩と構図で見る者に迫る。精悍な風貌の織田信長と、のほほんとした雰囲気の徳川家康など、キャラクターの個性も興味深かった。
 高校生の時、この作品を見た後輩が、「ラストに黒澤明のユーモアを感じた。」といった言葉がいまだに印象に残っている。当時、時代劇などに興味があまりなく自分から見に行くことはなかった。黒澤明の長い作品を映画館まで足を運んで見るとはたいした後輩だと感じたものだ。
 人間の業を多彩な俳優と精緻な美術で表現した絢爛たる戦国絵巻。

赤ひげ

 「赤ひげ」は、黒澤明監督のヒューマニズムあふれる映画。山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を原作とし、加山雄三演じる若き医員と三船敏郎演じる小石川養生所の責任者「赤ひげ」との関係を中心に、患者との様々なエピソードが連なる人間賛歌。
 名場面に満ちた作品だが、撮影手法の見事さも相まって、女優たちの演技が印象に残る。狂女を演じる香川京子の美しさゆえに鬼気迫るシーン、根岸明美の入魂の語り。桑野みゆきの持つはかなげな雰囲気なくしては、山崎努演じる佐八とのエピソードは成り立たなかったであろう。二木てるみ演じる少女も、後半のテーマを支えている。
 小石川養生所の門は、「博愛」を象徴するかのように、十字架を二つ連ねた形に見え、名優の背後で存在感を持つ。
 俳優の熱演とスタッフのこだわりとが結実した、日本映画の名作中の名作。

話の話

 「ノルシュテインの作品はすべて、いわば夢のフィルターをとおして世界をみているような気分にぼくらを誘い込む魔力をもっている。」

 1982年1月23日、日仏会館で「セロ弾きのゴーシュ」の完成試写会が行われた折りに、高畑勲監督、美術担当の椋尾篁氏などから挨拶があった。仕事の合間に、コツコツと作ってきたアニメーションへの思いが語られた。
 その試写会で併映された「霧につつまれたはりねずみ」は、「ゴーシュ」の高畑勲監督にとっても、ノルシュテイン作品との最初の出会いだった。

 ノルシュテインの作品である「話の話」は、古今のアニメーションの中でも抜きん出て芸術性が高く、難解な作品。赤ん坊を見つめる狼、ミノタウルスと少女の縄跳び、もの悲しいタンゴの調べで踊る男女から、ひと組ひと組パートナーが消え残される女性たち。繰返し現れるリンゴ。それらのシークエンスから、作者は何を語ろうとしているのか。
 高畑勲氏は、アニメージュ文庫「話の話」の中で、この作品を詳細に解説している。その文学的香気に満ちた解説から、「話の話」の意味と価値が見事に浮き上がる。
 「話の話」をさらに鑑賞したいと思うと同時に、一つの映像から、これだけ多くのことを読み取り、思索し、語ることができるのかと、アニメーション作家の想像力と表現力に脱帽した。

話の話 (アニメージュ文庫 (F‐006))
高畑 勲 アニメージュ編集部

ユーリー・ノルシュテイン作品集

泥の河

 宮本輝の小説を原作とした、小栗康平監督の映画「泥の河」。戦後間もない頃の大阪を舞台とし、川縁の食堂の少年と舟で暮らす少年少女とのひと夏の出会いと別れを繊細に描く。モノクロ映画の美しさと力強さを鮮明に感じさせてくれる。
 小栗康平監督とは何度かお話をさせていただいたことがある。その作品と同じくストイックな雰囲気を持った方であった。  

泥の河
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LEGO ムービー

 LEGOで組み立てられた世界を舞台とした映画「LEGO ムービー」。CGアニメであるが、作成には気の遠くなるような手間がかかったのではと感じさせられる。
 LEGOブロックという制約された造形美が懐かしくも不思議な感覚を与えてくれる。映画のパロディやオマージュも満載し、子どもだけでなく大人も楽しめる映画。

無職転生 23

 アニメ「無職転生」第23話は「目覚め、一歩、」。第1期の最終話。
 ルーデウスは失意の底に沈み、前世と同じく引きこもる。同時に、ルーデウスに関わった人々はそれぞれの歩みを始める。ルーデウスもやがて一歩を踏み出す。
 アニメーション技法と書法を駆使し、見る者をその世界に引きずり込む。転生ものの先駆的作品にして、動き、背景、音楽、声優陣の演技、すべてが一体となり職人芸的なこだわりが横溢し見事な世界を作り上げた名編。

無職転生
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無職転生 22

 アニメ「無職転生」第22話は「現実(ユメ)」。ルーデウスとエリスはようやく住んでいた土地に戻ってくるが…。
 アニメーションの書法を駆使して、心の交流を細やかに描写する。物語のトーンが今までと対照的に落ち着いた雰囲気になる。音楽が寄り添うように奏でられ、静かに心にしみる。
 主人公の胸中のゆれを繊細に描く秀逸な回。

無職転生
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無職転生 21

 アニメ「無職転生」第21話は「ターニングポイント2」。ルーデウス一行は、雪の吹きすさぶ山道で龍神・オルステッドに出会う。ルイジェルドは無視をしようとするが、ルーデウスは龍神に声をかけてしまい…。
 凄まじい緊迫感。今までカラフルであった世界が、一転、モノクロに近い世界になり、鮮烈な戦いが展開される。アニメの表現を先鋭的に突き詰めた回。

無職転生
Musyokutensei21

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