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ブルックナー カラー版作曲家の生涯

 新潮文庫「カラー版作曲家の生涯」は、その作曲家の生き様が写真や絵とともに語られ、たいへん気に入っているシリーズだ。その生涯を読むと、音楽の味わいがよりいっそう増してくる。

 シリーズの中でも、一番地味な生涯と思われるのが、ブルックナーである。本人の写真は、どこにでもいそうなおっさんに見える。女の人が好きで、ミーハーなところもあったようだ。しかし、それとは裏腹に、作曲された音楽は巨大な伽藍のように壮麗である。アンバランスの理由について、やはり人生をたどることで浮きあがってくるものがある。

 挿入されている現在活躍している指揮者や演奏家たちのエッセイも、その音楽への共感にあふれ、どれも味わいがあり曲の持つ魅力を教えてくれる。

 しかし、このシリーズは絶版となっているものが多い。ブルックナーもそのひとつである。クラシックを楽しむのに好適なシリーズと思っているので、たいへん残念である。自分自身、ブルックナーの長大な交響曲はあまり聴く機会がなかったが、この本で関心がわき、何度か聴くうちに徐々に受け入れられるようになった。

 百年を超えてなお多くの人々に愛される音楽を作曲した人の生涯は、それぞれがシンフォニーのような豊かさをたたえている。

ブルックナー
土田 英三郎
4101066116

カザルス ブランデンブルク協奏曲

 パブロ・カザルス指揮、マールボロ音楽祭管弦楽団演奏のバッハ作曲ブランデンブルク協奏曲を久しぶりに聴いた。なんと躍動感にあふれたバッハなのだろう。奏者が演奏することに喜びを感じ生き生きとしていることが伝わってくる。

 個人的に気に入っているのは、第3番と第5番。第3番の明るく優雅な雰囲気は、広やかな気分になれる。第5番の喜びに溢れたリズミカルな演奏には、思わずうきうきとしてくる。チェンバロでなく、ピアノで演奏されており、その情感をもったふくらみのある曲調は、ロマン派のピアノ協奏曲のようだ。

 新たに気づいたのは、第6番の素晴らしさだ。特に第2楽章の豊かな表現は、惻々と胸に迫ってくる。

バッハ:管弦楽組曲(全4曲)/ブランデンブルク協奏曲(全6曲)

ゼニの人間学

 「ナニワ金融道」の作者がホンネで熱く語るゼニをめぐるエッセイ。「ナニワ金融道」の原点は、ドストエフスキーの「罪と罰」だった!「ナニワ金融道」は街の金融業者を舞台にしたコテコテの漫画だが、この本はコテコテの資本論や!

ゼニの人間学
青木 雄二
4894563991

社長をだせ!

 カメラのお客様相談室、サービスセンターに20年以上かかわり、クレームを処理してきた著者の体験と、クレームの分析が記されている。

 第2章のクレームの分類が興味深い。「ごね得型」「プライド回復型」「新興宗教型」「自己実現型」「愉快犯型」など様々なタイプにクレーマーを分け、その処方が書かれている。その最後に、「泣き寝入り型」があった。ここの記述に一番感心した。

 『お客様が何も言わないからといって、放っておいたら、どんどんそのメーカーから離れていってしまいます。こうしたことは、結果がすぐ目に見えて表れないだけに、最も注意を要する問題であり、言い換えれば最も厳しいクレームと言わざるを得ません。(中略)聞こえてこないクレームを聞き取るようにしていかなければ、クレーム処理をやっているとは言えません。』

宝島社文庫「社長をだせ!」
川田 茂雄
4796643397

ベンチャーわれ倒産す

 20歳で社長につき、ベンチャー企業の経営者として通産大臣賞まで受賞した著者の体験記。

 技術はあるのだろうが、どうも誠実さがいまひとつ感じられない。プレゼンテーションはたいへん得意だったようだが、社員との本当のコミュニケーションがなされていなかったように感じた。

 ベンチャーわれ倒産す―昔、大臣賞。今、自己破産。
板倉 雄一郎
409403661X

ヒッツ・オンTV 2002 

 何度聞いても飽きないCD。18曲が収録されている。ちょっとブルーな気分でも、最初のAQUA「カートゥーン・ヒーローズ」を聞くと少し前向きになれる。ナナ・ムスクーリ「オンリー・ラヴ」の澄んだ歌声に癒され、ドナ・サマー「ホット・スタッフ」の蠱惑的な魅力にひたり、ルイ・アームストロングが歌う「この素晴らしき世界」に気持ちを広げることができる。

