血槍富士
「製作 大川博」から始まる、黒をバックに白く書かれた冒頭のスタッフ・ロールから引き込まれた。そこからすでに雰囲気があるのだ。小杉太一郎のモダンな音楽が、その期待をさらに煽る。
映像は富士を背景にした街道がまず写される。主人とお付きの2人、後ろからついてゆく男の子、母と娘の旅芸人、馬上の女とその下の暗い顔の父、胡散臭く懐手をして歩く男など、街道を行く人々をアップでなぞってゆく。温厚そうな主人について槍を持つ男を、片岡千恵蔵が演じている。その最初の場面から、絵に力が感じられ、最後まで目が離せなかった。撮影も見事で、ごく自然に東海道を旅している気分になる。川の渡し舟、大名行列、旅籠、祭りなど、その時代がたいへん生き生きと活写されている。
台詞に味わいがあり、人間模様が実に巧みに描かれている。のんびりとした道中から、様々なドラマを経てラストの迫力ある立ち回りまで、一気に見せてくれる。
昭和30年公開の映画であるが、その映像と物語の魅力は今も実に新鮮である。内田吐夢監督の真骨頂。
血槍富士 [DVD]
井上金太郎
コメント