キングダム

 春秋戦国時代を舞台とした原泰久の漫画を原作とする映画「キングダム」。戦災孤児である信と、弟に王宮を追われた政との出会いから始まる物語。
 原作が素晴らしいだけに、これを実写化して大丈夫かと思っていた。「模倣犯」など、原作をグダグダにした映画は少なくない。
 しかし、スタッフの熱意と俳優の力量で、この映画はなかなかの力作になっていた。スタッフの原作へのリスペクトが感じられ、心地良く見ることができた。カットされるのではと思っていたムタとのシーンもあり、2時間びっちり詰まった物語になっていた。
 原作の魅力をきちんと伝える、スケールの大きな歴史アクション。

キングダム(映画)

十二人の手紙

 井上ひさしの短編小説集「十二人の手紙」。ほとんどの文が手紙の体裁をとり、すっと入ってくる。
 各短編が、それぞれ人生を切り取った滋味溢れる内容をもっている。上質なミステリの趣きもあり、それぞれが味わい深い。
 井上ひさしが文学の至芸をみせる傑作オムニバス。

十二人の手紙 (中公文庫)

ニムロッド

 上田岳弘の小説「ニムロッド」。サーバー管理に携わり、仮想通貨の発掘を始めた「僕」のもとに、元同僚の荷室からダメな飛行機のコレクションや小説が送られてくる。
 ネット社会における人間の存在を、ドライな文体で描いた芥川賞受賞作。

【第160回 芥川賞受賞作】ニムロッド

銀の匙

「夢をもつということは同時に、現実との闘いを覚悟するということだと思うよ。」

 「銀の匙」は、荒川弘の漫画を原作とするアニメ。農業高校を舞台とした青春グラフィティ。
 受験に失敗し、家族から逃れるように大蝦夷農業高等学校に進学した八軒。志をもつ多くの仲間に引け目を感じながらも、自ら体験を重ね成長を遂げていく。
 農業に携わる人々に寄り添い、思いと現実を描く深みのあるアニメ。

1 エゾノ-へ、ようこそ

低レ研

 「低レ研」-人間の尊厳に対する真摯な挑戦!

 書名とサブタイトルから、何が書いてあるのかまるで想像できないこの本は、1993年に雑誌アスキーに連載され、多くの人に影響を与えた(らしい)エッセイである。そうそう、タイトルは「低レベルソフトウェア研究所」の略である。で、だいたい本の内容はわかっただろうか?

 このエッセイが連載されていた当時は、まだウィンドウズもなく、それだけに、パソコンの発達にまだワクワクできる時代だった。個人が開設するBBS、パソコン通信が華やかなりし頃で、ソフトウェア以上にパソコンのハードウェアに関心を持つ人も多かった。そんな背景で書かれいるが、今読んでも実に楽しめる。

 個人的には、「追及!パソコンライター達の午後」が気に入っている。そば屋の評価をライターがする話だが、ほんとに腹を抱えて笑った。

 作者の丹羽信夫さんは、パソコンの本を数多く著しており、今でも膨大な量の情報発信をしている。

 1995年以前のパソコン事情を見てきた人には、手に入れば、是非読んでいただきたい本である。あの時代の熱気と楽しさがよみがえってくるだろう。

低レ研―人間の尊厳に対する真摯な挑戦!
丹羽 信夫

マスカレード・ホテル

 東野圭吾の小説「マスカレード・ホテル」を原作とする映画。高級ホテルを舞台に、予告殺人に立ち向かう人々を描く。
 フロントスタッフとしてホテルで潜入捜査にあたる刑事を木村拓哉が演じる。刑事を指導するベテランスタッフに長澤まさみ。この二人のかけあいが、緊迫感のあるドラマに絶妙の味を与えてくれる。
 舞台はほとんどホテル内部であるが、大胆なカメラワークを駆使し単調さを感じさせない。
 ホテルに集う様々な人々を多彩な俳優陣が演じる、華やかなエンターテイメント作品。  

マスカレード・ホテル

麒麟がくる 16

 NHK大河ドラマ「麒麟がくる」第十六回は、「大きな国」。斎藤道三と長男高政との対立は深まり、美濃の国を二分する戦になろうとしていた。明智光秀は美濃より織田信長に嫁いだ帰蝶のもとを訪れ、戦の回避を探るが、すげなく追い返される。一方、高政は光秀に国替えをほのめかす。
 本能寺の変においても、光秀の国替えが遠因のひとつとなっていた。信長・秀吉・家康の三傑の若き姿を見せつつ、光秀の苦悩多き立場をじわじわと描く。麒麟はどうくるのか。
 多くの伏線がからみあったこの大河を、ぜひきっちりと最後まで作り上げてほしいと切に願う。

麒麟がくる 前編 (NHK大河ドラマ・ガイド)

ミッキーマウスの憂鬱

 松岡圭祐の小説「ミッキーマウスの憂鬱」は、東京ディズニーランドを舞台にした小説。
 ディズニーにあこがれ、準社員となった若者の成長を描く。夢の王国を支える人々の思惑と矜持が渦巻くドラマ。バックステージのリアルな描写が興味深い青春物語。

ミッキーマウスの憂鬱 (新潮文庫)

カラマーゾフの兄弟 (まんが学術文庫)

 ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を漫画化した作品。1860年代、農奴解放令が出されて間もないロシアを舞台に、地主フョードルの家族をめぐる物語。純真な心根をもち、神に仕える三男アリョーシャ、冷徹なインテリの次男イワン、奔放で一本気な元軍人の長男ミーチャの三兄弟を軸に、様々な人物がからむ群像劇。その言動の内に、人々の生きる意味や神の存在が問いかけられる。 
 長大な原作は、大学のときに読みかなりの期間、おそらく2ヶ月以上がかかった。しかし、漫画ではほんのわずかな時間で読めてしまう。しかし、読後感はそれほど変わらないように感じた。エッセンスがうまく詰め込まれているからであろう。
 新進気鋭の漫画家、岩下博美が、原作をじっくりと読み込み、物語を焦点化し、見事な画力で絵にしている。怒濤の展開が当時の空気感を伴って劇画化され、極めて密度の濃い作品となっている。
 カラマーゾフの世界を圧巻の迫力で活写する力作。

カラマーゾフの兄弟 (まんが学術文庫)
岩下博美

罪と罰 (まんが学術文庫)

 ドストエフスキー『罪と罰』を原作とする漫画。1865年、帝政ロシアの首都で暮らす学生、ラスコーリニコフは、自らの理論に基づき、老婆を襲い金品を奪うことを決意する。
 岩下博美氏は、原作を咀嚼し、物語のエッセンスを趣のある絵柄で描いている。登場人物の個性も良く表出され、人間関係や心理がスリリングな展開をもって迫ってくる。背景となるサンクトペテルブルクの描写も良く、当時の雰囲気を彷彿とさせる。
 原作の本質に肉薄した力作。

罪と罰 (まんが学術文庫)
岩下博美

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