蜜蜂と遠雷
「ああ、我々は、自分をこの音楽家に託してよいのだ。」
久しぶりに、読み進むのがもったいない、読み終わりたくないと思える小説に出会えた。ピアノコンクールを舞台に、人間模様と音楽を描いた恩田陸の小説「蜜蜂と遠雷」である。
養蜂家の少年、元プロであった少女、アメリカで実力を磨いた多国籍の系譜をもつ青年、音楽家への夢が捨てられない会社員など、参加者が織りなす演奏を軸に、それらを取り巻く人々や審査員など様々な視点でコンクールの進行を紡いでゆく。
ピアノ演奏の魅力をここまで具体的に表現した作品があっただろうか。登場人物それぞれが、曲から受ける心象を記していく。それにより、ピアノが奏でる音楽が表現するものを豊かに描き出していく。
音楽への深い愛情が、繊細な言葉によって伝わってくる。同時に、人々の生き様が、音楽によって見事に浮き彫りにされていくのだ。登場人物に共感し、何度涙を溢れさせたことだろうか。
音楽の素晴らしさを人々のハーモニーで奏で、いつまでもその調べに浸っていたいと感じさせる素敵な小説。
コメント