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城山三郎氏を悼んで

 作家、城山三郎氏が3月22日死去した。79歳だった。
 経済の側面から日本人の姿を浮き彫りにした小説からは、どれも懸命に生きる人々の気概が伝わり、多くの作品から感銘を受けた。
 「雄気堂々」では、幕末から明治にかけて激動の時代に活躍をした渋沢栄一の生き様が、徳川慶喜、大隈重信らとの交流と共に描かれ実に興味深く読めた。わきかえる時代の描写、スケールの大きさな人物像に圧倒された。
 田中正造の晩年と、公害の被害者の生き様を描いた「辛酸」は、苦境の中でも信念を貫く人々の姿が印象に残る重みのある作品であった。
 「もう、きみには頼まない」は、高度経済成長期に経団連会長をつとめた石坂泰三を描いた小説。文化の薫りを持ち、グローバルな視点で経済の舵取りをし、気骨と懐の深さをもった財界人の生涯に刺激を受けた。
 「黄金の日日」では、信長・秀吉と経済を基に対峙する堺の人々の誇りと気概にふれ、時代小説の新たな魅力を感じさせられた。
 「百戦百勝」は、相場の世界に生きる男をユーモアに溢れた筆致でつづり、痛快無比な作品だった。
 「落日燃ゆ」は、最も大事にしたい小説の一つ。戦争回避に努めながらも、東京裁判で絞首刑を宣告され、一切の弁明をしかなった元総理、外相、広田弘毅。その生き様には頭を垂れる思いであった。
 城山三郎氏の描く、大局を見据え懐深く存在感のある人物像に強く惹かれるのは、日本が小さく固まらず、より良い方向へ導いてくれるリーダーを渇望しているためかもしれない。
 凛然とした文体は、時に自然と姿勢を正さずにはおられないほどの静かな迫力があった。組織や社会の複雑さが対象であるにもかかわらず、読後は常に快さが残った。根底に人に対する暖かい眼差しがあるためであろう。
 ご冥福をお祈りいたします。
 

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