ポアンカレ予想
「単連結な3次元閉多様体は3次元球面S3に同相である」
この100年間、数学者を苦しめてきた難問、ポアンカレ予想。それが最近、ロシアの数学者、ペレリマン博士によって証明された。しかし、ペレリマン博士は、フィールズ賞の栄誉を拒否し、隠遁してしまった。
NHKスペシャル「100年の難問はなぜ解けたのか~天才数学者 失踪の謎~」では、ポアンカレ予想の概要と、証明を果たしたペレリマン博士を追ったドキュメンタリー。
数学を扱った内容だが、ドラマチックな展開であり、たいへん興味深く見られた。ペレリマンの証明については、もう少し詳しく説明してほしかったが、数式を使わない解説では、これが限界なのだろう。
NHK総合テレビで10月22日に放送されたが、それに先駆けて10月1日にBSハイビジョンで放送されたときのタイトルは、『数学者はキノコ狩りの夢を見る〜ポアンカレ予想・100年の格闘〜』であった。これではまるで、映画「ブレードランナー」の原作である、フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のパロディである。「キノコ狩りの夢」と茶化すようなタイトルにするにはもったいないほど、惹き付けられる内容であった。
10月22日のNHKテレビ番組で、このポアンカレ予想の問題を見ました。私なりに考えてみました。ご意見をお寄せ下さい。
問題は、『地球からロケットに乗り、そのロケットに長い長いロープを付けて、宇宙のありとあらゆる所を旅行します。そして、旅行が終わり地球に辿り着いた時、手元にはロープの始まりと終わりの両端があります。そのロープの両端を持ったまま離さないで、ロープ全体を手元に引き寄せます。そして、ロープが全て手元に引き寄せられた時、この宇宙はおおむね丸いと言えるか。』という問題でした。宇宙が仮にドーナツ形であれば、ロープは穴に引っかかって引き寄せられません。
トポロジーでは、小さい差異には拘りません。形は自由に伸ばしたり縮めたり出来ます。その様に加工して同じ形になれば、同じ形と考えます。球体・円錐・三角錐・円柱・立方体も全て同じ形と考えます。この問題では、伸ばしたり縮めたりして球体になる形を『おおむね丸い形』と定義します。球体をいくら伸ばしたり縮めたりしても、穴が無いのでドーナツ形にはなりません。トポロジーでは球体とドーナツ形は異なる形と考えます。この問題は、球体以外の形で、内部にロープをありとあらゆるコースを辿って張り巡らせて、その両端を離さずに引っ張って全てを回収できる形があるかということを言っています。
物には色々な形が有ります。ドーナツ形も在れば、穴の2つ3つのドーナツ形や、ドーナツの途中に1つの結び目のある形、または2つ3つの結び目のある形と、さまざまな無限の種類の形があります。それらの形はいくら伸ばしたり縮めたりしても、球体にはならないので、『おおむね丸い形』ではないと言えます。
そこで、ロケットに付けたロープを長い円柱形であると考えてみましょう。ドーナツ形は、ロープ(=円柱形)の両端をくっ付けた形です。ドーナッツの途中に1つの結び目のある形は、ロープで1つの結び目を作り、両端をくっ付けた形です。穴が2つあるドーナツ形は、ドーナツ形を2つくっ付けた形です。この様に円柱形のロープをいろんな風にぐるぐると括ったり絡ませたりした上で、その両端をくっ付けることで、異なる形を無限に作ることが出来ます。そして、それら1つ1つを組み合わせることで、ありとあらゆる形を作り出せるのです。逆にいえば、物の取りうる形は、その様にして作り上げた形以外にはないと言えます。(ロープの途中をくっ付けることは、トポロジーでは両端をくっ付けること同じです。くっ付けたところから先を、縮めて無くしてしまえばいいのです。)
