晏子 4

 宮城谷昌光の歴史長編「晏子」では、晏弱の凛質が晏嬰に受け継がれる様が見事に描かれている。
 晏弱・晏嬰父子を光とすれば、全巻を通して登場し節目節目で重要な役割を果たす崔杼は、影として対比できる。国家を支え万人から喝采を受けるような晏弱・晏嬰父子の活躍の裏で、崔杼はまた違った形で国造りに情熱を注ぐ。この崔杼をはじめ、晏子を取り巻く多くの人々の巧みな人物描写により、奥行きがあり陰影に富んだ物語となっている。
 激動の時代を懸命に生きる人々の姿を通し、真の宰相の在り方を浮き上がらせた名作。

晏子(四) (新潮文庫)

晏子 3

 中国の春秋時代、斉は晋を中心とする連合軍に都まで攻め込まれた。その戦火の最中でも、晏嬰は、古礼に則った喪中を貫く。戦乱、政変が絶えない斉の国において、一途に人の道を示す晏嬰の凛乎とした姿勢は変わることがなかった。転変と普遍の対比が鮮やかな第3巻。

晏子(三) (新潮文庫)

夢十夜

「百年待っていて下さい」

 夏目漱石の「夢十夜」を読み、あらためてその深さに驚きをおぼえる。淡々とした筆致で恐怖や孤独、喪失感等が描かれている。1908年(明治41年)、百年前に発表された作品だが、それらはどれも、今の自分の心を揺さぶるものであった。特に「第7夜」の孤独と悔恨に満ちた話は印象に残った。
 新潮文庫版には、繊細な表現が秀逸な「文鳥」、日々の出来事を綴った「永日小品」など、短くも密度の濃い文が収められている。

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)
夏目 漱石
4101010188

ワンピース 50

 尾田栄一郎の大河漫画「ワンピース」の単行本が50巻に到達した。ひとつながりの話として、よくぞここまで書いたと感心する。勇気と友情、正義と希望という少年漫画の王道を堂々と進み、巧みな伏線を幾重にも張り巡らしながらの到達である。スリラー・バーク編もようやく区切りがつき、新たなステージへと向かうようだ。
 テレビアニメは遅々として進まないが、原作を追い抜く訳にいかないので、仕方ないのだろう。制作側の苦労がしのばれる。
 スリラーバーク編のラストは、男気を全面に出した骨のあるドラマになっていた。進みが遅いとは言え、作画が丁寧であるため、子どもたちと一緒にアニメをついつい見てしまう。

ONE PIECE 巻50 (ジャンプコミックス)
尾田 栄一郎
4088745213

成功はゴミ箱の中に

 「未熟でいるうちは成長できる。成熟した途端、腐敗が始まる。」

 マクドナルドの創業者、レイ・クロックがハンバーガーチェーンの事業を始めたのは、52歳のときであった。彼は、砂漠の中にあるにもかかわらず、大いに繁盛しているハンバーガー店を目の当たりにする。そのシンプルなメニュー構成と標準化された調理工程などに関心し、長年の営業マンの勘でビジネスになると直感し、事業を立ち上げる。
 1954年に始めた零細な会社は、1977年には4000を超える店舗を従える大企業に成長した。しかし、その道のりは平坦ではなく、数多くの失敗や裏切りがあった。それらを乗り越え、全米一のフード・チェーンに成長させたのは、レイ・クロックの勇気を持って果敢に挑戦する気概と、豊富な経験に裏打ちされた経営手法に他ならない。
 アメリカン・ドリームを体現したレイ・クロックの名言に満ちた自伝。

成功はゴミ箱の中に―レイ・クロック自伝 世界一、億万長者を生んだ男-マクドナルド創業者 (PRESIDENT BOOKS)
野崎 稚恵
4833418452

晏子 2

 戦雲渦巻く中国の春秋時代を描く「晏子」第2巻では、智将、晏弱が目の覚めるような活躍をする。特に、兵五千で、敵将王湫の束ねる一万の精兵と激突する莱での攻防戦が実におもしろい。虚々実々の駆け引き、遠大な戦略が、第2巻の半分にわたって繰り広げられる。しかし、長さは感じず、次々とページをめくらずにはいられない。
 清新な文章と心地よいリズムのある展開で、爽風を受けるがごとく読む喜びを感じる。

晏子(二) (新潮文庫)

晏子 1

 紀元前6世紀、中国の春秋時代、斉の国を支えた晏弱・安嬰父子の生涯を描く宮城谷昌光の小説「晏子」。大小の国々が乱立し、兵馬が行き交い、中国の版図は刻々と変化していた。大国斉も、晋との関係が悪化し、激突がさけられない状況にあった。
 この不安定な政情下、晏弱の知謀と凛質がひときわ輝く。読み進むうちに、晏弱の言動に引き込まれていく。
 多士済々な人物の登場と起伏に富んだ物語により、否応なく春秋の世界にいざなわれる第1巻。

晏子(一) (新潮文庫)

絵で見るある町の歴史

 川べりのある町を、時代ごとに描いたユニークな絵本。石器時代から始まり、鉄器時代、ローマ時代、バイキングの来襲、中世、産業革命など、14の時代に渡って同じ町が定点観測される。スティーヴ・ヌーンの稠密な絵により、それぞれの時代にすっと誘いまれ、人々の営みや時代の移り変わりを感じとることができる。

絵で見るある町の歴史―タイムトラベラーと旅する12,000年
アン ミラード Anne Millard Steve Noon
437800108X

チョコレート戦争

 小学生の時に学校の図書室で読んで、今でも忘れられない本のひとつが「チョコレート戦争」。当時は、洋菓子など滅多に食べられなかったので、作中のエクレールを少年が食べるシーンがあまりにうまそうで、印象に残っていた。
 最近書店に行って、この本の背表紙がふわりと浮き上がって目に飛び込んできた。すぐに手にとり、小学2年生の次男に読んでほしいと思い、購入した。子どものために買ったつもりだが、実は自分が読みたかったのかもしれない。
 再読して、小学生の心のうごきに、すっと共感した。子どもの側だけでなく、洋菓子店の社長の過去など、大人の世界にもふれ、ふくらみのある物語だ。
 我が家にこの本が置かれることになったのは、登場人物ひとりひとりにそそがれる作者の暖かい思いが、30年以上前に読んだときに心の奥にしまわれたためかもしれない。

チョコレート戦争 (新・名作の愛蔵版)
大石 真
4652005024

空とぶラビ

 子どもが学校の図書室から、手塚治虫による絵本「空とぶラビ」を借りてきた。手塚らしいウィットとヒューマニズムを感じる3作品が描かれている。

空とぶラビ (手塚治虫のえほん館)
手塚 治虫
430972373X

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