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宮沢賢治

 花巻の地に旅したとき、どこまでも続く木々を見て、安心と畏怖が入り交じった不思議な気持ちになった。風にさわぐ木々の薫りにふれ、まさしく人と文学を育む地だと感じた。
 宮沢賢治のひたむきさと澄んだ抒情にあふれた作品に接するとき、この花巻の森を思い出す。

 息子に、西本鶏介が思いを込めて書いた宮沢賢治の伝記を読ませている。信仰と現実とを一致させるべく苦悩する様を読んでも、小学2年生にはまだ実感を伴って理解できないかもしれない。しかし、自然への慈しみや、前向きに取り組むことの尊さは伝わるはずである。
 なにより、子どもの読む「永訣の朝」などの詩に感動できることは、この上ない喜びだ。

宮沢賢治
西本 鶏介
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屋根裏の散歩者

 「屋根裏の散歩者」その題名だけでも妖しい雰囲気が漂う。読み始めると、主人公の隠微な行動に思わず引込まれていく。その心理描写は、江戸川乱歩文学の真骨頂。
 表題作を収める光文社の全集第1巻は、「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」「人間椅子」など、乱歩の世界を堪能できる短編集。地の底に沈むような文章に惑溺する愉しみが味わえる。

江戸川乱歩全集 第1巻
屋根裏の散歩者

4334737161

本陣殺人事件

 横溝正史の「本陣殺人事件」は、和風ミステリーとして独特の位置を占める作品。動機の不可解さ、和モノを使ったトリックなど、日本的な趣きでは「犬神家の一族」を超える部分もある。
 高林陽一監督の美意識に溢れた映画も、印象に残る。

本陣殺人事件
横溝 正史
4041304083

本陣殺人事件
中尾彬 田村高廣 新田章
B00005S7AQ

犬神家の一族

 映画「犬神家の一族」が、市川崑監督(90)、金田一耕助役の石坂浩二(64)という名コンビで30年ぶりに劇場版リメークされることが27日、東京・調布の角川大映スタジオで発表されたとのこと。

 光の影が交錯した映像。女性の端然とした美しさ。おどろおどろしさとユーモアが混在し、引込まれるストーリー。大野雄二の琴線をふるわせる素晴らしい音楽。これらが一体となり日本の美が鮮明に表現された傑作を、再度作り直す意義がどこにあるのだろうか。リメークしても、超えることはできないと思う。なまじCGなんて使えば、しらけるだけだろう。
 いずれにしても、1976年の「犬神家の一族」は、何度みても飽きない数少ない日本映画の名作であることには変わりない。 

犬神家の一族
石坂浩二 高峰三枝子 三条美紀
B00005HKPR

太陽の黙示録(3)

 大震災後の日本を描く、かわぐちかいじ渾身の力作「太陽の黙示録」第10巻を読む。うすうす感じていたのだが、この巻を読んで遅まきながら、やっとハッキリわかった。この作品は、「三国志」をベースにしているのだ。

 南北に分かれた日本の、北のエリアをクーデターで乗っ取る董藤卓也という人物が出てくる。これは、三国志で漢王朝を手中に収める董卓のことであり、董藤の部下で自衛隊を指揮する勝呂奉一は三国志の猛将、呂布奉先がモデルとなっているのは明らか。
 このわざとらしい人名から、いままでの主な登場人物の名前が、三国志からとられていることにやっと気づいたのだった。主人公の柳舷一郎は劉備玄徳、彼を支える羽田と張は関羽と張飛、ライバル宗方操は曹操、その部下夏木惇史は夏候惇など。女性ファンの多い趙雲子龍は、やはり美男子である雲井竜児。

 それにしても、日本版三国志を実現するために、大震災で国土の4分の1を沈め、琵琶湖を中心に南北に分断してしまうとは。その後を徹底したリアリティで描く力量はすごい。
 さて、これからは諸葛孔明に相当する人物の登場も楽しみだ。

太陽の黙示録 10
かわぐち かいじ
4091870406

ドラマ 白夜行(3)

 白夜行の第3話、より波乱に満ちた展開になる。ヒロイン役の綾瀬はるかも頑張っているが、子ども時代を演じた福田麻由子の凄みには及ばないと感じる。
 しつこく過去の事件を追ってつきまとう刑事を武田鉄矢が演じているが、第1話で福田麻由子に凶器のハサミを渡すシーンが印象的。
 「ひとつ嘘ついたらな、どんどん嘘つかなあかんようになるねん。そんな人生に未来なんてあらへん。お天道さんの下歩かれへんようになる。身い滅ぼすだけや。わしになんかいうことないんか。」
「いろいろお世話になりました。」
 この二人の対峙が、ぞくぞくするほどよかった。
 武田鉄矢の台詞だけを聞くと、「金八先生スペシャル」のようだが。

慟哭

 貫井徳郎のデビュー作。独特の文体を味わえるミステリー。ストーリーはテンポが良く、楽しめた。トリックは評価が分かれるところか。

慟哭
貫井 徳郎
4488425011

フォーレ作品集

 昨日聴いたフォーレのレクイエムは、フォーレの作品を集めた2枚組のCDの一部だ。このCDには、レクイエムの他、「ペレアスとメリザンド」「パヴァーヌ」「夢のあとに」「ラシーヌ讃歌」など、数々の名曲が収められている。
 どの曲も、静かに心を満たしてくれる。

フォーレ:作品集
オムニバス(クラシック) フィルハーモニア合唱団 ファレル(ティモシー)
B0007OE2K8

フォーレのレクイエム

 フォーレのレクイエムを聴く。ジュリーニ指揮、フィルハーモニア管弦楽団・合唱団演奏。
 静謐で敬虔な音楽にふれ、身が清められるようだ。

ジョバンニの銀河・1983

 宮沢賢治の伝記を、このところ毎日長男に音読させている。図書館に行ったとき、宮沢賢治没後50年の節目に制作された「ジョバンニの銀河・1983」のビデオがあったので、借りて見る。1983年3月21日放送のNHK特集である。

 冒頭、生前の賢治の数少ない理解者であった草野心平が「永訣の朝」を吹雪く花巻の地で朗読する。前半は、賢治の作品が各国に翻訳されていることや、賢治の作品世界を広める努力としている人々が紹介される。
 後半は、「銀河鉄道の夜」の映像スケッチである。パウル・クレーの絵画や、鉱物の偏光顕微鏡写真の画像を背景に、銀河を旅するジョバンニたちの心象が語られる。
 科学と宗教が融和した賢治の世界が幻想的な映像で印象深く描かれていた。

ジョバンニの銀河1983
B00005IK54

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