十二単衣を着た悪魔

 フリーターの青年が源氏物語の世界にタイムスリップするSF時代劇「十二単衣を着た悪魔」。
 三吉彩花演じる弘徽殿女御が鮮烈な印象を残す。カッコイイとはこのことかと実感させられる。

海賊とよばれた男(映画)

 百田尚樹の小説「海賊とよばれた男」を原作とする映画。岡田准一が主演し、20代から90代までの主人公を好演した。山崎貴監督による2016年公開映画。
 原作を手際よくまとめ、石油を商うことに情熱を傾けた主人公とその周囲の人々が生き生きと描かれている。特筆すべきは、戦前から戦後間もない頃の日本の背景で、当時の様子がよく再現されており見応えがある。
 困難に立ち向かう人々の姿を、歴史のうねりの中に描く意欲作。

海賊とよばれた男(映画)

海賊とよばれた男(下)

 敗戦後、全ての資産を失いながらも、石油の商いを復活させ会社の再生を果たす国岡鐵造。しかし、世界の石油は「メジャー」と呼ばれる巨大企業が牛耳っており、戦いは避けられなかった。
 国や国際社会を相手に、自らの信念と矜持をもって対峙する男の姿が感動を与える。特に、石油タンカー「日章丸」の実話に基づく物語には、胸を熱くさせられた。
 幾多の困難を乗り越えた真のリーダーたちの姿を描き、圧倒的存在感を放つ経済小説。

海賊とよばれた男(上)

 「ただちに建設にかかれ」

 太平洋戦争の敗戦直後、焼け野原のなった東京に辛うじて残った本社屋で、国岡商店の店主は、仕事が全くないにもかかわらず、一人の社員もクビにすることなく、あらゆる手段を尽くして活路を見出す。それは、日本の石油産業を発展させた男の、還暦になってからの第一歩であった。

 「海賊とよばれた男」は、出光興産の出光佐三をモデルにした百田尚樹の歴史経済小説。20世紀の産業を発展させると同時に、紛争の火種ともなった巨大エネルギー「石油」を扱う男のドラマである。
 油の小売りから身をおこし、国や世界を相手に堂々とわたりあう人々を描いた、入魂の作品。

雄気堂々

 経済において近代日本の礎を築いた渋沢栄一の半生を描く城山三郎の小説。渋沢栄一は、埼玉の寒村に一農夫として生まれ、若き日は横浜焼き討ちなどを企てる尊皇攘夷の志士であった。やがて、幕末から明治維新という時代の動乱の中で多くの人々と出会い様々な経験を積み、経済人として最高の指導力を発揮するようになる。
 徳川慶喜、西郷隆盛、大久保利通、大隈重信など、国づくりに奔走する多くの人々との関わりが、実に興味深かった。そこには日本が新しく生まれ変わる混沌と初々しさがあり、わき上がる熱気が感じられる。
 渋沢の人間形成の過程と明治維新前後の近代日本の歴史を重ねることで、組織のあり方、組織を率いる人々のあり方を国づくりという大きな視野で示している。
 スケールの大きな、強力なリーダーシップを持つ人物が日本では一昔前に比べ、急激に減少していると言われている。どのような条件が本物のリーダーを育てるのかという視点からも示唆に富む、真に実のある作品。

雄気堂々〈上〉
雄気堂々〈下〉

落日燃ゆ

 広田弘毅-東京裁判で死刑判決を受けたA級戦犯のうち、ただ一人の文官であった元総理、外務大臣。その生き様を、戦争に突入する世相の中で描く城山三郎の小説。

 広田は軍部の台頭による戦争の拡大を阻止しようと外務大臣として努めたが、結果は、その首謀者たる軍人たちと共に絞首刑となった。

 広田の実直な生き様には、自然と襟を正す思いであった。吉田茂、幣原喜重郎、松岡洋右など、他の外相の姿勢も興味深い。

 何より巣鴨拘置所での広田の様子と東京裁判の進行が交互に描かれる終盤は、胸に迫るものがあった。史実を積み重ねる淡々とした筆致だが、それゆえにこそ、作者の思いがじっくりと伝わってくる。静かな感銘が、読後も長く続いている。

落日燃ゆ (新潮文庫)
城山 三郎

辛酸

 足尾鉱毒事件で国家と対峙した田中正造、その晩年と、死後その遺志を継いだ人々を描く、城山三郎の小説「辛酸」。
 この小説では、衆議院議員として華々しく活躍した田中正造ではなく、晩年、全ての財産や名誉を投げ打って鉱毒被害民と共に訴訟を続ける正造の姿を描いている。
 この作品が発表されたのは、昭和36年、まだ公害という言葉が耳慣れない時代であった。その当時、若干34歳で日本初の公害問題を取り上げ鮮やかに活写した城山三郎に感嘆を禁じ得ない。田中正造と苦労を共にする被害民の若者の視点から描くことにより、田中を客観的に捉えると同時に、被害の悲惨さも浮き彫りにされている。
 逆境の渦中にありながら、「辛酸入佳境」と書く田中正造のすさまじい生き様、そしてそれを受け継ぐ人々の苛酷な現実。淡々とした筆運びにもかかわらず、ずしっと重みのある本であった。

辛酸―田中正造と足尾鉱毒事件
城山 三郎

臨3311に乗れ

 「臨3311に乗れ」は、野武士的な勢いで、幾多の困難を乗り越え旅行業の道を切り開いていった人々を描く城山三郎の小説。
 スピード感のある展開で、あっという間に読み進んだ。会社を広げる主人公馬場たちのバイタリティに、終始圧倒された。続々とわき起こる課題を剛胆さ、粘りで克服し、その自信が次の夢と企画を生む。そのダイナミズムと熱き心根に、読んでいて火照る思いであった。
 読後は、城山氏の懐の深さと暖かみを感じた。 

臨3311に乗れ
城山 三郎

黄金の日日

 戦国時代の堺の商人たちが、財力をもって為政者たちと対峙した姿を描く城山三郎の小説。
 経済という切り口から信長・秀吉の時代をとらえ、気概にあふれる堺の姿が活き活きと描かれている。舞台はフィリピンにまで及び、その雄大な物語にしばし時を忘れて読みふける。
 経済が人の心で動いていることをまざまざと感じさせてくれる。

黄金の日日
城山 三郎

戦雲の夢

 長宗我部盛親を描いた司馬遼太郎の小説「戦雲の夢」。
 土佐の領主、長宗我部盛親は関ヶ原の戦いで西軍に属するが、敗走する。領国を没収され、浪人に身を落とすが…。
 四国に版図を広げた長宗我部元親を描いた「夏草の賦」の続編にあたる作品。元親の四男にあたる盛親の命運が他勢力との関わりを含めて丁寧に綴られている。
 合戦シーンよりも、女性との関わりにページが割かれている。特に、関ヶ原後の蟄居の描写が濃密であり、心理小説としての趣も強い。
 英雄とは言いがたい主人公の生き様であるが、自らの人生に重ねて胸に迫る部分も多かった。  乱世に翻弄された武将の生涯を、円熟の筆で活写する歴史小説。

司馬遼太郎 戦雲の夢

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