世界は俺が回してる CD

 「名曲というものは実に繊細にできていて、全体ばかりでなく、部分部分が驚くほどきめこまかく完成されている」

 なかにし礼の小説「世界は俺が回してる」でのポイントとなる音楽を集めたCD。どの曲もたいへん味わいがあり、時代を超えて楽しめる。解説書に描かれた、宇野亜喜良の挿画が当時の雰囲気を醸す。

世界は俺が回してる
なかにし礼 ジョージ・ガーシュウィン セルゲイ・ラフマニノフ オスカー・ピーターソン ハリー・ベラフォンテ 沢たまき 越路吹雪 ペレス・プラード ザ・スパイダース 西田佐知子

世界は俺が回してる

 テレビに恋した男、TBSの敏腕プロデューサー渡辺正文の破天荒な一代記。わがまま放題に育った渡辺は、ハリー・ベラフォンテ公演の放送を初め、数々の一流スターの音楽番組を成功させる。それは、世界の名歌手を一堂に会して行われた「東京音楽祭」に結実される。
 著者は、渡辺に近しかった、なかにし礼。多くの芸能人が実名で登場し、豊富なエピソードが盛り込まれたいへん興味深い。数々の女性との関わりが物語を彩る。
 高度成長の中、華やかに繰り広げられる音楽業界の熱気を伝える実名小説。

名探偵の掟

 「密室殺人」「閉ざされた空間の殺人」「童謡殺人」「時刻表トリック」「ダイイングメッセージ」など、推理小説の「お約束」をネタに、名探偵とダメ警部が掛け合いを演じる東野圭吾の連作ミステリー。力の抜けた文章で、推理小説の登場人物の悲哀をも感じさせるシニカルなメッセージに溢れた作品。
 パロディであり、まったく期待しないで読んだほうがいいが、「アンフェアの見本」などなかなか侮れない短編もある。

話の話

 「ノルシュテインの作品はすべて、いわば夢のフィルターをとおして世界をみているような気分にぼくらを誘い込む魔力をもっている。」

 1982年1月23日、日仏会館で「セロ弾きのゴーシュ」の完成試写会が行われた折りに、高畑勲監督、美術担当の椋尾篁氏などから挨拶があった。仕事の合間に、コツコツと作ってきたアニメーションへの思いが語られた。
 その試写会で併映された「霧につつまれたはりねずみ」は、「ゴーシュ」の高畑勲監督にとっても、ノルシュテイン作品との最初の出会いだった。

 ノルシュテインの作品である「話の話」は、古今のアニメーションの中でも抜きん出て芸術性が高く、難解な作品。赤ん坊を見つめる狼、ミノタウルスと少女の縄跳び、もの悲しいタンゴの調べで踊る男女から、ひと組ひと組パートナーが消え残される女性たち。繰返し現れるリンゴ。それらのシークエンスから、作者は何を語ろうとしているのか。
 高畑勲氏は、アニメージュ文庫「話の話」の中で、この作品を詳細に解説している。その文学的香気に満ちた解説から、「話の話」の意味と価値が見事に浮き上がる。
 「話の話」をさらに鑑賞したいと思うと同時に、一つの映像から、これだけ多くのことを読み取り、思索し、語ることができるのかと、アニメーション作家の想像力と表現力に脱帽した。

話の話 (アニメージュ文庫 (F‐006))
高畑 勲 アニメージュ編集部

ユーリー・ノルシュテイン作品集

井上靖 「孔子」を語る

 井上靖が長編小説「孔子」の完成直後に行った講演を収録したCD。孔子に対する敬意を感じると共に、明快な語りに引き込まれる。
 何より、80歳を越え、食道癌の手術をし摘出した後であるにも関わらず、豊かな音声で精力的に語りかける姿勢に大いに感銘を受ける。
 文学に一生を捧げ、数多くの名作を世に出した井上靖の気概に触れることができる貴重な講演。

船場狂い

 山崎豊子の短編「船場狂い」を、安奈淳が朗読したCDを聴く。戦前、伝統と格式のある商家が軒を連ねた大阪・船場。その富商にあこがれ、一員となることに執念を燃やす女の一代記を、安奈淳が力強く語る。
 たくましい女性の生き様を通じ、商家の賑わい、時代の雰囲気、時の移ろいが見事に凝縮された短編。

しぶちん (新潮CD)

 山崎豊子の短編小説「しぶちん」を、橋爪功が朗読したCDを聴く。けちで財をなした大阪商人が、そこはかとないユーモアとさりげない哀感を持って描かれる。橋爪功の朗読は名人級のうまさ。

しぶちん (新潮CD)
山崎 豊子

しぶちん

 山崎豊子の最初の短編集「しぶちん」。5編すべてが大阪を舞台とし、人生の断片を鮮やかに切り取る。後の大作に繋がる要素が詰め込まれた、密度の濃い作品集。

松本清張 家紋

 松本清張の短編小説「家紋」を、市原悦子が朗読したCDを聴く。北陸の信心深い土地で起った殺人をめぐる掌編。
 悲劇ではあるが、日本昔話を聴くような安堵感のある語りに自然と引き込まれる。小説家と語り部、それぞれの匠を感じさせてくれる。

家紋 (新潮CD)
松本 清張

海賊とよばれた男(下)

 敗戦後、全ての資産を失いながらも、石油の商いを復活させ会社の再生を果たす国岡鐵造。しかし、世界の石油は「メジャー」と呼ばれる巨大企業が牛耳っており、戦いは避けられなかった。
 国や国際社会を相手に、自らの信念と矜持をもって対峙する男の姿が感動を与える。特に、石油タンカー「日章丸」の実話に基づく物語には、胸を熱くさせられた。
 幾多の困難を乗り越えた真のリーダーたちの姿を描き、圧倒的存在感を放つ経済小説。

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