クーベリック ベルリオーズ:幻想交響曲

 クーベリックの幻想交響曲を再び聴いてみたが、やはり素晴らしい。
 第1楽章のメリハリのはっきりした演奏には、この曲の良さを教えられた。「幻想」というと、靄にかすんだような漠としたイメージがあるが、クーベリックは極めて明瞭にメロディーを浮き上がらせ、各楽器を見事に生かしている。それゆえ、演奏者も高揚感があり、それが聴く者のカタルシスに繋がる。
 第4楽章、第5楽章の燃焼度はすざまじく、圧巻。それも、第1楽章から第3楽章までの構成が画然としており、聴き手の気持ちをぐっと惹き付けてきた後だからなおさらなのであろう。超オススメの名盤。

SYMPHONIE FANTASTIQUE/

荒鷲の要塞

 断崖絶壁の上にそそりたつ難攻不落の「鷲の城」。第二次大戦中、ドイツ軍要塞に潜入し、アメリカ軍の捕虜を救出する兵士たちの活躍を描く戦争スペクタクル。
 雪山にそびえる城は圧巻の存在感を放ち、その救出劇はこの上なくスリリングである。リチャード・バートン、クリント・イーストウッドらの演技も貫禄がある。アリステア・マクリーンの見事な脚本と、ブライアン・G・ハットン監督による重厚な映像が映画の品格を高めている。
 超一級の戦争アクション映画。

シャイロックの子供たち

 「下町ロケット」で直木賞を受賞した池井戸潤の経済小説「シャイロックの子供たち」。東京下町の銀行を舞台に繰り広げられる群像劇で、10の短編からなるが、それぞれの話が関連を持ち、全体としてもひとつのミステリーとして構成されている。
 各短編で一人一人の銀行での生き方が素描され、働くことの苦悩や意義が問いかけられている。ミステリーの手法をとるが、それが各人の生き様をあぶり出し、読む者に迫る。

シャイロックの子供たち (文春文庫)

南極のペンギン

 高倉健が映画撮影で訪れた土地で感じたことを綴ったエッセイを、自ら朗読するCD。いっさい奇をてらうことをせず、素直に風景や心情が語られる。素朴なだけに、ストレートにその優しさが伝わる。それは、「アフリカの少年」「北極のインド人」「ふるさとのおかあさん」「奄美の画家と少女」というエッセイのタイトルにも表れている。
 木訥に語られる素直な想いを聴いていると、俳優高倉健の魅力は、まっすぐに役にまたその人生に向き合っていることでにじみ出ているのだと感じる。
 宇崎竜童の音楽も語りに寄り添い、よい味わいをだしている。

教えるということ 大村 はま

 「私は、子どもがかわいいのであれば、子どもをとにかく少しでもよくしていける、教師という職業人としての技術、専門職としての実力をもつことだ、子どもをほんとうにかわいがる、幸せにする方法は、そのほかにはないと思います。」

 大村はまが、富山県新規採用小学校教員にむけて行った講演「教えるということ」を始め、「教師の仕事」「教室に魅力を」「若いときにしておいてよかったと思うこと」の4編の講演を収めた書。優しい言葉で語られるが、そこには強烈なプロ意識と、教える者としての使命感に溢れている。教育の原点を改めて思い起こさせてくれる凛然とした書。

評伝 大村はま

 「そうだ、やさしいことばでこそ、人の心のなかに入っていけるのだ、むずかしい理論、高い思想、深い感動を、みんなにわかるやさしい、平らな、なめらかなことばで伝えていかなければ、文化はみんなのものにならないのだ」

 98歳になるまで、国語教育に渾身で取り組み、多くの生徒たちを育てた大村はま。その教え子であり、晩年はまの仕事を支えた苅谷夏子氏が著した「評伝 大村はま」。
 大村はまの人格が形成され、国語教師として実践を重ね、多くの生徒の生涯に影響を与える授業を創り上げる過程を丁寧に描いている。
 日露戦争、関東大震災、太平洋戦争、戦後の混乱など、日本の近現代史を背景にしながら、大村はまの関わる人々や当時の学校の様子が生き生きと綴られ、物語としても惹き付けられ、飽くことがない。
 はまの学びや実践から、教育に対する様々な考え方が具体的に記され、極めて示唆に富む。
 平易な言葉で、するすると読むことができるが、実に多角的な視点で大村はまの人物と実践が語られ、内容はたいへんに深い。心にすんなりと言葉がはいってくる。この本そのものが、大村はまによる国語教育の成果とも言える。
 多くの感動と真の敬愛に満ちた、優れた教育書。

 なお、著者の苅谷夏子氏による講演会
「ことばが生きていた教室 -国語教師・大村はまが育てたもの-」
が、2011年2月5日、群馬県総合教育センターにおける「ぐんま教育フェスタ」で行われる。

群馬県総合教育センター ぐんま教育フェスタ

評伝 大村はま ことばを育て 人を育て (単行本)
苅谷 夏子

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル

 「嵐をよぶジャングル」は、クレヨンしんちゃんの劇場映画第8作。
 しんたちゃんたちの乗る豪華客船を謎の軍団が襲い、大人たちを拉致してしまう。
 かすかべ防衛隊の面々が活躍する作品。とりわけ、森の中でのエピソードは秀逸。
 原恵一の凝りに凝った脚本や演出が冴える。一流のエンターテイメント映画にもひけをとらない波瀾万丈の快作。

映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル  [DVD]

レミーのおいしいレストラン

 「誰にでも料理はできる」

 料理好きのネズミが活躍するディズニー・アニメ「レミーのおいしいレストラン」。ブルーレイで見ると、ネズミの毛並み一本一本まではっきりとわかり、CGの表現力に感嘆する。ことに、料理や厨房の精緻な表現と、パリの街の美しさが素晴しい。
 前向きなメッセージをベースにした、友情、恋愛、陰謀、成長、奇跡、笑いあり涙あり、フルコースのアニメーション。

影武者

 武田信玄の負傷により影武者となった男の顛末を描く、黒澤明監督の映画「影武者」。どのシーンも美術的であり、大胆な色彩と構図で見る者に迫る。精悍な風貌の織田信長と、のほほんとした雰囲気の徳川家康など、キャラクターの個性も興味深かった。
 高校生の時、この作品を見た後輩が、「ラストに黒澤明のユーモアを感じた。」といった言葉がいまだに印象に残っている。当時、時代劇などに興味があまりなく自分から見に行くことはなかった。黒澤明の長い作品を映画館まで足を運んで見るとはたいした後輩だと感じたものだ。
 人間の業を多彩な俳優と精緻な美術で表現した絢爛たる戦国絵巻。

カンフーハッスル

 チャウ・シンチー監督・主演の映画「カンフーハッスル 」。荒唐無稽と言えばそれまでだが、この映画のエンターテイメント性を凌げる映画は多くない。徹底したアクションと脚本の妙で、その世界に観客を引きずり込む。数々のアクション映画のオマージュであり、しかもギャグとアクションのバランスが見事。チャウ・シンチーの下積みの長さが開花した、何度見ても楽しめる映画。

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