Mr.インクレディブル
「脚本は技巧ではない、素材にたいする作者の魅力のもち方なんだ、ということは夢忘れてはならない」-山田洋次監督がその著書「映画をつくる」で述べた言葉である。ディズニーの長編CG映画、「Mr.インクレディブル」は、まさしく作り手が素材に大いなる魅力を感じていることが伝わってくる映画だった。
かつて悪と戦ったヒーローが、一般市民として暮らすことを余儀なくされてからの日々と復権を描く作品である。「スーパーマン」「バットマン」などのヒーロー物と、「007シリーズ」「ミッション・インポッシブル」などのスパイ物に対するオマージュでもある。CG(コンピュータ・グラフィックス)という自在な手段で、スーパーヒーローの活躍が思う存分表現されている。
「トイ・ストーリー」も、意思を持ったおもちゃという素材が、CGという表現手段にマッチしていた。ところが、映画「ファイナルファンタジー」は、CGの技巧のみを追い求めて、平板な脚本で、なぜか画像も話も終始暗く、極めて資源がもったいない作品であった。
「Mr.インクレディブル」は、とにかく最初から最後まで楽しめる作品であった。特にヒーローのスーツを作るデザイナーのキャラクターが引き立っていた。こういう縁の下の力持ち的な存在が描かれるのは好きだ。しかも、主人公を食ってしまうほど個性的である。また、背景のCGは緻密で、画面の色彩設定も嫌みがない。脚本も相当練ったのであろう。そういった苦労を感じさせないほど、自然と話に引込まれた。
「作者がじつに気楽に、それこそ小鳥がさえずるように軽やかにつくっている様子が想像できて、観客も気持ちよくなってしまう、そんな作品をつくることこそほんとうの苦労がある」-これも山田洋次監督の言葉だが、このCGの映画もフーテンの寅さんと一脈通じるところがあるのではないか。
Mr.インクレディブル
ジョン・ウォーカー, 三浦友和, 渡辺美佐, ジェイソン・リー
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