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辛酸

 足尾鉱毒事件で国家と対峙した田中正造、その晩年と、死後その遺志を継いだ人々を描く、城山三郎の小説「辛酸」。
 この小説では、衆議院議員として華々しく活躍した田中正造ではなく、晩年、全ての財産や名誉を投げ打って鉱毒被害民と共に訴訟を続ける正造の姿を描いている。
 この作品が発表されたのは、昭和36年、まだ公害という言葉が耳慣れない時代であった。その当時、若干34歳で日本初の公害問題を取り上げ鮮やかに活写した城山三郎に感嘆を禁じ得ない。田中正造と苦労を共にする被害民の若者の視点から描くことにより、田中を客観的に捉えると同時に、被害の悲惨さも浮き彫りにされている。
 逆境の渦中にありながら、「辛酸入佳境」と書く田中正造のすさまじい生き様、そしてそれを受け継ぐ人々の苛酷な現実。淡々とした筆運びにもかかわらず、ずしっと重みのある本であった。

辛酸―田中正造と足尾鉱毒事件
城山 三郎

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