映画 沈まぬ太陽

 山崎豊子の小説「沈まぬ太陽」は、5巻に及ぶ大作である。組織の構造的問題を鋭く突くテーマ、世界各地に及ぶ舞台など、そのスケールの大きさゆえに、映像にするのは困難と思われたが、ついに映画化された。
 大作が映画になる場合、パート1、パート2などに分けたり、三部作にするケースが多いが、「沈まぬ太陽」は、3時間22分の枠に収められた。長く描こうと思えばいくらでも長くできるだろうが、1本にすることで、テーマがより明確に浮かび上がったように感じる。
 不屈の信念と矜持を持って生きる主人公、恩地を渡辺謙がじっくりと演じている。三浦友和演じる、恩地のライバル行天の、エリート社員の風貌で平然と悪事をなす姿が印象的。
 何より、航空機墜落事故の描写には、感涙を禁じ得ない。
 スタッフの執念が伝わる、渾身の日本映画。

沈まぬ太陽

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

坂の上の雲

 「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている。」

 NHKの大河ドラマ「坂の上の雲」がついに放送された。
 原作は、明治維新から日露戦争までの日本と日本人を描いた、司馬遼太郎が40歳代のほとんどすべてを費やして執筆した小説である。映像化するのは不可能と言われていた。自分も一読後、この書のスケールの大きさは映像にするのは難しいだろうし、なまじしても、ひどく小さな形になってしまうのではと感じた。しかし、多くの人が映像化への情熱を抱き続け、その実現は「日本映像界の悲願」とまで言われた。

 第1話では、松山での秋山兄弟と正岡子規の子供時代、そして青年期を迎えて東京に学ぶまでが描かれる。さすがに、あだおろそかに出来ないというスタッフの姿勢が伝わる、丁寧な作りであった。
 特に、秋山真之が新橋駅に降り、街を歩くシーンは、馬車や路面電車が行き交う明治の賑わいが再現された、並々ならぬ意欲がみなぎる映像であった。

 明治のおおらかな気風の中、とまどいながらも前を見つめ、歩んでいく若者の姿は、小さな国が外の世界と徐々に関わる様を象徴するかのようであった。

NHK 「坂の上の雲」

NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 第1部 DVD BOX
B0030DRYYY

坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)
4167105764

楽毅 四

 宮城谷昌光の小説は、話が進むにつれて深みが増していく。

 「楽毅」は2200年以上前の話であり、資料も少ないであろうに、そこに描かれる人々は実に生き生きとしている。ことに主人公は、まるで筆者に乗り移ったかのように語り、行動する。幾多の戦や遍歴を辿る中で、その精神は研ぎ澄まされ、戦略は神妙さを増していく。
 主人公の精神の在りようが深まりを持ち、それを基にしているがゆえに、弱小国が大国を窮地に陥れる神業ともいえる戦に合点がいくのである。
 苛烈な世に、「楽毅」はひときわ光輝を放つ生き様を示している。今の世でもひとつの指針となりえる名著。 

楽毅(四) (新潮文庫)
宮城谷昌光

楽毅 三

 滅び行く小国を必死で支える楽毅の姿には、深い感動をおぼえる。
 「隗より始めよ」で知られる燕の郭隗との邂逅、国の興亡、趙の変事など、多くの転機が描かれる第三巻。

楽毅(三) (新潮文庫)宮城谷昌光

楽毅 二

 趙の武霊王の執拗な侵略を受け、中山国は滅亡の際に立たされる。中山国の臣、楽毅は、暗愚な君主に疎まれながらも故国を救う方法を模索する。
 歴史の奔流に飲み込まれる国に凛と立つ人物を描き、秋冷な筆色の中に深みをたたえた「楽毅」第二巻。

楽毅(二)(新潮文庫)
宮城谷昌光

天地人

 NHK大河ドラマ「天地人」が最終回を迎える。お涙頂戴シーンと回想シーン満載のホーム・ドラマ。合戦がほとんど描かれない戦国時代で、盛りあがらないことこの上ない。石田三成があまりに軽くて、直江兼続とのやりとりは、ほとんど学園ドラマ。それでも全話見てしまった。笹野高史演じる豊臣秀吉と松方弘樹の徳川家康が、主人公と対称を極めていたのがちょっとスパイスとなっていたためか。

楽毅 一

 中国の春秋戦国時代、天才的な力を発揮した楽毅の生涯を描く宮城谷昌光の小説。大国趙の執拗な侵攻にさらされ、暗愚な君主に翻弄される中山国。その中で、宰相の子である楽毅は、祖国を守る方途を探る。
 小さな国に降りかかる難題に、智力を駆使して立ち向かう様は、心の深いところに響くものがある。特に、塞の攻防をめぐる戦の描写は圧倒的な面白さ。簡潔で無駄がない文章の奏でる韻律も心地よい。
 人を真に動かす力とは何かを、国と国とのせめぎ合いの中に活写する、娯楽性と格調高さを兼ね備えた名作。

楽毅(一) (新潮文庫)
宮城谷昌光

影武者

 武田信玄の負傷により影武者となった男の顛末を描く、黒澤明監督の映画「影武者」。どのシーンも美術的であり、大胆な色彩と構図で見る者に迫る。精悍な風貌の織田信長と、のほほんとした雰囲気の徳川家康など、キャラクターの個性も興味深かった。
 高校生の時、この作品を見た後輩が、「ラストに黒澤明のユーモアを感じた。」といった言葉がいまだに印象に残っている。当時、時代劇などに興味があまりなく自分から見に行くことはなかった。黒澤明の長い作品を映画館まで足を運んで見るとはたいした後輩だと感じたものだ。
 人間の業を多彩な俳優と精緻な美術で表現した絢爛たる戦国絵巻。

天地人 38 39

 NHK大河ドラマ「天地人」は、第38回「ふたつの関ヶ原」1回で山場の一つである関ヶ原の戦いを描く。ややあっさりと終わった印象。予算がないのだろうか。それなりに見せるシーンもあったのだが、その日のうちに三成も捕らえられ、コンパクトにまとめられた関ヶ原となっていた。
 第39回「三成の遺言」では、黒澤明監督の映画「生きる」のように、福島正則や小早川秀秋など人々の口から石田三成の最期が語られる。こちらは「義」を体現するため、じっくりと描かれていた。

NHK大河ドラマ「天地人」

天地人 35

 NHK大河ドラマ「天地人」第35回は、「家康の陰謀」。秀吉の死以降、策謀をめぐらす家康の怪しい振る舞いを、松方弘樹が楽しそうに演じていたのが印象的。
 亡くなる前に最後の意地を見せる前田利家のシーンでは、宇津井健が俳優としての風格を示した。

NHK大河ドラマ「天地人」

アクセスランキング

Ajax Amazon

  • Amazon.co.jpアソシエイト
  • UserLocal
  • Ajax Amazon
    with Ajax Amazon