野坂昭如の小説「火垂るの墓」を、高畑勲監督がアニメ化。
実に丁寧に戦時下の日本を描いている。それゆえに、兄妹の悲惨さが際立つ。
劇場で「となりのトトロ」の後、この作品をみたときのショックは大きかった。
深い抒情と悲哀をたたえたアニメーション。
上田岳弘の小説「ニムロッド」。サーバー管理に携わり、仮想通貨の発掘を始めた「僕」のもとに、元同僚の荷室からダメな飛行機のコレクションや小説が送られてくる。
ネット社会における人間の存在を、ドライな文体で描いた芥川賞受賞作。
「肉になるのに、みんな素直だな。」
「駒場さんとこは、仔牛の頃から一頭一頭丁寧に面倒みてるから、人間を信用しているんだよ。」
離農した酪農家が、多くの牛を他に引き渡すときに主人公が見送るときの会話。
アニメ「銀の匙」は、農業の現実を描き、単なる青春グラフィティに終わらない深いテーマを提示している。制作スタッフも、その思いを大事にして作っていることが伝わってくる。
農業と食に携わる人々の思いと現実を、軽妙さを失わずにかつ真剣に描いたアニメーション。日本が誇るアニメの本質がこの作品に結実している。
「夢をもつということは同時に、現実との闘いを覚悟するということだと思うよ。」
「銀の匙」は、荒川弘の漫画を原作とするアニメ。農業高校を舞台とした青春グラフィティ。
受験に失敗し、家族から逃れるように大蝦夷農業高等学校に進学した八軒。志をもつ多くの仲間に引け目を感じながらも、自ら体験を重ね成長を遂げていく。
農業に携わる人々に寄り添い、思いと現実を描く深みのあるアニメ。
クレヨンしんちゃん映画第23作「オラの引越し物語」。ひろしの異動により、メキシコに引っ越すことになった野原一家を巻き込む事件を描く。
メキシコの街並みがよく描かれ、現地のキャラクターもよく立っている。
海外を舞台としながらも、しんちゃんはマイペース。「男はつらいよ 寅次郎心の旅路」のフーテンの寅さんを思わせる。
いろいろな要素がつまっており、最初から最後まで楽しませてくれる快作。
青函連絡船の転覆事故を背景にした強盗殺人犯とそれを追う刑事の姿を通し、戦後日本を描いた内田吐夢監督による映画「飢餓海峡」。16ミリフィルムで撮影され、独特の映像表現は見るものの心理に訴える。
三國連太郎、伴淳三郎、左幸子の味わい深い演技は、重厚なストーリーと共に印象に残る。人間の業を描いた名作。
究極のユーモアとでも言うのであろうか。すましこんで殺人を犯す紳士。チャップリンの凄みを感じ、慄然とした。チャップリンがアメリカを追われるきっかけともなった映画。
スターリン死後の権力闘争を描いた映画「スターリンの葬送狂騒曲」。イギリス・フランス合作による2017年公開作品。
俳優は皆大まじめに演じているが、コメディである。恐怖がユーモアになる点がこわい。
太平洋戦争前後の広島・呉を舞台とし、市井の人々の姿を描く「この世界の片隅に」。こうの史代による漫画を原作とし、片渕須直がアニメーション映画化した。
主人公すずは、広島から呉に嫁ぎ、戦時下の困窮する暮らしの中でも工夫を凝らし生活に潤いをうみだす。
一貫して日常的な視点で人々が描かれ、ほのぼのとした絵柄で温かみを感じる。それゆえに戦争の悲惨さが際立つ。
諄々と心に染みる至高のアニメーション。
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