記憶にございません!

 正月、家族で三谷幸喜の映画「記憶にございません!」を視聴する。頭に石があたり記憶を失った総理大臣を中井貴一が演じている。
 政治がどうのではなく、リクツ抜きに気楽に見られる喜劇である。三谷組の個性的な面々が出演し、ヴァラエティに富んだ群像劇になっている。とりわけ、秘書をつとめる小池栄子が実にいい味を出していた。
 年始め、ちょっと気持ちをリセットできた映画であった。

記憶にございません!

クボ 二本の弦の秘密

 「コララインとボタンの魔女」のスタッフが制作した「クボ 二本の弦の秘密」。
 素晴らしい。あまりに素晴らしい。美術的な卓越したセンス。日本の文化に対するまごうかたなきリスペクト。技術と魂が融和した作品世界にひたすら没頭した。
 美とは人の営みが意志をもって突き詰められることによって他に感動を与える。それを如実に示した作品。折り紙のシークエンスはどれも見事。二胡の音楽はシンプルゆえにすっと心に届く。
 惜しむらくは、後半のストーリーの練度がいまひとつのところか。造形が前面に出て物語がついていけない側面があったことは否めない。しかし、ストップ・モーションの技術はそれを補って余りある。
 動きと美的センスが光る職人芸的アニメの傑作。

KUBO/クボ 二本の弦の秘密(字幕版)

天才バカヴォン 蘇るフランダースの犬

 「フランダースの犬」のネロとパトラッシュは天国に召されるはずだったが、怨みを抱き地獄に趣く。世界征服をもくろむ組織はそれを利用しようとするが、バカボンのパパがひたむきなバカで立ち向かう。
 と言う設定であるが、ネロはそのままイノセントであり、バカボンとのからみも実にストイック。パパも突き進む様はそのままに善良さが前面に出ている。なので、設定はハチャメチャであるが脚本は意外に常識的なお話にまとまっている。
 官僚である神田さんの献身的な姿勢に心打たれたりする。プロフェッショナルの流儀を体現しているのだ。バカボンのママは理想的なママ。それら常識人に支えられパパはバカを貫ける。これでいいのだ。
 「天才バカボン」「フランダースの犬」、共通点はテーマ音楽の作曲者が渡辺岳夫である点。偉人の上になりたつ存外まっとうなアニメーションである。

天才バカヴォン 蘇るフランダースの犬

映画「けいおん!」

 テレビアニメ「けいおん!」の第2期の流れをくむ映画。テレビシリーズ同様、京都アニメーションの山田尚子が監督をつとめる2011年公開作品。
 軽音部の4人は卒業旅行に行くことを決め、紆余曲折の末ロンドンに行くことになる。後輩の梓も加え、海外に旅立つ。
 京都アニメーションのやわらかな作画が心地良く作品にひたらせてくれる。特に、ロンドンの描写は秀逸で、細部まで丁寧に描かれており素晴らしい。
 ゆったりとした時と青春のきらめきを共に感じさせてくれる良作。

映画「けいおん!」【TBSオンデマンド】

イリュージョニスト

 シルヴァン・ショメ監督による2010年のアニメーション映画「イリュージョニスト」。老手品師タチシェフは、場末の劇場などで古い手品を披露していた。ある離島の酒場で働く少女アリスは手品に魅せられ、タチシェフの後を追う。エディンバラの安宿で二人は生活し始めるが…。
 背景が実に素晴らしい。人生の哀歓に満ちた、風情豊かなアニメーション。  

イリュージョニスト (字幕版)

時をかける少女

 原田知世初主演の角川映画。筒井康隆原作、1983年公開の大林宣彦監督作品。尾道の情景を生かしながら、明朗快活な少女をめぐる不思議な体験を描く。
 原田知世がイノセントな魅力を全編にわたり放っている。エンディングのプロモーション・ビデオ的な映像も当時は新鮮であった。抑圧的な演技が解き放たれた昇華的な意味合いもあり、後味の良さをかもす。
 様々な思い入れが交錯する、アイドル映画のエポック・メイキング的な作品。

時をかける少女

ザ・角川映画スペシャル

 「犬神家の一族」のテーマ曲「愛のバラード」に始まり、角川映画の音楽が収録された2枚組のCD。「人間の証明」「蘇る金狼」など初期作品のテーマ曲が懐かしい。
 「セーラー服と機関銃」「時をかける少女」など、アイドル路線の音楽も印象に残るものが多い。
 メディアミックスを推し進めた角川映画は、音楽にも抜群のセンスが発揮されている。

40周年記念コンピレーション ザ・角川映画スペシャル

MAGI 天正遣欧少年使節 10

 「あなたがたは、なぜ簡単に答えをだすのです」

 「MAGI 天正遣欧少年使節」最終話は「終わりなき旅へ」。ローマ法王への謁見を果たし、少年たちは帰国の途に就く。しかし、日本は秀吉の命により、キリスト教徒への苛烈な迫害が始まっていた。
 歴史に翻弄される少年たちを通し、信仰のありよう、文化のせめぎ合いを描き、ダイナミックに16世紀の日欧を活写した意欲作。鎌田敏夫の優れた脚本、長崎俊一監督による映像美により、極めて見応えのあるドラマになっていた。
 とりわけ少年たちの中でも信仰心の熱い中浦ジュリアン演じる森永悠希には、藤井道人監督の「青の帰り道」において職場での撮影現場でお会いしたこともあり、その繊細な演技に引き込まれた。
 優れたスタッフと俳優の演技により、時々の人々の苦悩と矜持を鋭く描く深みのあるドラマであった。
 歴史は人々の有り様を照射し、今なお問いかけを続けている。それをまざまざと伝える作品。

THE LAST EPISODE 終わりなき旅へ

MAGI 天正遣欧少年使節 9

 「MAGI 天正遣欧少年使節」第9話は「三人の賢者 -ヴァチカン篇-」。少年たちは、ついに法王に謁見することがかなう。一方、秀吉は諸国に伴天連追放令を掲げる。
 法王との謁見シーンでは、作り手の思い入れも感じられ、自然と涙が出てきた。そこには、人としての偽らざる発露があった。

EPISODE 9 三人の賢者 -ヴァチカン篇-

MAGI 天正遣欧少年使節 8

 「MAGI 天正遣欧少年使節」第8話は「物乞いの子 -ローマ篇-」。ヴァチカンを目前にするが、少年たちの身分に疑念が生じ木賃宿で足止めとなる。一方、利休を死罪にし、高山右近を放逐した秀吉は、宣教師に自らの胸の内を語り、キリシタンへの憤懣をあらわにする。
 常に冷徹に周囲を見る伊藤マンショが自らの過去を語る。愛と残酷さ。キリスト教のもつ二つの側面を多層的に描きだす回。

EPISODE 8 物乞いの子 -ローマ篇-

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