« 2019年1月 | メイン | 2019年3月 »

アガサ・クリスティー完全攻略

 アガサ・クリスティーが生んだ探偵エルキュール・ポアロ、ミス・マープルのみならず、トミーとタペンス、ノンシリーズなどクリスティー全ての作品を評した書。短編、戯曲にまで及ぶ。各作品には星の数でオススメ度を示している。
 中学生の頃からクリスティー作品を愛読していた身にとっては、実に楽しい本であった。いろいろ読んできたつもりであったが、これほどたくさん未読の作品があったかと驚かされた。
 ネタバレには注意して記してあるが、これから読む楽しみのために、未読作品にはなるべく目を通さないようにした。それでも、既読の作品へのコメントはたいへん興味深かった。
 もっとも、個人評であるので、当然自分が読んだ感想と異なる部分もある。例えば「謎のビック・フォア」は、テンポ良いストーリーに惹かれた個人的には最良の読書体験のひとつなのであるが、本書の評価はとても低い。そのように、「これ違うかなあ」という読み方もまた楽しめるのである。
 それにしても、クリスティーの膨大な作品を網羅した本書を読むと、いかにアガサ・クリスティーが偉大であったをあらためて感じさせてくれる。未読作品の道しるべとしてたいへんありがたい。
 クリスティー作品の素晴らしさを伝える魅力に満ちた書。

アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕

そして誰もいなくなった

 クリスティーのミステリーで、ベスト・ワンは自分にとっては、「そして誰もいなくなった」である。ページをめくりしばらくすると、もうその世界からは離れられない。一気に読まずにはいられない求心力を持っている。
 孤島に集められた10人が、マザー・グースの童謡になぞらえて一人一人殺されていく。その着想もすごいが、筋運びの巧みさがあまりに見事。
 最後の一人が亡くなったときの戦慄はいまなお忘れ得ない。
 映像化は様々されているが、どれもいまひとつ。それは、この最後の瞬間の感覚があまりに強烈すぎ、どれも原作を素直になぞる映像としていないためであろう。
 クローズド・サークル・ミステリーの嚆矢にして最高傑作。

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

終りなき夜に生れつく

 アガサ・クリスティーのミステリー「終りなき夜に生れつく」。貧しい青年ロジャースは、丘の風景に魅了され、そこに家を建てることにあこがれる。その場所で出会った女性と恋に落ち、順調に進んでいくが…。
 実にクリスティーらしい作品である。ロマンス小説のようであるが、徐々に不安の陰が色濃くなっていく。
 円熟の筆で描くロマンティック・ミステリーの逸品。

終りなき夜に生れつく(クリスティー文庫)

ポケットにライ麦を

 アガサ・クリスティーの本格ミステリー「ポケットにライ麦を」。探偵役のミス・マープルが登場するシーンがかっこいい。この本のマープルは本当に輝いている。
 マザー・グースの「6ペンスの唄」をモチーフにした傑作ミステリー。
 ネットで本書を基としたドラマの動画を見つけるが、いきなり文字列が横から流れてきて、その中に犯人らしき人物の名前があり目にとまってしまった。ネットを見たことをつくづく後悔した。悪意に満ちた小説であるが、ネットもまた悪意が渦巻いている。

ポケットにライ麦を (クリスティー文庫)

シン・ゴジラ音楽集

 映画「シン・ゴジラ」のサウンド・トラック。鷲巣詩郎の解説がたいへん興味深い。職人芸的な音楽であることがよく伝わってくる。
 鷲巣詩郎は漫画家であり特撮・映像作品プロデューサーのうしおそうじの長男である。幼い頃から父に連れられて、伊福部昭が音楽を手がけた映画を数多く見に行ったとのこと。
 シン・ゴジラは、伊福部昭に最大限の敬意をはらった音楽に支えられている。

シン・ゴジラ音楽集
伊福部昭 鷺巣詩郎

五匹の子豚

 アガサ・クリスティーがこだわりをもった「過去の殺人」を扱った推理小説。ポアロに母の無実を証明してほしいという依頼が届く。16年前の事件に、ポアロは関係者の証言を頼りに真実を紡いでゆく。
 過去を扱っているがゆえに、静かな印象の作品である。しかし、それゆえに人間関係の綾なしが前面に出て、実に見事に構築された心理小説となっている。
 クリスティーの名人芸を堪能できる一級のミステリー。

五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

葬儀を終えて

 アガサ・クリスティーの「葬儀を終えて 」。大富豪が亡くなった後、一族が集まる中、末の妹が無邪気に口にした言葉が発端となり、悲劇が繰り返される。
 これもクリスティーは天才だと感じさせてくれた小説。この作品に関しては多くを語るより、とにかく読んでもらったほうが良い。

葬儀を終えて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
葬儀を終えて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

オリエント急行殺人事件

 これもアガサ・クリスティーの名作中の名作。中学生の頃、読もうと思っていたら、同じクラスの女子から「犯人は……だよね。」と言われてしまった。そのため、残念ながら読む気がなくなってしまった。
 成人になって読むと、実によくできたミステリーだと感心する。トリックの連鎖、ミスディレクション、会話の巧みさ、そして、人間関係の妙。あらゆる要素が詰め込まれ、濃密なミステリーとなっている。
 ちょうど1974年、シドニー・ルメット監督が映画化した時期に書店で本書を手に取った。そのまま買ってすぐに読んでいればと思う。もっとも、クリスティー作品の魅力は単なる犯人さがしではなく、プロットの妙。その手腕が遺憾なく発揮された名編。

オリエント急行の殺人 (クリスティー文庫)
オリエント急行の殺人 (クリスティー文庫)

ABC殺人事件

 アガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」。小学生の頃、子ども向けに書かれた本を読み、ぶっとんだ覚えがある。衝撃という点では、クリスティー作品に慣れていなかったこともあり、最大であったかもしれない。
 中学生になってじっくり文庫本に向き合ったときも良い読書体験であった。

ABC殺人事件 (創元推理文庫)
ABC殺人事件 (創元推理文庫)

アクロイド殺害事件

 小学生の時にはホームズやルパンの本をよく読んだ。中学生になり、クリスティーを読むようになったが、最初の作品が「アクロイド殺害事件」であった。
 名作中の名作であるため、ミステリーのガイドブックなどには必ず出てくる。が、当時の本はネタバレも平気で書くため、犯人を知ってしまった。しかし、この本の凄いところは、犯人を知っていても、読んでいてどう考えてもその人が犯人と思えないことである。クリスティーの手腕恐るべし。

アクロイド殺害事件 (創元推理文庫)
アクロイド殺害事件 (創元推理文庫)

アクセスランキング

Ajax Amazon

  • Amazon.co.jpアソシエイト
  • UserLocal
  • Ajax Amazon
    with Ajax Amazon