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明治の人物誌 星新一

 ショート・ショートの名手、星新一が、父と関わりのあった明治の人物を描いた評伝。「中村正直」「野口英世」「岩下清周」「伊藤博文」「新渡戸稲造」「エジソン」「後藤猛太郎」「花井卓蔵」「後藤新平」「杉山茂丸」の10人の生涯が、父との交流も含めて語られる。
 簡潔な文章で平易に語られているが、密度が実に濃い。一編一編が、長編一つ分の内容を持つ。しかも、父親との交流や関わりのあった人たちであるためか、冷静な筆致の中にも暖かみが感じられ、血の通った文章になっている。
 野口英世が日本に凱旋する費用を出したのも、星製薬の社長であった星一であるなど、通常の伝記にないエピソードも書かれている。

 中村正直の章では、その訳書「西国立志編」(スマイルズの「自助論」)にふれ、次のように記している。
 「やむなく働かされてきた日本人の勤勉性を、自発的な勤勉性へと切り換える役目をも果たした。明治以降の近代化の歩みの引金となったのが、この『西国立志編』だと言っていいと思う。これがなかったら、産業がつぎつぎに興ったかどうか。」
 このように、さらりとした言葉で本質をすくい上げる。

 どの人物伝からも、明治時代の人々のスケールの大きさ、考え方の柔軟さ、寛やかさ、破天荒さなどに圧倒される。気骨のある精神をスマートな文体で示した、読みやすくも含蓄のある本。

明治の人物誌 (新潮文庫)
星 新一
4101098506

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