傑作の森
作曲家・渡辺岳夫の肖像
作曲家・渡辺岳夫の肖像 ハイジ、ガンダムの音楽を作った男 (P-Vine Books)
「アルプスの少女ハイジ」「白い巨塔」など、テレビの黄金時代に数々の音楽を作曲しアニメやドラマに華やかな彩りを与えた渡辺岳夫。「作曲家・渡辺岳夫の肖像」は、その人物像を、親しく仕事をした人々や本人のエッセイから浮かび上がらせた本。
「キャンディ・キャンディ」など渡辺のヒット曲を数多く歌った堀江美都子は、音楽の魅力について本書の中で様々に語っている。
「人間の感情のひだにフッと触れるようなメロディーがあるんですよね。それを聴くといろんなことを想い出したりします。」
「私の得意なところも苦手なところもご存知の上で、ここはきっと上手く歌う、ここはちょっと苦手っていう箇所の入った曲を作ってくださいました。得意なところだけで作ってくれないんですよ。
歌っていうのは完璧に歌っちゃったら誰もいいって思ってくれないんだと。コンプレックスの部分があるから人間らしさがあって、みんなに愛される歌になるんだよ。完璧を求めるんじゃなくて人に感動を与えられる歌を歌うんだよと教わったんです。」
また、キューティーハニーなど、艶のある曲を歌った前川陽子は、歌っている様子から本人の孤独感など、渡辺に全部見抜かれていたと記されている。
渡辺はドラマの流れを大事にし、「白い巨塔」では「ここはあえて音楽を入れないようにしましょう」とプロデューサーの小林俊一によく話していたという。
多忙を極め仕事に疲れ果てていたとき、大切な「作曲ごころ」を取り戻したのは、「アルプスの少女ハイジ」であったという本人のエッセイは心にしみた。あの素晴らしいオープニングの音楽は、渡辺自身の復活の讃歌でもあった。
渡辺の仕事はテレビだけでなく、舞台の音楽や企業のイメージソングにまで及ぶ。その作曲数は優に一万を超える。本書の巻末に載っている渡辺が生み出した曲のリストは、一部であるにもかかわらずその膨大さに圧倒される。
昭和の文化、日本のメディアを支えた巨匠の姿を伝えてくれる貴重な書。
楽園のカンヴァス
原田マハによる「楽園のカンヴァス」は、アンリ・ルソーの名画「夢」をめぐる小説。現代と1900年代初頭のパリを交錯させながら、日曜画家と揶揄されたルソーの真の姿に迫っていく。ウッディ・アレンの映画「ミッドナイト・イン・パリ」を思わせる雰囲気もある。
絵画とそれに関わる人々をモチーフに、巧みなストーリーで読み手を魅了する傑作アート・ミステリー。
ワイルド・ソウル
垣根涼介の小説「ワイルド・ソウル」は、ブラジルに渉った日本人移民の悲劇をベースにしたサスペンス。上巻では、日本政府の募集に応じ、夢を求めて密林にわたったものの、絶望と貧困にさいなまれる人々姿と、その後の人々の様子が描かれる。
下巻においては、ペースが加速し怒濤のストーリーが繰り広げられる。
先の読めない展開、様々な人情の機微、そして、スピード感溢れる対決。ページをくるのがもどかしいほど面白い。
爽快な読後感をもつ、極上のエンターテイメント。
未来少年コナン
NHK初のテレビアニメシリーズ「未来少年コナン」。1978年に放送され、宮崎駿が実質的な監督をつとめていた。核戦争後に多くの土地が海面下に没した世界に残された人々の物語。
冒険活劇の楽しさとよく作り込まれたSFの知的な魅力、そして、主人公たちの溢れんばかりの躍動感。1話1話すべてが輝いている。
重いテーマをもちつつも、明るさと希望が描かれている。表現手法もこだわりと工夫に満ちており、アニメーションの素晴らしさが全てつまっている。
この作品を初めて見る人は、本当に幸せだと思う。まさに、日本アニメーションの不朽の名作。
クーベリック 幻想交響曲
クーベリック指揮、バイエルン放送交響楽団によるベルリオーズ「幻想交響曲」には、意外性に心打たれた。洗練された音色と不気味な前兆を持った第1楽章から引き込まれ、第3楽章にときおり現れるおろどおどろしさにはっとさせられ、第4楽章の燃焼度の高さに圧倒された。
そして、第5楽章、これぞ、この演奏の真骨頂。いままでの楽章が伏線であったかのように、一気に密度の濃い世界に投げ込まれる。ベルリオーズの情念と世界観をこれほど豊に表現した演奏がかつてあっただろうか。極めて優れた録音のせいもあり、オーケストラがひとつとなり押し寄せる感じを覚える。幻想交響曲とは、こんなすごい曲だったのか!
