教えることの復権
『この単元で教わったいちばん大事なことは、こつこつとした作業を確実に誠実に重ねていくと、ちゃんとある程度の仕事ができるということだった。…… このつつましくて誠実な仕事のこなし方は、国語という教科に限定されるものではなかった。学校の中にさえ限定されない。』
「教えることの復権」は、大村はまの授業を通じ、教師の「教えること」を見つめ直した本。大村はまの教え子であった苅谷夏子が、その授業から得たものを伝える記述には心を揺さぶられた。優れた実践が、学ぶ側から実に豊かに描かれている。
『学校という場は、すでにできあがった知識体系を、疑う余地も残さず、あたりまえの顔をして教えてしまう。立派な知識のお城を前に、生徒は萎縮した未熟な存在にならざるをえないところがある。ところが、この「ことば」という平易な、しかしやっかいなことばの分類をしてみたことで、私は、しゃんと背筋が伸びた気がしたわけだ。過去に知的遺産を築いた人々と同等の資格を持って、堂々と勉強を進める楽しさを教えられたのかもしれない。』
本書の後半では、苅谷剛彦が大村はまの授業実践を基にして、「教えること」の意味を論じている。
『大村の実践が示す「教えることの責任」とは、教師自身が自分自身の実践をどれだけ冷徹な目で誠実にチェックできるかどうかにかかっている。それも、授業の出来不出来というだけでなく、生徒たちにどのような具体的な力をつけることができたのかを、突き放して見ることができるかどうかなのだ。』
なぜ子どもたちを教えるのか。教育の根元的な問いかけを見つめ直すきっかけとなる本。
教えることの復権 (ちくま新書)
大村 はま 苅谷 夏子 苅谷 剛彦
コメント