高校数学で解く社会問題
正社員とフリーターの収入格差は生涯を通すとどのくらいになるか。松枯れをどのようにして防ぐのか。地震のエネルギーはどのように計算されるのか。本書は、このような社会問題に関わる場面で、高校数学がどのように使われているかを記した書である。
「高校学校においては、目標について、高等学校における数学学習の意義や有用性を一層重視し改善する。」
平成20年1月17日に示された中央教育審議会答申「学習指導要領等の改善について」において、高等学校数学の項では、このように記述されている。
しかし、現在の高校数学の教科書では、なぜか社会で数学が応用される例はほとんどあげら れていない。 三角関数、微分積分、ベクトルと行列などは、社会科学でもごくあたりまえに使われている。その一端を示すだけで、数学への興味を持つ生徒の割合は増えると思う。しかし、現状では、教科書に応用面を書くと、まるで純血が汚されると恐れているかのように、極力記述を避けているように感じてしまう。
「高校数学で解く社会問題」では、様々な立場の専門家が、高校数学の使われ方を記し「有用性」を示している 。ただ、もう少し数式を載せてもよいのではと感じた。専門的な話は興味深いのだが、数学が適用される数式の例はもっとあったほうが、本書の趣旨にあうのではないか。
その点、第一章の「学歴社会の収入格差を考える 」では式を用いて的確な説明がなされていた。生涯賃金を計算するにあたり、具体的なデータから3次関数に補完し、積分で求め る説明はたいへん分かりやすい。しかも、EXCELを用いて実際に計算する方法が示 されている点がよい。このように、社会問題を自らの手で計算する様々な場面を設けることで、数学を理解する層が厚みを増すであろう。
別の面から捉えると、社会問題で使われている数学を整理することで、高校数学に求められている内容がより明確になるのではないか。例えば、最小二乗法などは、どの分野でも用いられる手法であり、高校数学のひとつの到達点として位置づけることもできる。
「数学が社会に生きている。」
生徒がそう実感できる高校数学になってほしいと切に願っている。
こんなに役立つ数学入門―高校数学で解く社会問題 (ちくま新書 653)
広田 照幸 川西 琢也
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