緊急取調室 3

 「緊急取調室」第3話は「嘘まみれの女」。エリート官僚死亡の原因をにぎる妻を、安達祐実が演じる。妻の二転三転する供述に、取調官は翻弄される。
 安達祐実の演技が圧巻。代わる代わる取調にあたる場面を通じ、取調官それぞれのキャラクターを浮き上がらせていく。濃密にして峻烈、井上由美子の脚本が冴え渡る回。

緊急取調室 DVD-BOX [ 天海祐希 ]

緊急取調室 2

 「緊急取調室」第2話は「しゃべらない男」。殺人事件の容疑者となった電器店の店主を林家正蔵が演じる。完全黙秘を貫く店主を、取調室の面々があの手この手で攻めるが…。
 小日向文世、でんでんが取調にあたり、それぞれの手法を見せる。天海の家庭事情も描きつつ、複層的にドラマが進行する。登場人物の個性をうまく際立たせていく第2話。

緊急取調室 DVD-BOX [ 天海祐希 ]

緊急取調室 1

 天海祐希主演の刑事ドラマ「緊急取調室」、第1話は「名前のない男」。バスジャック事件で犯人との交渉役をつとめた真壁有希子は、事件後に緊急事案対応取調班に異動を命じられる。そこには、個性の強い取調官を集めた専門チームであった。
 取調室という狭い空間の中で、犯人と対峙し、濃密な心理戦が繰り広げられる。それゆえ、俳優の力量が前面に出て、独特の緊迫感を生み出す。今回、元科学者であった高嶋政伸が不気味な犯人役として天海の前に立ちふさがる。
 井上由美子の優れた脚本により、終始引き込まれる。個性豊かな面々が縦横に活躍する、傑作ドラマ。

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群衆心理 (まんが学術文庫)

 ル・ボンの「群集心理」に関する論考を、フランス革命時に恐怖政治を行ったマクシミリアン・ロベスピエールを主人公として表現したコミック。
 群集心理と同時にロベスピエールの半生が描かれ、フランス革命の歴史を概観することもできる。講談社まんが学術文庫の中でもことに中身が濃い出色の作品。歴史の重みを感じさせてくれる渾身の漫画。

群衆心理 (まんが学術文庫)

幸福について (まんが学術文庫)

 ショーペンハウアーの「幸福について」を基にした漫画。しかし、アフォリズムに満ちた書を単に表現しただけでなく、ショーペンハウアーの生い立ちをもストーリーに盛り込み、極めて興味深く読める。気がついたら、書の中に引き込まれていた。
 単に書に内容を羅列するのではなく、登場人物のホンネをはさみながら描かれているので、説得力がある。背景の絵も素晴らしく、当時のドイツの雰囲気が伝わってくる。漫画というのはすごいメディアだとあらためて感じさせてくれる。
 哲学への扉をひらく、見事な構成の漫画。

幸福について (まんが学術文庫)

七つの会議

 会社で働く人々の人間模様を描いた池井戸潤の小説「七つの会議」。各章ではそれぞれの部署で開かれる会議を中心に据えまとまりをもったエピソードになっている。それらが章が進むにつれて束ねられ、会社組織に関わる大きな流れに発展していく。
 銀行を舞台とした連作短編「シャイロックの子供たち」と似た構成であるが、本作は物語としてより練度が増している感がある。
 様々な角度で企業と社員をフレーミングし、そのありようをスリリングに綴る迫真の小説。

七つの会議 (集英社文庫) [ 池井戸潤 ]

この世界の片隅に

 太平洋戦争前後の広島・呉を舞台とし、市井の人々の姿を描く「この世界の片隅に」。こうの史代による漫画を原作とし、片渕須直がアニメーション映画化した。
 主人公すずは、広島から呉に嫁ぎ、戦時下の困窮する暮らしの中でも工夫を凝らし生活に潤いをうみだす。
 一貫して日常的な視点で人々が描かれ、ほのぼのとした絵柄で温かみを感じる。それゆえに戦争の悲惨さが際立つ。
 諄々と心に染みる至高のアニメーション。

この世界の片隅に

ウィンストン・チャーチル

 第二次世界大戦のさなか、首相に就任したウィンストン・チャーチルを描いたイギリス映画。主戦派のチャーチルは、ドイツ・イタリアとの講和を唱えるチェンバレン前首相やハリファックス子爵と対立する。刻々と戦況が悪化する中、チャーチルは決断を迫られる。
 議会など閉塞的な空間でのシーンが多いが、まったく飽きさせない。カメラワークやライティングの秀逸さもあるが、何よりチャーチルを演じるゲイリー・オールドマンが素晴らしい。その演技に惹き付けられ、いつの間にか2時間が過ぎていた。
 ナチス・ドイツが迫る中でのイギリスの雰囲気を、チャーチルの苦悩を通して伝える歴史映画。

ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 [ ゲイリー・オールドマン ]

永六輔その新世界 特選ベスト~戦争を語りつぐ大人たち篇

 土曜ワイドラジオTOKYO「永六輔その新世界」から、戦争についてのトークをセレクトしたCD。
 永六輔との対談するのは、野坂昭如、前田武彦、淡谷のり子など錚々たる人々。
 野坂昭如による「火垂るの墓」に繋がる妹との話、前田武彦のアメリカと音楽に対する思い、淡谷のり子の軍部の前でも気概を貫く姿勢、どれもたいへん興味深い。戦争の実体験を語っているだが、そこは人生の達人、重苦しくならずふうわりとした感慨を残す。
 永六輔が号泣する逸話も収められている。時代を駆け抜けた人々の肉声が記録された音源。 

土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界 特選ベスト〜戦争を語りつぐ大人たち篇 [ 永六輔 ]

紛争地の看護師

 「国境なき医師団」に参加し、イラク、シリア、パレスチナなど紛争地に8年間で17回派遣された看護師の手記。
 紛争地では、罪のない一般市民が次々と病院に搬送され、少ない物資の中で工夫をして措置を施していく。セキュリティが幾分配慮されているとはいえ、戦場であり不測の事態が常に起こりえる。文字通り、死と隣り合わせの場所で、患者を懸命に治療する姿にはひたすら頭が下がる。
 「国境なき医師団」を知り、看護師を目指す部分もたいへん興味深く、励まされる。内部から見た紛争地の状況からも様々なことを教えられた。
 子どもたちが犠牲になる姿の記述からは、静かな怒りが伝わる。
 極限状況の中で医療を施す看護師が綴る、心ゆさぶられる書。

紛争地の看護師 [ 白川 優子 ]

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