夜と霧

 アウシュビッツの強制収容所という、死と隣り合わせの極限状況の中で、「夜と霧」の著者フランクルは人々の心理を冷静に見つめる。その真摯さが、人間に対する敬意と希望を与えてくれる。
 何度読んでも感銘を受け、自らの生きる意味を考えさせてくれる。
 人類の重き遺産ともいうべき、名著中の名著。

「科学者の楽園」をつくった男

 世界でも最高水準の研究を行っている日本が誇る研究機関「理化学研究所」。その波乱の歴史を、多くの科学者たちの足跡や歴史的背景を含めて描く本。
 ロンドンでの、夏目漱石とグルタミン酸ナトリウムの発見で知られる池田菊苗との出会いから始まり、第三代所長、大河内正敏のもとで科学研究が多彩に花開く過程が圧巻の筆致で語られる。
 長岡半太郎、本多光太郎、仁科芳雄、寺田寅彦、湯川秀樹、朝永振一郎など、多くの科学者たちの生涯にもふれられており、日本の近代科学史を俯瞰する書としてもたいへん興味深い。
 科学と社会との接点、科学と文学との関わりをも示唆した、知的興奮をよびさます重層的な著作。 

自助論

 「天は自ら助くる者を助く」

 サミュエル・スマイルズの世界的ロングセラー「自助論」。努力・勤勉・忍耐・独立・誠実の重要性を、膨大な例で語る著作。1858年、イギリスが世界最強の国であった時に書かれた本であり、文章に勢いを感じる。
 日本では明治4年に中村正直の訳により「西国立志編」として出版され、100万部の超ベストセラーとなった。その独立と向上をうたった文章は明治の青年たちを奮い立たせ、近代化を推進する精神的な支柱のひとつとなった。
 自助論は、150年の時を経てなお多くの人に読まれている。この本を「古い」とか、「あたりまえ」と一蹴するのは簡単である。しかし、本気で向き合って初めて見えるものが世の中にはたくさんある。

評伝 大村はま

 「そうだ、やさしいことばでこそ、人の心のなかに入っていけるのだ、むずかしい理論、高い思想、深い感動を、みんなにわかるやさしい、平らな、なめらかなことばで伝えていかなければ、文化はみんなのものにならないのだ」

 98歳になるまで、国語教育に渾身で取り組み、多くの生徒たちを育てた大村はま。その教え子であり、晩年はまの仕事を支えた苅谷夏子氏が著した「評伝 大村はま」。
 大村はまの人格が形成され、国語教師として実践を重ね、多くの生徒の生涯に影響を与える授業を創り上げる過程を丁寧に描いている。
 日露戦争、関東大震災、太平洋戦争、戦後の混乱など、日本の近現代史を背景にしながら、大村はまの関わる人々や当時の学校の様子が生き生きと綴られ、物語としても惹き付けられ、飽くことがない。
 はまの学びや実践から、教育に対する様々な考え方が具体的に記され、極めて示唆に富む。
 平易な言葉で、するすると読むことができるが、実に多角的な視点で大村はまの人物と実践が語られ、内容はたいへんに深い。心にすんなりと言葉がはいってくる。この本そのものが、大村はまによる国語教育の成果とも言える。
 多くの感動と真の敬愛に満ちた、優れた教育書。

評伝 大村はま ことばを育て 人を育て (単行本)
苅谷 夏子

荒鷲の要塞

 断崖絶壁の上にそそりたつ難攻不落の「鷲の城」。第二次大戦中、ドイツ軍要塞に潜入し、アメリカ軍の捕虜を救出する兵士たちの活躍を描く戦争スペクタクル。
 雪山にそびえる城は圧巻の存在感を放ち、その救出劇はこの上なくスリリングである。リチャード・バートン、クリント・イーストウッドらの演技も貫禄がある。アリステア・マクリーンの見事な脚本と、ブライアン・G・ハットン監督による重厚な映像が映画の品格を高めている。
 超一級の戦争アクション映画。

おこしやす

 京都の老舗旅館「柊家」で長きにわたり仲居を勤めた田口八重の回想録。
 柊家を訪れた三島由紀夫、川端康成、平沼騏一郎など著名人の接待に心を砕く筆者の姿勢が語られ、それにより客人が心を開き素顔をみせるくだりには感銘をおぼえる。特に、三島由紀夫が市ヶ谷駐屯地で決起する前に宿泊したときの描写は印象に残る。
 おもてなしの神髄を伝える書。

映画 ハゲタカ

 大手自動車メーカーの買収をめぐる映画「ハゲタカ」。NHK土曜ドラマ「ハゲタカ」の後日談となる作品。
 大森南朋演じるファンド・マネージャー鷲津と、中国資本をバックとしたファンドとの対決を描く。スリリングな展開のうちに、企業のあり方を語りかける。
 リアルな描写で、独特な緊迫感をもった映画。

踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!

 「踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!」は、織田裕二演じる青島刑事を主役とした劇場版3作目。湾岸警察署の引っ越しの最中におきる事件を描く。
 多くの登場人物が交錯する群像劇。引っ越しの慌ただしさでカオスの様相が増している。いかりや長介の姿がみられず、伊藤淳史が甥役を演じ残した言葉を伝え、その存在がしのばれる。
 多くの要素を詰め込んだ祝祭的なアクション・コメディ。

海賊とよばれた男(映画)

 百田尚樹の小説「海賊とよばれた男」を原作とする映画。岡田准一が主演し、20代から90代までの主人公を好演した。山崎貴監督による2016年公開映画。
 原作を手際よくまとめ、石油を商うことに情熱を傾けた主人公とその周囲の人々が生き生きと描かれている。特筆すべきは、戦前から戦後間もない頃の日本の背景で、当時の様子がよく再現されており見応えがある。
 困難に立ち向かう人々の姿を、歴史のうねりの中に描く意欲作。

海賊とよばれた男(映画)

海賊とよばれた男(下)

 敗戦後、全ての資産を失いながらも、石油の商いを復活させ会社の再生を果たす国岡鐵造。しかし、世界の石油は「メジャー」と呼ばれる巨大企業が牛耳っており、戦いは避けられなかった。
 国や国際社会を相手に、自らの信念と矜持をもって対峙する男の姿が感動を与える。特に、石油タンカー「日章丸」の実話に基づく物語には、胸を熱くさせられた。
 幾多の困難を乗り越えた真のリーダーたちの姿を描き、圧倒的存在感を放つ経済小説。

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