教えるということ 大村 はま

 「私は、子どもがかわいいのであれば、子どもをとにかく少しでもよくしていける、教師という職業人としての技術、専門職としての実力をもつことだ、子どもをほんとうにかわいがる、幸せにする方法は、そのほかにはないと思います。」

 大村はまが、富山県新規採用小学校教員にむけて行った講演「教えるということ」を始め、「教師の仕事」「教室に魅力を」「若いときにしておいてよかったと思うこと」の4編の講演を収めた書。優しい言葉で語られるが、そこには強烈なプロ意識と、教える者としての使命感に溢れている。教育の原点を改めて思い起こさせてくれる凛然とした書。

南極のペンギン

 高倉健が映画撮影で訪れた土地で感じたことを綴ったエッセイを、自ら朗読するCD。いっさい奇をてらうことをせず、素直に風景や心情が語られる。素朴なだけに、ストレートにその優しさが伝わる。それは、「アフリカの少年」「北極のインド人」「ふるさとのおかあさん」「奄美の画家と少女」というエッセイのタイトルにも表れている。
 木訥に語られる素直な想いを聴いていると、俳優高倉健の魅力は、まっすぐに役にまたその人生に向き合っていることでにじみ出ているのだと感じる。
 宇崎竜童の音楽も語りに寄り添い、よい味わいをだしている。

荒鷲の要塞

 断崖絶壁の上にそそりたつ難攻不落の「鷲の城」。第二次大戦中、ドイツ軍要塞に潜入し、アメリカ軍の捕虜を救出する兵士たちの活躍を描く戦争スペクタクル。
 雪山にそびえる城は圧巻の存在感を放ち、その救出劇はこの上なくスリリングである。リチャード・バートン、クリント・イーストウッドらの演技も貫禄がある。アリステア・マクリーンの見事な脚本と、ブライアン・G・ハットン監督による重厚な映像が映画の品格を高めている。
 超一級の戦争アクション映画。

影武者

 武田信玄の負傷により影武者となった男の顛末を描く、黒澤明監督の映画「影武者」。どのシーンも美術的であり、大胆な色彩と構図で見る者に迫る。精悍な風貌の織田信長と、のほほんとした雰囲気の徳川家康など、キャラクターの個性も興味深かった。
 高校生の時、この作品を見た後輩が、「ラストに黒澤明のユーモアを感じた。」といった言葉がいまだに印象に残っている。当時、時代劇などに興味があまりなく自分から見に行くことはなかった。黒澤明の長い作品を映画館まで足を運んで見るとはたいした後輩だと感じたものだ。
 人間の業を多彩な俳優と精緻な美術で表現した絢爛たる戦国絵巻。

隠し砦の三悪人

 「隠し砦の三悪人」は、1958年公開の、黒澤明監督による映画。戦国時代、敵陣地となった隠し砦からの逃走を描く作品だが、次々とピンチを切り抜けるシナリオを基に、迫力ある映像が展開される。
 三船敏郎の体当たりの演技が、この上ない躍動感を与えている。凛とした雪姫には、今の女優には見いだせない個性を感じる。
 ジョージ・ルーカスの「スターウォーズ」にも多大な影響を与えた、極上のエンターテイメント映画。

赤ひげ

 「赤ひげ」は、黒澤明監督のヒューマニズムあふれる映画。山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を原作とし、加山雄三演じる若き医員と三船敏郎演じる小石川養生所の責任者「赤ひげ」との関係を中心に、患者との様々なエピソードが連なる人間賛歌。
 名場面に満ちた作品だが、撮影手法の見事さも相まって、女優たちの演技が印象に残る。狂女を演じる香川京子の美しさゆえに鬼気迫るシーン、根岸明美の入魂の語り。桑野みゆきの持つはかなげな雰囲気なくしては、山崎努演じる佐八とのエピソードは成り立たなかったであろう。二木てるみ演じる少女も、後半のテーマを支えている。
 小石川養生所の門は、「博愛」を象徴するかのように、十字架を二つ連ねた形に見え、名優の背後で存在感を持つ。
 俳優の熱演とスタッフのこだわりとが結実した、日本映画の名作中の名作。

少林サッカー

 「ありえねえ~」と思うシーン満載の香港映画「少林サッカー」。しかし、この映画の真価は、筋の通った脚本にある。徐々にヴォルテージを高めていき、観客の心理をつかむストーリーは並はずれた力を持つ。理屈抜きに楽しめる快作。

名探偵の掟

 「密室殺人」「閉ざされた空間の殺人」「童謡殺人」「時刻表トリック」「ダイイングメッセージ」など、推理小説の「お約束」をネタに、名探偵とダメ警部が掛け合いを演じる東野圭吾の連作ミステリー。力の抜けた文章で、推理小説の登場人物の悲哀をも感じさせるシニカルなメッセージに溢れた作品。
 パロディであり、まったく期待しないで読んだほうがいいが、「アンフェアの見本」などなかなか侮れない短編もある。

矢野顕子 Piano Nightly

 矢野顕子の弾き語りによる「Piano Nightly」には、自然と引き込まれる。ピアノ一音一音に思いが込められ、素晴らしい。文部省唱歌「椰子の実」すら、前奏が流れた瞬間から完全に矢野顕子の世界になっている。大事な人に語りかけるように奏でられた珠玉の15曲。

おこしやす

 京都の老舗旅館「柊家」で長きにわたり仲居を勤めた田口八重の回想録。
 柊家を訪れた三島由紀夫、川端康成、平沼騏一郎など著名人の接待に心を砕く筆者の姿勢が語られ、それにより客人が心を開き素顔をみせるくだりには感銘をおぼえる。特に、三島由紀夫が市ヶ谷駐屯地で決起する前に宿泊したときの描写は印象に残る。
 おもてなしの神髄を伝える書。

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