そのロープの絡ませ方で異なる形になり、その絡ませ方は無限で、両端をくっ付ければ、無限に異なる形を作ることが出来ます。しかし、ロープの両端をくっ付けない限り、そのロープは複雑に曲がりくねってはいますが、円柱形であり、伸ばしたり縮めたりすれば、結局球体になります。ロープの両端をくっ付けて初めて、球体とは別の形になるのです。
今度はそのロープ自体を、この問題の宇宙と考えて見ましょう。円柱のロープの中心に、一本の赤い紐があるとします。(その赤い紐は、この問題にあるロケットに取り付けたロープです。)円柱のロープの両端をくっ付けてしまうと、途中でどの様にぐるぐるとロープを絡ませても、中心にある赤い紐の両端を離さずには、赤い紐全てを引き寄せることは出来ません。(ホースの中に赤い紐を一本通して、そのホースを色々複雑に絡ませた上で、両方のホースの口をくっ付けたと考えてください。そうすると中の赤い紐の両端を持ったままで、全てを引き寄せることは不可能であることは、容易に分かります。)ロープの両端をくっ付けない時のみ(=円柱=球体である時のみ)、赤い紐の両端を離さずに引っ張って、赤い紐全てを手元に引き寄せられます。(円柱のホースと、中の赤い紐をどんどん縮めると、いくらホースが複雑に絡み合っていても、球体の中に一本の赤い紐がある状態になります。この形であれば、いくら赤い紐が複雑に絡まっていても、手元に手繰り寄せることが出来る事は、容易に分かります。)従って、赤い紐を全て手繰り寄せられた時は、ロープの両端はくっ付けられておらず、ロープは複雑に入り組んだ円柱形であり、縮めると球体に還元することが出来ます。即ちこのロープは『おおむね丸い形』であると言えます。この問題に則して言えば、宇宙は『おおむね丸い形』と言えます。
この問題では、ロケットに取り付けたロープそのものが、宇宙の形を表現しているのです。いろんな形を作るには、無限にあるコースの1つをロープ(=円柱形)を付けたロケットが辿り、両端をくっ付けることによって初めて、球体とは異なる形になり、辿るコースの違いによってそれぞれ異なる形になり、逆に両端をくっ付けないと球体のままであると、ポアンカレは言っているのです。
宇宙は、一本のロープ(=円柱形)で作る無限のさまざまな形1つ1つに、分割することが出来ます。(穴の2つあるドーナツ形は2つのドーナツ形に分けることが出来ます。)それら、1つ1つの無限のさまざまな形が組み合わさって、宇宙を構成していると考えられます。宇宙の構成部分にひとつでも、球体でない形(例えばドーナツ形)が含まれていると、この問題のロープは引き寄せられないことは、今までの説明で明らかです。
ポアンカレは色々な形を頭の中で作ろうとして、丸い形(=球体)を色々引き伸ばしたり縮めたり、括ったり絡ませたりしてみました。しかし、最後にその両端をくっ付けない限り、元の丸い形に還元されてしまう。くっ付けて初めて、丸い形でなくなる。無限のありとあらゆる形は、引き伸ばした後の絡ませ方次第で作ることが出来る。そのことに気づきました。それはまさに、この問題におけるロープのイメージそのもので、問題の中に答えを隠しているのです。
ちなみにロープ(=円柱形)の両端をくっつけるには両端の外面と外面、内面と内面を普通にくっ付ける方法と、両端の外面と内面、内面と外面をくっ付ける方法の2通りがあります。前者は一本のホースの切り口両面を向かい合わせにしてつなげる方法で、そうするとホースの中心に通した赤い紐を手繰り寄せられないことは単純に分かります。後者はホースの切り口の片方を裏返しにして後方に剥き、内面が外側に向いた状態の切り口に、もう片方のホースの切り口をつなげる方法です。ホースの側面が交差します。その時ホースは内側と外側が連続した輪になりますが、ホースの中心を通した赤い紐の両端を、ホースの外の空間で持つことになるだけで、同様に手繰り寄せられないことが容易に分かります。
投稿: catbird | 2007-11-02 21:56