WALL・E/ウォーリー

 人類がいなくなった地球で、ゴミを収集する作業を一人続けるロボット、WALL・E(ウォーリー)の冒険を描く長編アニメーション”WALL・E/ウォーリー”。ピクサーとディズニーによる作品であり、個性豊かなキャラクターとよく練られたストーリーにより、素直に楽しめる。
 ゴミの緻密な表現と、荒廃した都市のスケールの大きなCGに圧倒される。また、ロボット同士の交流では、最初は台詞がなく、仕草のみで表現しているところに、ピクサーCGの職人的なこだわりと確かな技術を感じる。
 情感が静かに伝わるいい雰囲気の前半から、後半、一気にスピード感が増すストーリー展開も高揚感があって良い。
 第81回アカデミー賞長編アニメ映画賞の他、数々の賞に輝く快作。

晏子 2

 戦雲渦巻く中国の春秋時代を描く「晏子」第2巻では、智将、晏弱が目の覚めるような活躍をする。特に、兵五千で、敵将王湫の束ねる一万の精兵と激突する莱での攻防戦が実におもしろい。虚々実々の駆け引き、遠大な戦略が、第2巻の半分にわたって繰り広げられる。しかし、長さは感じず、次々とページをめくらずにはいられない。
 清新な文章と心地よいリズムのある展開で、爽風を受けるがごとく読む喜びを感じる。

晏子(二) (新潮文庫)

ポセイドン・アドベンチャー

 岩手県出身の友人と話していて、懐かしい映画が話題になった。
 『子どもの時に映画館で見た、「ポセイドン・アドベンチャー」は、今でも鮮明に印象に残っているね。実家の前が海だったから、巨大な津波が船を襲うシーンは人ごとではなく、ホント身震いがきたよ。』
 大津波で真っ逆さまになった船内から脱出する人々を描く1972年の映画「ポセイドン・アドベンチャー」は、その濃密な人間ドラマゆえに、名作の地位を不動のものとしている。パニック映画は、極限状況で人々が見せる赤裸々な姿や彼らがとる行動を描くことに意味がある。それをはき違えて、単なるアクションに終始する作品のいかに多いことか。
 余韻の残るこの映画の緊迫感は、一級の人間描写に支えられている。 

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ロナルド・ニーム ジーン・ハックマン アーネスト・ボーグナイン

野沢尚 青い鳥

 2004年6月28日、脚本家の野沢尚が亡くなった。首を吊って自殺とのことだ。たいへん味のある、緻密な構成のドラマを作る方だったので、残念であった。
 野沢尚が手掛けた作品で特に印象深いのが、豊川悦司主演の「青い鳥」だ。駅長と町の御曹司の再婚相手との逃避行を描く、ロードムービー風のラブストーリー。豊川悦司、夏川結衣、佐野史郎など俳優の個性が実によく出ていた。北海道から沖縄まで、日本各地の抒情を織り込みながら、人々の微妙な陰影が描かれ、引き込まれるドラマだった。
 野沢尚は、この作品の脚本を何十回も書き直したという。駅長と母娘との愛情が育っていく様が丁寧に描写され、その後の逃避行に無理なくつなげていくことに随分心を砕いたようだ。練り上げられた脚本に支えられ、透明感のある名作となった。

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ドラマ クライマーズ・ハイ 後編

 録画しておいたNHKのドラマ「クライマーズ・ハイ」の後編を見る。
 主演の佐藤浩市は谷川岳の衝立岩に自ら挑み、体を張って望んだ。
 御巣鷹の尾根で命を落とした人々を背負った作品である。中途半端なものは作れないというスタッフの意気込みが感じられた。
 「覚悟を持って」望んだドラマは、横山秀夫の原作の緊迫感と重みを見事に表現していた。

クライマーズ・ハイ[DVD]

ドラマ クライマーズ・ハイ 前編

 NHKで放映された「クライマーズ・ハイ」前編を見る。横山秀夫の原作に忠実で、日航機墜落を追う新聞社の動きが、緊迫感をもって描かれている。主人公を佐藤浩市をはじめ、新聞記事に携わる人々を、存在感のある俳優たちが競演し、見応えのある人間ドラマとなっている。ニュース映像や、記者の表現から20年前の日航ジャンボ機123便墜落の大惨事がまざまざと思い出された。

 報道というテーマを軸に据え、様々な人間関係が縦横に描かれる実に密度の濃いドラマ。

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リヒテル ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番

 ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番ハ短調、この甘美な旋律に彩られた名曲を、自由闊達に弾くリヒテルの演奏には心底魅了される。1959年の演奏だが、古めかしさはいささかもなく、美しい響きに満ちあふれている。第2楽章などは、鳥肌が立つほど繊細で心ふるわせる叙情がある。

チャイコフスキー&ラフマニノフ:ピアノ協奏曲、他
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
リヒテル(スヴャトスラフ) カラヤン(ヘルベルト・フォン)

