一夢庵風流記
隆慶一郎の小説「一夢庵風流記」。時代小説でカタルシスが得られる本といえば、真っ先にこれを推したい。
戦国末期、天下の傾奇者(かぶきもの)として知られた前田慶次郎の一代記である。その生き様は自由闊達、苛烈にして粋、ほれぼれするほど見事である。
慶次郎は剛毅な戦びとと風流な雅人の両面を備え、付け狙う殺し屋すらもその魅力に屈してしまうほどである。主人公はもちろん、とりまく人々の造形描写と物語への配し方が巧みで、どのエピソードも、こころにぐっと迫ってくる。
何より、緩急自在の文章が素晴らしい。武人を描いているのに、爽やかさの残るユーモアを感じるのは、フランス文学に造詣が深い著者ならではの味わいか。
奔放にして優雅、痛快無比の歴史小説。
一夢庵風流記 (集英社文庫)
隆 慶一郎
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