「ゼータ関数の自明でない零点の実数部はすべて1/2である。」
「素数に憑かれた人たち」は、数学における最も重要な未解決問題「リーマン予想」について、その内容と、解決に挑んだ人々の姿を描いた書。奇数章には数学の解説が記され、偶数章には背景となる歴史や伝記的な話題が述べられている。
現代数学においても難問であるリーマン予想を、平易に記述し、伝えようとする工夫が素晴しい。数学教育においても、参考になる点が多い。また、数学者が生きた時代背景やエピソードが興味深い。単なる数学の解説書ではない広がりがあり、読み物としても飽きさせない。近現代における数学者の列伝としての側面も持っている。
歴史の縦糸のひとつとして数学が息づいている様を見事に描いた本。
人類がいなくなった地球で、ゴミを収集する作業を一人続けるロボット、WALL・E(ウォーリー)の冒険を描く長編アニメーション”WALL・E/ウォーリー”。ピクサーとディズニーによる作品であり、個性豊かなキャラクターとよく練られたストーリーにより、素直に楽しめる。
ゴミの緻密な表現と、荒廃した都市のスケールの大きなCGに圧倒される。また、ロボット同士の交流では、最初は台詞がなく、仕草のみで表現しているところに、ピクサーCGの職人的なこだわりと確かな技術を感じる。
情感が静かに伝わるいい雰囲気の前半から、後半、一気にスピード感が増すストーリー展開も高揚感があって良い。
第81回アカデミー賞長編アニメ映画賞の他、数々の賞に輝く快作。
「天は自ら助くる者を助く」
サミュエル・スマイルズの世界的ロングセラー「自助論」。努力・勤勉・忍耐・独立・誠実の重要性を、膨大な例で語る著作。1858年、イギリスが世界最強の国であった時に書かれた本であり、文章に勢いを感じる。
日本では明治4年に中村正直の訳により「西国立志編」として出版され、100万部の超ベストセラーとなった。その独立と向上をうたった文章は明治の青年たちを奮い立たせ、近代化を推進する精神的な支柱のひとつとなった。
自助論は、150年の時を経てなお多くの人に読まれている。この本を「古い」とか、「あたりまえ」と一蹴するのは簡単である。しかし、本気で向き合って初めて見えるものが世の中にはたくさんある。
「そうだ、やさしいことばでこそ、人の心のなかに入っていけるのだ、むずかしい理論、高い思想、深い感動を、みんなにわかるやさしい、平らな、なめらかなことばで伝えていかなければ、文化はみんなのものにならないのだ」
98歳になるまで、国語教育に渾身で取り組み、多くの生徒たちを育てた大村はま。その教え子であり、晩年はまの仕事を支えた苅谷夏子氏が著した「評伝 大村はま」。
大村はまの人格が形成され、国語教師として実践を重ね、多くの生徒の生涯に影響を与える授業を創り上げる過程を丁寧に描いている。
日露戦争、関東大震災、太平洋戦争、戦後の混乱など、日本の近現代史を背景にしながら、大村はまの関わる人々や当時の学校の様子が生き生きと綴られ、物語としても惹き付けられ、飽くことがない。
はまの学びや実践から、教育に対する様々な考え方が具体的に記され、極めて示唆に富む。
平易な言葉で、するすると読むことができるが、実に多角的な視点で大村はまの人物と実践が語られ、内容はたいへんに深い。心にすんなりと言葉がはいってくる。この本そのものが、大村はまによる国語教育の成果とも言える。
多くの感動と真の敬愛に満ちた、優れた教育書。
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