カザルス ブランデンブルク協奏曲

 パブロ・カザルス指揮、マールボロ音楽祭管弦楽団演奏のバッハ作曲ブランデンブルク協奏曲を久しぶりに聴いた。なんと躍動感にあふれたバッハなのだろう。奏者が演奏することに喜びを感じ生き生きとしていることが伝わってくる。

 個人的に気に入っているのは、第3番と第5番。第3番の明るく優雅な雰囲気は、広やかな気分になれる。第5番の喜びに溢れたリズミカルな演奏には、思わずうきうきとしてくる。チェンバロでなく、ピアノで演奏されており、その情感をもったふくらみのある曲調は、ロマン派のピアノ協奏曲のようだ。

 新たに気づいたのは、第6番の素晴らしさだ。特に第2楽章の豊かな表現は、惻々と胸に迫ってくる。

バッハ:管弦楽組曲(全4曲)/ブランデンブルク協奏曲(全6曲)

クライマーズ・ハイ

 1985年8月12日- 20年前のこの日、群馬県立万場高等学校で、就職希望者を対象にパソコン講座が開かれた。当時、まだ学校にコンピュータはそれほど普及しておらず、山懐に抱かれた普通科の高校で、生徒ひとりひとりがコンピュータに触れる機会はなかった。そこで、主に事務系を希望する3年生の生徒さんにコンピュータを体験させたいという思いで、企業からパソコンを借りて、6日間の日程で実習を行った。

 講座初日のこの日、自作したテキストに沿って生徒が夢中で取り組んでいる姿を見て、いい滑り出しになったことにたいへん気分を良くした。近くの教員宿舎に帰り、お酒を飲んでいると、サイレンの音やヘリコプターの飛ぶ音がやけに響き始めた。当時、教員となって1年目でテレビはおろかラジオすらもっていなかった。

 翌日、パソコン講座の会場にいくと、上野村からきている女子生徒さんたちが、昨日はたいへんだったねなどと話していた。「何がたいへんだったの?」と聞くと、「先生知らないの?昨日は飛行機が近くに落ちたので、お父さんたちもみんな山に行ったんだよ。」あわてて新聞を見て、墜落した航空機が524人を乗せていたことを知った。宿直室のテレビをつけると、一面緑の山中にできた傷痕、木々がなぎ倒され茶色い土と焦げた地面が見え、白煙のあがる墜落現場-御巣鷹の尾根が映しだされていた。

 この事故を新聞記者の立場で描いた「クライマーズ・ハイ」は、当時の世相や地元の様子を盛り込んでいることもあり、たいへん興味を持って読み進むことができた。

 新聞記事をめぐり、社内の確執が大小様々な形で起こる。しかも、新聞には「締切り」という、決断を下す刻限が毎日ある。そのため、独特の緊迫感を持った展開になっている。

 群馬県は、県境の半分が屹立した山である。自分にとって、山は身近なものであると同時に、憧れと安心、また時に畏怖の念を抱かせてくれ、乗り越えるべき対象の存在を象徴していた。クライマーズ・ハイは、そんな心象としての山も描かれており、救いのある読後感であった。

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

沈まぬ太陽

 「沈まぬ太陽」を強く意識するようになったのは、1999年の群馬交響楽団定期演奏会で、「ヴェルディのレクイエム」を歌った日であった。300人を超す合唱団員の一人として舞台に立ったが、幸運なことに、ソリストのすぐ後ろ、指揮者高関健氏の真ん前で歌うことができた。日本を代表するソリストの歌唱を手が届くほど間近で聴き、音楽に和すことができたのは、この上ない幸せであった。

 本番が終わった後には、合唱団員が舞台に再度集まり、指揮者やソリスト、合唱指導者などが講評を行うセレモニーがある。このとき、メゾソプラノの永井和子さんが、こんなことをおっしゃった。

 「山崎豊子の『沈まぬ太陽 第3巻』をちょうど読み終えたところで、この地の近くである御巣鷹の尾根で飛行機事故により亡くなった人々の冥福を祈りながら歌いました。」

 捧げる対象があることで、音楽の真価が表れることを深く感じさせられた日であった。

 ジャンボ機墜落事故を軸に、航空会社を描く大作「沈まぬ太陽」は、極めて密度の濃い、充実した読後感のある作品。元日航社員の小倉寛太郎氏、鐘紡会長の伊藤淳二氏など、実在の人物や事柄がモデルになっている。それらの人々の真摯な生き様と、利権を守ろうとする魑魅魍魎の対比が見事な筆致で活写されている。

 中核をなす御巣鷹山の惨事とそれをめぐる家族の描写は、涙なくしては読めない。作家生活40年で培われた卓越した語り口に魅惑され、テーマに向かう気迫に圧倒された。
 

沈まぬ太陽〈3〉御巣鷹山篇 (新潮文庫)

沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上) (新潮文庫)

沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下) (新潮文庫)

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