天空の舟〈上〉

 「天空の舟」は、古代中国の王朝夏と、新興勢力商の攻防を描く宮城谷昌光の小説。主人公伊尹(いいん)は、夏と商の両王と関わりを持ち、数奇な転変を遂げ、王朝の興亡に影響を与える。
 文字すらない時代の歴史を掘り起こし、鮮明に活写される物語には感嘆する。巧みな伏線を持ち、人々の情感を豊かに描写する、まさしく一級の歴史小説。

小説 伊尹伝 天空の舟 上 (文春文庫)

タイタニック

 山に囲まれた群馬で生まれ育った身にとって、海はあこがれの対象である。北海道へ旅するときも、新潟まで北上し、そこからフェリーに乗って小樽まで行くというルートをとっている。これが一番料金も安く、車も運べ、そしてなにより海を満喫できる。フェリーが港を離れ、白い波を広げながら沖に出ていく。その波の先ある新潟の街を見ながらワインを飲むのは最高に気持ち良い。船の旅は海の広がりにも似た開放感を与えてくれ、また船内に入ると、陸から切り離されたことによる独特の情緒を感じることができる。
 ジェームズ・キャメロン監督の映画「タイタニック」で一番感動したのも、海に浮かぶタイタニック号の勇姿なのだ。映画の最初の方で、ディカプリオ演じる若い画家とその友人が船首のデッキで、タイタニックによる船出の喜びと自分たちの未来に向けての期待を手を広げて表すシーンがある。そこからカメラは上がっていき、タイタニックを映す俯瞰になり、甲板をずーっと移動して船尾からタイタニックを捉えるショットになる。実写では難しい映像で、コンピュータ・グラフィックスも使われているのだろうが、作り物とはとても思えないみごとなシーンであった。夕暮れ時の海も、夜のタイタニックのシルエットも本当に美しく、その航海にあこがれてしまう。そして船内に入れば、極めて精巧に再現されたタイタニックの豪華な内装が目を引く。ヒーローとヒロインの階級の差によって1等船室と3等船室の差をまざまざと見せていく演出もうまいなあと思った。この前半の描写が美しく見事だからこそ、後半の惨劇がより身に迫ってくるのだろう。
 氷山にあたってから沈むまでは、思ったより時間があった。そこでじっくりと描かれる様々な人間模様は、船という閉ざされた空間により、際だった密度を持っていた。その中でも心を打たれたのは、最後まで自らの職務を全うしようとする人々の姿だ。パニックに陥る人々を制止して女子供を救命ボートに乗せようとする船員、最後まで演奏を続けるクァルテットのメンバー、船と運命を共にする船長や設計者。
 この映画では、水が主役でもあった。冒頭で沈むタイタニックを描く海中の映像も見事であり、損傷した船を襲う海水の迫力も、エイリアン以上の恐怖を与えてくれる。ジェームズ・キャメロン監督は、ジュニア・カレッジで海洋生物学を専攻していたとのこと。「沈黙の世界」などで知られる海洋探検家のジャック・イヴ・クストーにも影響を受けたようだ。また、キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」にSF映画を作るきっかけを与えられた。大学では物理学を専攻しており、それら理系のセンスも、この映画のリアルさに貢献しているのかも知れない。
 主役のディカプリオは、繊細さと明るさを持った画家の卵という役柄が、ほんとうに輝くようにあてはまっていた。ケイト・ウィンスレットは、上流家庭のお嬢様なのに、情熱的な踊りを披露したりすぐに脱いでしまったりと、ずいぶんと活動的で強い役柄で、まあ、これくらいのアクがないとこの巨大な映画の中ではうもれてしまうのかなと思う。二人の恋愛にはいまひとつ感情移入できなかったが、それは自らのトシのせいだろう。それにしてもヒロインの婚約者を演じるビリー・ゼーンといったら、いきなりピストルをぶっぱなしてディカプリオを追い回したり後からもネチネチとつけまわして、そのしつこさは、まるで「ターミネーター」のようであった。
 史実に基づいた重みをもっているからこそ、この映画が圧倒的な迫力を持っているのだろう。「インディペンデンス・デイ」などのフィクションが、あまりにも軽く感じられる。どうせ多額のお金をつかうならば、このような歴史を緻密に再現したドラマをもっと作って欲しいように思う。

タイタニック (字幕版)

