犬塚勉展
「私は、自然への愛に導かれて生きてきた。」
高崎市美術館で開催された「犬塚勉展 永遠の光、一瞬の風。」を家族で見に行く。
草の一本一本まで精密に描き、写実的で独特の空気感を伝える「ひぐらしの鳴く」がまず目を引く。写真とみまごうばかりの絵であるが、単なるリアリティではなく、様々なタッチで自然の営みを描く喜びが伝わってくる。
小学校や中学校で美術を教えつつ、終業後に写生に出かけるため、初期の作品には夕景や夜景が多く、様々な方法を模索している様子がうかがえる。
やがて、面相筆で草むらをその密度のままに描写する技法を得て、「梅雨の晴れ間」「6月の栗の木の下より」などの作品で光と影がつくる自然そのものの美をとどめることに専心する。
「縦走路」は、夏山の晴れ晴れとした景色を描いた見事な作品で、特に感銘をうける。「坂の上の雲」のエンディングを思い出した。
その後、切り株やブナなど木の生命力で自然を表現する創作に没頭する。「縞リスの食卓」「山の暮らし」「ブナ」など、木の稠密な描写から抒情と自然の尊厳が伝わってくる。
晩年、渓谷のイメージに魅せられ、岩と渓流の響き合いを描く作風になっていく。背景に抽象性が加わった「深く暗き渓谷の入り口」が絶筆となる。
「もう一度水を見てくる。」と言い残し谷川岳に向かい、悪天候で遭難。38歳の若さであった。
光と空気の織りなす自然の一瞬を定着させた絵は、いつまでもその前に佇んでいたいと思わせる魅力をもっている。
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