紛争地の看護師

 「国境なき医師団」に参加し、イラク、シリア、パレスチナなど紛争地に8年間で17回派遣された看護師の手記。
 紛争地では、罪のない一般市民が次々と病院に搬送され、少ない物資の中で工夫をして措置を施していく。セキュリティが幾分配慮されているとはいえ、戦場であり不測の事態が常に起こりえる。文字通り、死と隣り合わせの場所で、患者を懸命に治療する姿にはひたすら頭が下がる。
 「国境なき医師団」を知り、看護師を目指す部分もたいへん興味深く、励まされる。内部から見た紛争地の状況からも様々なことを教えられた。
 子どもたちが犠牲になる姿の記述からは、静かな怒りが伝わる。
 極限状況の中で医療を施す看護師が綴る、心ゆさぶられる書。

紛争地の看護師 [ 白川 優子 ]

ダブル・スター

 俳優が引き受けた仕事は、政治家の替え玉だった。
 ユーモアを交えながら、宇宙をまたがる政治の世界を実に巧みに描いている。読後感もたいへんに良い。
 巨匠ロバート・A. ハインラインによる、ヒューゴー賞受賞に輝くSFの名作。

ウは宇宙船のウ 萩尾 望都

 レイ・ブラッドベリの短編集SF「ウは宇宙船のウ」「10月はたそがれの国」から8編を選び萩尾望都が漫画化した作品。ブラッドベリの名作が、抒情溢れる絵となり息づいている。思いの込められた珠玉の短編集。

ウは宇宙船のウ (小学館文庫) [ 萩尾望都 ]

民王 1

 池井戸潤の小説「民王」が、ドラマ化される。内閣総理大臣とその息子の体が入れ替わる。天然の息子は、総理大臣をやむを得ず務めるが、そのひたむさと熱い思いが人々の共感を呼ぶ。一方、息子の替わりに就職面接を受けるが…。
 菅田将暉、遠藤憲一、草刈正雄など芸達者な俳優が思いっきり演じており、楽しめる。特に、菅田将暉の熱演が物語を盛りあげる。
 気軽に見られる政治エンターテイメント。

民王|テレビ朝日

民王スペシャル詰め合わせ Blu-ray BOX

アガサ・クリスティー完全攻略

 アガサ・クリスティーが生んだ探偵エルキュール・ポアロ、ミス・マープルのみならず、トミーとタペンス、ノンシリーズなどクリスティー全ての作品を評した書。短編、戯曲にまで及ぶ。各作品には星の数でオススメ度を示している。
 中学生の頃からクリスティー作品を愛読していた身にとっては、実に楽しい本であった。いろいろ読んできたつもりであったが、これほどたくさん未読の作品があったかと驚かされた。
 ネタバレには注意して記してあるが、これから読む楽しみのために、未読作品にはなるべく目を通さないようにした。それでも、既読の作品へのコメントはたいへん興味深かった。
 もっとも、個人評であるので、当然自分が読んだ感想と異なる部分もある。例えば「謎のビック・フォア」は、テンポ良いストーリーに惹かれた個人的には最良の読書体験のひとつなのであるが、本書の評価はとても低い。そのように、「これ違うかなあ」という読み方もまた楽しめるのである。
 それにしても、クリスティーの膨大な作品を網羅した本書を読むと、いかにアガサ・クリスティーが偉大であったをあらためて感じさせてくれる。未読作品の道しるべとしてたいへんありがたい。
 クリスティー作品の素晴らしさを伝える魅力に満ちた書。

アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕

そして誰もいなくなった

 クリスティーのミステリーで、ベスト・ワンは自分にとっては、「そして誰もいなくなった」である。ページをめくりしばらくすると、もうその世界からは離れられない。一気に読まずにはいられない求心力を持っている。
 孤島に集められた10人が、マザー・グースの童謡になぞらえて一人一人殺されていく。その着想もすごいが、筋運びの巧みさがあまりに見事。
 最後の一人が亡くなったときの戦慄はいまなお忘れ得ない。
 映像化は様々されているが、どれもいまひとつ。それは、この最後の瞬間の感覚があまりに強烈すぎ、どれも原作を素直になぞる映像としていないためであろう。
 クローズド・サークル・ミステリーの嚆矢にして最高傑作。

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

終りなき夜に生れつく

 アガサ・クリスティーのミステリー「終りなき夜に生れつく」。貧しい青年ロジャースは、丘の風景に魅了され、そこに家を建てることにあこがれる。その場所で出会った女性と恋に落ち、順調に進んでいくが…。
 実にクリスティーらしい作品である。ロマンス小説のようであるが、徐々に不安の陰が色濃くなっていく。
 円熟の筆で描くロマンティック・ミステリーの逸品。

終りなき夜に生れつく(クリスティー文庫)

ポケットにライ麦を

 アガサ・クリスティーの本格ミステリー「ポケットにライ麦を」。探偵役のミス・マープルが登場するシーンがかっこいい。この本のマープルは本当に輝いている。
 マザー・グースの「6ペンスの唄」をモチーフにした傑作ミステリー。
 ネットで本書を基としたドラマの動画を見つけるが、いきなり文字列が横から流れてきて、その中に犯人らしき人物の名前があり目にとまってしまった。ネットを見たことをつくづく後悔した。悪意に満ちた小説であるが、ネットもまた悪意が渦巻いている。

ポケットにライ麦を (クリスティー文庫)

五匹の子豚

 アガサ・クリスティーがこだわりをもった「過去の殺人」を扱った推理小説。ポアロに母の無実を証明してほしいという依頼が届く。16年前の事件に、ポアロは関係者の証言を頼りに真実を紡いでゆく。
 過去を扱っているがゆえに、静かな印象の作品である。しかし、それゆえに人間関係の綾なしが前面に出て、実に見事に構築された心理小説となっている。
 クリスティーの名人芸を堪能できる一級のミステリー。

五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

葬儀を終えて

 アガサ・クリスティーの「葬儀を終えて 」。大富豪が亡くなった後、一族が集まる中、末の妹が無邪気に口にした言葉が発端となり、悲劇が繰り返される。
 これもクリスティーは天才だと感じさせてくれた小説。この作品に関しては多くを語るより、とにかく読んでもらったほうが良い。

葬儀を終えて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
葬儀を終えて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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