「幻想交響曲」の新たな魅力を伝える、渾身の名演。
カザルス ブランデンブルク協奏曲
バッハ:管弦楽組曲(全4曲)/ブランデンブルク協奏曲(全6曲)
パブロ・カザルス指揮、マールボロ音楽祭管弦楽団演奏のバッハ作曲ブランデンブルク協奏曲を久しぶりに聴いた。なんと躍動感にあふれたバッハなのだろう。奏者が演奏することに喜びを感じ生き生きとしていることが伝わってくる。
個人的に気に入っているのは、第3番と第5番。第3番の明るく優雅な雰囲気は、広やかな気分になれる。第5番の喜びに溢れたリズミカルな演奏には、思わずうきうきとしてくる。チェンバロでなく、ピアノで演奏されており、その情感をもったふくらみのある曲調は、ロマン派のピアノ協奏曲のようだ。
新たに気づいたのは、第6番の素晴らしさだ。特に第2楽章の豊かな表現は、惻々と胸に迫ってくる。
響け!ブラバン・ヒーローズ
「ウルトラマン・シリーズ」「マジンガーZ」「ガンダム」など、特撮やアニメ・ヒーローのテーマ曲を、海上自衛隊東京音楽隊が演奏するCD。正義と平和を愛する心に共感するためか、とても熱い演奏である。いやあ、素晴らしい。
特に、海上自衛隊の歌姫、三宅由佳莉さんが加わる曲がいい。「GO!GO!トリトン」の正当な歌唱、「キューティーハニー」の少し恥ずかしい感が伝わる声、「ベルサイユのばら」の耳朶に残る真っ直ぐな表現。海上自衛隊の制服に身をまとい、実直に規律正しく歌い上げている。
アニメファン必聴のアルバム。
シェフ 三ツ星フードトラック始めました
ロサンゼルスのレストランで料理長を務めるカールは、評論家の酷評に反論し、その映像がネットで炎上する。解雇されたカールは、古いトラックでサンドイッチの移動販売を行う。
冒頭の包丁さばきから惹き付けられる。随所に出てくる料理のうまそうなこと。トラックを手に入れてからは、ロードムービーの趣きとなるが、同行する子役がとても良い。
監督・脚本・製作・主演を務めるジョン・ファヴローの才気を感じる。料理の素晴らしさを堪能させてくれる良作。
インターステラー
「インターステラー」は、クリストファー・ノーラン監督によるSF映画。
異常気象、植物の枯死などにより、人類は危機を迎えていた。元宇宙飛行士でありトウモロコシ農場を営む主人公は、娘の部屋での異変をきっかけに宇宙に旅立つことになる。
ノーラン監督によるリアリティの追究により、迫真の映像が生み出されている。とりわけ、科学的な知見を取り入れた宇宙の映像が圧巻。ワームホール、ブラックホールなど理論物理学者キップ・ソーンの監修により緻密な計算を基に表現されている。
第87回アカデミー賞視覚効果賞に輝くハードSF映画の傑作。
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