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タイタニック

 山に囲まれた群馬で生まれ育った身にとって、海はあこがれの対象である。北海道へ旅するときも、新潟まで北上し、そこからフェリーに乗って小樽まで行くというルートをとっている。これが一番料金も安く、車も運べ、そしてなにより海を満喫できる。フェリーが港を離れ、白い波を広げながら沖に出ていく。その波の先ある新潟の街を見ながらワインを飲むのは最高に気持ち良い。船の旅は海の広がりにも似た開放感を与えてくれ、また船内に入ると、陸から切り離されたことによる独特の情緒を感じることができる。
 ジェームズ・キャメロン監督の映画「タイタニック」で一番感動したのも、海に浮かぶタイタニック号の勇姿なのだ。映画の最初の方で、ディカプリオ演じる若い画家とその友人が船首のデッキで、タイタニックによる船出の喜びと自分たちの未来に向けての期待を手を広げて表すシーンがある。そこからカメラは上がっていき、タイタニックを映す俯瞰になり、甲板をずーっと移動して船尾からタイタニックを捉えるショットになる。実写では難しい映像で、コンピュータ・グラフィックスも使われているのだろうが、作り物とはとても思えないみごとなシーンであった。夕暮れ時の海も、夜のタイタニックのシルエットも本当に美しく、その航海にあこがれてしまう。そして船内に入れば、極めて精巧に再現されたタイタニックの豪華な内装が目を引く。ヒーローとヒロインの階級の差によって1等船室と3等船室の差をまざまざと見せていく演出もうまいなあと思った。この前半の描写が美しく見事だからこそ、後半の惨劇がより身に迫ってくるのだろう。
 氷山にあたってから沈むまでは、思ったより時間があった。そこでじっくりと描かれる様々な人間模様は、船という閉ざされた空間により、際だった密度を持っていた。その中でも心を打たれたのは、最後まで自らの職務を全うしようとする人々の姿だ。パニックに陥る人々を制止して女子供を救命ボートに乗せようとする船員、最後まで演奏を続けるクァルテットのメンバー、船と運命を共にする船長や設計者。
 この映画では、水が主役でもあった。冒頭で沈むタイタニックを描く海中の映像も見事であり、損傷した船を襲う海水の迫力も、エイリアン以上の恐怖を与えてくれる。ジェームズ・キャメロン監督は、ジュニア・カレッジで海洋生物学を専攻していたとのこと。「沈黙の世界」などで知られる海洋探検家のジャック・イヴ・クストーにも影響を受けたようだ。また、キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」にSF映画を作るきっかけを与えられた。大学では物理学を専攻しており、それら理系のセンスも、この映画のリアルさに貢献しているのかも知れない。
 主役のディカプリオは、繊細さと明るさを持った画家の卵という役柄が、ほんとうに輝くようにあてはまっていた。ケイト・ウィンスレットは、上流家庭のお嬢様なのに、情熱的な踊りを披露したりすぐに脱いでしまったりと、ずいぶんと活動的で強い役柄で、まあ、これくらいのアクがないとこの巨大な映画の中ではうもれてしまうのかなと思う。二人の恋愛にはいまひとつ感情移入できなかったが、それは自らのトシのせいだろう。それにしてもヒロインの婚約者を演じるビリー・ゼーンといったら、いきなりピストルをぶっぱなしてディカプリオを追い回したり後からもネチネチとつけまわして、そのしつこさは、まるで「ターミネーター」のようであった。
 史実に基づいた重みをもっているからこそ、この映画が圧倒的な迫力を持っているのだろう。「インディペンデンス・デイ」などのフィクションが、あまりにも軽く感じられる。どうせ多額のお金をつかうならば、このような歴史を緻密に再現したドラマをもっと作って欲しいように思う。

タイタニック (字幕版)

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