信長
大学1年生の時、目白の椿山荘で初めてのアルバイトをした。庭園の一角に張られた幕の内側で、接待に出された茶菓の器を洗う仕事であった。そのアルバイトで、当時、東京芸術大学の学生であったNさんに出会った。休憩時にタバコを吸うNさんの姿に大人の趣を感じたものだった。
翌年正月、Nさんから下宿に年賀状が届いた。なまはげの版画が添えてあった。年賀状の住所を頼りに、Nさんの練馬の下宿を訪ねた。自活をしながら絵の道を志しているNさんの姿勢には感銘を受けた。
大学を卒業して数年後、福井県にNさんを訪ねた。結婚して、3児の父となっておられた。そのNさんの部屋にあったのが、池上遼一の「信長」であった。
デザインの会社を友人たちと起こしたNさんが、この「信長」をたいへん評価していた。一読して、絵の緻密さに目を見張った。
翌日、Nさんの家族と、朝倉氏の居城があった一乗谷に出かけた。前日読んだ「信長」の朝倉氏の章が鮮明に残っていたため、たいへんに興味深かった。朝倉氏が栄華を誇り、小京都と呼ばれた史跡を散策し、独特の感興を味わった。
最近、十数年ぶりに、この「信長」と出会い、全巻を読み終えた。あらためて絵の緻密さ、凄さに感じ入った。武将の面構えのなんと見事なことか。クールで知的な信長のかっこいいこと。
同時に、Nさんの暖かいお人柄が思いおこされた。様々に感慨深い劇画である。
信長 1 黎明の巻
工藤 かずや 池上 遼一
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