レヴェナント

 アメリカの西部開拓時代、熊に襲われながらも、奇跡的に生還をはたしたヒュー・グラスを描いた映画「レヴェナント」。
 重傷を負い置き去りにされたグラスは、付き添わずに逃げた人物に復讐を誓う。
 厳寒の地における美しい映像と苛烈な展開で見るものを惹きつける。レオナルド・ディカプリオの迫真の演技に圧倒されるサヴァイヴァル映画。

レヴェナント:蘇えりし者 [Blu-ray]

J.エドガー

 FBI長官、エドガー・フーヴァーの生涯に基づいた映画。クリント・イーストウッド監督による、2011年の作品。レオナルド・ディカプリオの演技が見事。
 アメリカの現代史をなぞりながら、フーヴァーのキャラクターとFBIの組織が構築される過程を多面的に描いている。

J.エドガー (字幕版)

アビエイター

 飛行機と映画に情熱を傾ける実業家、ハワード・ヒューズの生き様を描く映画「アビエイター」。チャレンジングでかつ神経質な人物を、レオナルド・ディカプリオが演じる。ヒューズと恋に落ちる女優キャサリン・ヘップバーンをケイト・ブランシェットが鮮やかに表現する。
 映画にかけるヒューズの情熱にあおられるかのように、この映画も惜しみなく労力が払われている。
 アカデミー賞5部門受賞に輝く大作。

アビエイター(字幕版)

司馬遼太郎が語る 第8集

 「医学が変えた近代日本」という演題で、1988年に順天堂大学で行われた司馬遼太郎の講演。
 江戸時代に西洋から伝えられた医学は、「自由」「平等」という思想の種を宿し、幕末日本に大きな影響を与えた。ポンペや彼に学んだ松本良順、順天堂において医療技術を高めた佐藤舜海の話を交えた具体的な話はたいへん興味深い。
 また、医者は「患者の最後の友」であるべきという基本的な考えを歴史から指し示し、内容、気概ともに実に素晴しい講演。

司馬遼太郎が語る 8 医学が変えた近代 [新潮CD]

司馬遼太郎が語る 第7集

 「司馬遼太郎が語る」第七集は、「キリスト教文化と日本」。司馬遼太郎が1990年、同志社大学で新島襄の没後100年の節目としての講演を収録したCD。
 「倜儻不羈」の精神から語りおこし、キリスト教の「絶対」から、阿弥陀如来の話にまで及ぶ。日本人とキリスト教との関わりを大局的な視座から捉えた含蓄のある講演。

司馬遼太郎が語る 7 キリスト教文化と日本 [新潮CD]

司馬遼太郎が語る 第6集

 司馬遼太郎が亜細亜大学で1991年に行った講演会のCDを聴く。静かに語られているのだが、その内容は極めて濃く、目から鱗がおちる思いだった。
 鉄の伝来が日本にもたらした影響が語られたが、それは日本の成り立ちすら変える出来事であった。他のアジア諸国との比較もたいへん興味深い。新たな視点を与えてくれる、含蓄のある語りに心底引き込まれる。

司馬遼太郎が語る 6 私ども人類 [新潮CD]

司馬遼太郎が語る 第4集

 司馬遼太郎が1982年、NHKホールで行った講演「文章日本語の成立」のCD。泉鏡花、夏目漱石などの文体についてふれながら、明治期から現代までの文章としての日本語の成り立ちを語る。
 幸田露伴、夏目漱石など、目で追って読むといまひとつ入ってこなかった文章が、CDで日下武史など古典的素養をもった人の朗読で聴くと、鮮やかに情景が思い浮かぶ。「声に出して読む文章」のくだりは、その体験からすっと腑に落ちる内容であった。
 吉川英治、志賀直哉などの優れた名文にふれたくなる講演。

司馬遼太郎が語る 4 文章日本語の成立 [新潮CD]

司馬遼太郎が語る 第3集

 司馬遼太郎の講演「草原からのメッセージ」を聴く。ユーラシア大陸のステップを舞台に栄枯盛衰を繰り広げてきた草原の民、匈奴、スキタイ、モンゴル、韃靼の人々の歴史と「遊牧」の文明を語る。
 暖かみのある口調で、氏の草原の民への愛着が伝わってくる。1992年千葉市文化センターでの講演。

司馬遼太郎が語る 3 草原からのメッセージ [新潮CD]

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