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坂の上の雲

 2011年、NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」が完結し、放送されたことは日本映像界のエポックであった。日露戦争を重層的に描いた司馬遼太郎の原作を、松山出身の秋山好古、真之、松岡子規の3名を軸としたドラマとしてまとめ上げた。明治期の人々のひたむきで、傲らずに凛と生きる姿と、国家をあげて行った膨大な準備と苦労の末に得た勝利からは、政治や経済で混迷を続ける現代の日本に一条の希望を与えてくれた。

 原作を改めて読み直し、感銘を新たにした。ことに、あとがきからは司馬遼太郎の思いが伝わり、感慨深かった。司馬遼太郎は40代のほとんど全てをこの小説のために費やした。膨大な資料の収集はもとより、当時を知る多くの人々から直接話を聴いた。ロシア語を学び、原典にあたってロシア側の状勢やバルチック艦隊の内情理解に努めた。準備に5年、執筆にさらに5年を費やし、ようやくこの労作は世に出たのである。

 自らを振り返れば、40代最後を数えるこの年に、何を成しえただろうかと自問すれば、司馬遼太郎と比較するのがあまりに失礼だとすら思うほど矮小な事跡しか思い当たらない。素晴らしい作品には多く出会えたので、それを紹介する場を設け継続していることが自ら密かに誇れる唯一のことかもしれない。せめては、自らの感度を上げアンテナを掲げて良き作品を伝えることが、わずかながら自分にできることかと思う年末であった。
 一朶の白い雲は青い天に今日もかがやいている。

坂の上の雲〈8〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
4167105837

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