 さすがTVのCMで使われた粒ぞろいの名曲、どれもすっと心に入ってくるものがある。

ヒッツ・オンTV 2002
オムニバス AQUA ママス&パパス
B0000677LT

落日燃ゆ

 広田弘毅-東京裁判で死刑判決を受けたA級戦犯のうち、ただ一人の文官であった元総理、外務大臣。その生き様を、戦争に突入する世相の中で描く城山三郎の小説。

 広田は軍部の台頭による戦争の拡大を阻止しようと外務大臣として努めたが、結果は、その首謀者たる軍人たちと共に絞首刑となった。

 広田の実直な生き様には、自然と襟を正す思いであった。吉田茂、幣原喜重郎、松岡洋右など、他の外相の姿勢も興味深い。

 何より巣鴨拘置所での広田の様子と東京裁判の進行が交互に描かれる終盤は、胸に迫るものがあった。史実を積み重ねる淡々とした筆致だが、それゆえにこそ、作者の思いがじっくりと伝わってくる。静かな感銘が、読後も長く続いている。

落日燃ゆ (新潮文庫)
城山 三郎

ドナルドのさんすうマジック

 ディズニーのおなじみキャラクター、ドナルド・ダックが数学の不思議を紹介する短編映画「ドナルドのさんすうマジック」。黄金比が、建築物や音楽、自然界に溢れていることを紹介する部分は、アニメーションのプロの技をもってすると、数学がこんなに生き生きと描かれるのかと感嘆した。

 数学というと、一般には、なんだか構えてしまう雰囲気がある。もっと自然に、数学が社会とかわっていることが様々な場面で示されるといいのだが。

とっておきの物語 / ドナルドのさんすうマジック

群馬おもしろ科学展

kagakuten1  高崎高島屋の6階展示場で行われた群馬大学主催の「群馬おもしろ科学展」に家族で行く。様々な理科実験を体験できる。子どもたちは、鉱物標本にさわったり、コバルトのあぶり出しをしたり、分子模型を組み立てたりして楽しんでいた。

kagkuten2  モーターの工作教室にも参加させてもらった。エナメル線の上半分を紙 ヤスリで削ったものを2枚の磁石ではさみ、消しゴムとクリップの軸受けに置く。コイルを巻いて電池につなぐと、見事に 磁石がまわり、子どもたちも喜んでいた。

 群馬大学の学生さんは、親切に教えてくれ、子どもたちは良い体験ができた。学生さんにとっても充実感があったのではないか。日本は、技術立国としての地位を保つことが必要であろう。そのためには科学に興味を持つ層を厚くしていくことが不可欠と感じている。このような企画が数多くなされ、科学に接する機会が身近な場所で増えることも大切だと思う。

クライマーズ・ハイ

 1985年8月12日- 20年前のこの日、群馬県立万場高等学校で、就職希望者を対象にパソコン講座が開かれた。当時、まだ学校にコンピュータはそれほど普及しておらず、山懐に抱かれた普通科の高校で、生徒ひとりひとりがコンピュータに触れる機会はなかった。そこで、主に事務系を希望する3年生の生徒さんにコンピュータを体験させたいという思いで、企業からパソコンを借りて、6日間の日程で実習を行った。

 講座初日のこの日、自作したテキストに沿って生徒が夢中で取り組んでいる姿を見て、いい滑り出しになったことにたいへん気分を良くした。近くの教員宿舎に帰り、お酒を飲んでいると、サイレンの音やヘリコプターの飛ぶ音がやけに響き始めた。当時、教員となって1年目でテレビはおろかラジオすらもっていなかった。

 翌日、パソコン講座の会場にいくと、上野村からきている女子生徒さんたちが、昨日はたいへんだったねなどと話していた。「何がたいへんだったの?」と聞くと、「先生知らないの?昨日は飛行機が近くに落ちたので、お父さんたちもみんな山に行ったんだよ。」あわてて新聞を見て、墜落した航空機が524人を乗せていたことを知った。宿直室のテレビをつけると、一面緑の山中にできた傷痕、木々がなぎ倒され茶色い土と焦げた地面が見え、白煙のあがる墜落現場-御巣鷹の尾根が映しだされていた。

 この事故を新聞記者の立場で描いた「クライマーズ・ハイ」は、当時の世相や地元の様子を盛り込んでいることもあり、たいへん興味を持って読み進むことができた。

 新聞記事をめぐり、社内の確執が大小様々な形で起こる。しかも、新聞には「締切り」という、決断を下す刻限が毎日ある。そのため、独特の緊迫感を持った展開になっている。

 群馬県は、県境の半分が屹立した山である。自分にとって、山は身近なものであると同時に、憧れと安心、また時に畏怖の念を抱かせてくれ、乗り越えるべき対象の存在を象徴していた。クライマーズ・ハイは、そんな心象としての山も描かれており、救いのある読後感であった。

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

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