胡蝶の夢 第1巻

 「胡蝶の夢」は、幕末の蘭学者たちの姿を通し、江戸期の身分社会を越えていった人々を描く司馬遼太郎の小説。
 「坂の上の雲」は、冒頭に松山が舞台となっていたが、「胡蝶の夢」は、佐渡から始まる。この出だしがまた秀逸である。佐渡では、世界地図に造詣の深い人が描かれ、一地方から全てを見渡す物語の手法を象徴している。
 島倉伊之助という不思議な主人公を据え、松本良順との師弟関係を軸に、幕末の医療を浮かび上がらせていく巧さは、見事としか言いようがない。

胡蝶の夢〈第1巻〉 (新潮文庫)
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司馬遼太郎が語る 第8集

 「医学が変えた近代日本」という演題で、1988年に順天堂大学で行われた司馬遼太郎の講演。
 江戸時代に西洋から伝えられた医学は、「自由」「平等」という思想の種を宿し、幕末日本に大きな影響を与えた。ポンペや彼に学んだ松本良順、順天堂において医療技術を高めた佐藤舜海の話を交えた具体的な話はたいへん興味深い。
 また、医者は「患者の最後の友」であるべきという基本的な考えを歴史から指し示し、内容、気概ともに実に素晴しい講演。

司馬遼太郎が語る 8 医学が変えた近代 [新潮CD]

坂の上の雲 4

 NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」第4回は、「日清開戦」。モンゴルでロケを行った戦闘シーンは、圧巻の迫力。端役に至るまで主役級の俳優をあてる豪華な布陣、当時の様子を丁寧に再現した映像で、毎回あっという間に90分が過ぎる。

NHK 「坂の上の雲」

坂の上の雲 第1部―NHKスペシャルドラマ・ガイド
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坂の上の雲 3

 NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」第3回は、日本が清国との戦争に突入するまでの過程を、主人公3名の歩みと共に描く。家族とのふれあいと、歴史上の事件が交互に描写されていく。世界史のうねりを感じさせる回。
 エンド・ロールに流れる、久石 譲が作曲し、サラ・ブライトマンが歌うテーマ曲が、空の青さのように胸にしみ入る。

NHK 「坂の上の雲」

NHKスペシャルドラマ 「坂の上の雲」 オリジナル・サウンドトラック
久石譲
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井上靖 「孔子」を語る

 井上靖が、長編小説「孔子」を完成後に行った講演のCDを聴く。平易な言葉で、孔子の生涯やその思想の一端を、暖かみのある言葉で語っている。また、構想20年、孔子の実像に迫ろうとする熱意と、小説に書きたい思いが伝わってくる。
 この講演を行ったときの年齢が82歳と知り、たいへん驚く。食道を取る手術をした後でも、中国の地に長旅をし、孔子の思想を少しでも理解しようとする姿勢に心打たれる。

「孔子」を語る―付/インタヴュー「孔子の詞について」 (新潮CD 講演)
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坂の上の雲 2

 NHKスペシャル・ドラマ「坂の上の雲」第2回では、松山出身の秋山好古、真之、正岡子規。3名がそれぞれの道を歩み出す姿を描く。
 好古が入学する陸軍大学校における、ドイツ陸軍の参謀将校メッケル少佐とのやりとりと、旧松山藩主久松家の若殿に従ってフランスに留学するよう家令から頼まれるシーンが素晴しかった。緊迫感と潔さが見事に表現されていた。明治のおおらかさを含んだ気風の中、自らの役割をつかみ取っていこうとする真剣な若者の姿がまぶしく印象に残る回であった。

NHK 「坂の上の雲」

武蔵野 牛肉と馬鈴薯

 国木田独歩の「武蔵野」「牛肉と馬鈴薯」を久米明が朗読したCDを聴く。「武蔵野」の詩情に満ちた自然描写を、快い韻律のうちに聴き、落ち着いた心持ちになる。「牛肉と馬鈴薯」の、とめどない話の中に理想と現実の相克を露わにする表現からは、明治の知識人が抱く純度の高い苦悩を感じる。

武蔵野 (新潮CD)
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だらだら坂 大根の月

 向田邦子の短編小説「だらだら坂」「大根の月」の朗読CDを聴く。「だらだら坂」は、渡辺美佐子の朗読で、中年男の感傷がたおやかに語られる。「大根の月」は、栗原小巻がきりりとした声で語り、胸を突く名編。
 共に、一分の隙もなく構成された見事な短編。CDには、向田邦子自らが作品について語った貴重なトラックも収録されている。

猿の手

 イギリス古典ホラーの傑作「猿の手」を、無名塾の松崎謙二の朗読、榊原大の音楽で構成されたCDを聴く。忍び寄る恐怖が、巧みなセンテンスの中で語られる。榊原大の音楽も、最小限に抑えた箇所で用いられ、効果を上げている。

CD BOOK 幻想ロマン・シリーズ2~猿の手
榊原大
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坂の上の雲

 「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている。」

 NHKの大河ドラマ「坂の上の雲」がついに放送された。
 原作は、明治維新から日露戦争までの日本と日本人を描いた、司馬遼太郎が40歳代のほとんどすべてを費やして執筆した小説である。映像化するのは不可能と言われていた。自分も一読後、この書のスケールの大きさは映像にするのは難しいだろうし、なまじしても、ひどく小さな形になってしまうのではと感じた。しかし、多くの人が映像化への情熱を抱き続け、その実現は「日本映像界の悲願」とまで言われた。

 第1話では、松山での秋山兄弟と正岡子規の子供時代、そして青年期を迎えて東京に学ぶまでが描かれる。さすがに、あだおろそかに出来ないというスタッフの姿勢が伝わる、丁寧な作りであった。
 特に、秋山真之が新橋駅に降り、街を歩くシーンは、馬車や路面電車が行き交う明治の賑わいが再現された、並々ならぬ意欲がみなぎる映像であった。

 明治のおおらかな気風の中、とまどいながらも前を見つめ、歩んでいく若者の姿は、小さな国が外の世界と徐々に関わる様を象徴するかのようであった。

NHK 「坂の上の雲」

NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 第1部 DVD BOX
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坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)
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