カオスとフラクタル

 1986年に講談社ブルーバックスとして出版された「カオスとフラクタル」は、非線形の不思議を簡単な数式を交えて解説した本。単純な原理から、次々と広がりを見せていくカオスとフラクタルの世界は、極めて興味深い。豊富な例で知的好奇心を呼びおこす名著。

カオスとフラクタル―非線形の不思議 (ブルーバックス)
山口 昌哉
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ポアンカレ予想

「単連結な3次元閉多様体は3次元球面S3に同相である」

 この100年間、数学者を苦しめてきた難問、ポアンカレ予想。それが最近、ロシアの数学者、ペレリマン博士によって証明された。しかし、ペレリマン博士は、フィールズ賞の栄誉を拒否し、隠遁してしまった。
 NHKスペシャル「100年の難問はなぜ解けたのか~天才数学者 失踪の謎~」では、ポアンカレ予想の概要と、証明を果たしたペレリマン博士を追ったドキュメンタリー。
 数学を扱った内容だが、ドラマチックな展開であり、たいへん興味深く見られた。ペレリマンの証明については、もう少し詳しく説明してほしかったが、数式を使わない解説では、これが限界なのだろう。
 NHK総合テレビで10月22日に放送されたが、それに先駆けて10月1日にBSハイビジョンで放送されたときのタイトルは、『数学者はキノコ狩りの夢を見る〜ポアンカレ予想・100年の格闘〜』であった。これではまるで、映画「ブレードランナー」の原作である、フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のパロディである。「キノコ狩りの夢」と茶化すようなタイトルにするにはもったいないほど、惹き付けられる内容であった。

100年の難問はなぜ解けたのか~天才数学者 失踪の謎~

基礎がため100%中2数学 (計算・関数編)

 中学2年生の数学では、代数的な内容として、連立方程式と一次関数が扱われる。連立一次方程式に習熟した後に、一次関数を習うのだが、この2つが続くことが重要である。一次関数で2度、連立方程式を用いる場面が出てくるからだ。

 ひとつは、「グラフが2点(2,1)と(4,5)を通る一次関数を求めよ。」というような問題。一次関数を y=ax+b とおき、(x,y)に(2,1)と(4,5)を代入してa,b を求めることにより、y=ax+b を決定する。
 もうひとつは、「2直線 y=2x-1, y=-x+5 の交点の座標を求めよ。」のような、2直線の交点を求める問題。2直線の式を連立させた解 (x,y)が交点の座標となる。

 一次関数 y=ax+b において、(x,y)の2条件を元にして解(a,b)を求める問題と、(a,b)の2条件を元にして解(x,y)を求める問題。この2種類の問題は、y=ax+b の(a,b) と(x,y) との立場を入れかえた問題である。これは、数学における「双対性」に繋がる問題であり、極めて意味深い内容を含んでいる。

 このように、中学2年生の数学は、代数と幾何の橋渡しとなる数学的処理を端的に示す単元を含み、解析の基礎中の基礎となる部分だ。
 くもんの基礎がためシリーズでは、連立方程式の習熟に重点をおき、かなりのページ数をさいている。この練習のボリュームは無駄にならない。この部分は、まさに基礎がためが後々に繋がる内容だからである。

くもんの中学基礎がため100%中2数学 (計算・関数編)
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Maxima

 数式処理ソフト"Maxima"を使った演習を、高校で在職10年目となる数学の先生方にしてもらう。”Maxima”は、フリーであるにもかかわらず、たいへん優れたソフトである。しかし、文献が少ないことと、高校数学での実践例がほとんどないために普及していない。授業の組み立てによっては、生徒に試行錯誤をさせながら、数式に対する理解を深める優れた教材となる。
 Maximaを扱った市販の書としては、「はじめてのMaxima」(横田 博史著:工学社)がある。Maximaを様々な角度から解説した本である。 そのソフトの性質ゆえか、必要なことがなかなか探しだせなかったが、講座のテキストを作る上でたいへん参考になった。
 「はじめてのMaxima」には、Knoppix-Math のCDが付属しており、CDを入れれば、元のOSの環境を損なうことなくLinuxの環境となり、Maximaを含む様々なソフトが扱える。しかし、Windows版のMaximaのほうが、実際上は活用される場面が多いのではないか。
 Maximaが普及しない原因のひとつとして、グラフィックスの機能が今ひとつ精彩を欠く点にあるようだが、新たに加わった"draw"のパッケージは、その欠点を補う機能を有している。"draw"命令の扱いに関して、豊富な例題と共に解説した本があれば、Maximaが活用される場面も増えるのではないか。

はじめてのMaxima (I・O BOOKS)
横田 博史
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実社会で活用される数学

 銀行の方を講師に招き、「実社会で活用される数学」という題で、高校10年目にあたる数学科の先生に対して講義をしてもらう。銀行業務の中でも、新BIS規制以降、特に重要性が高まった「リスク管理」に数学が用いられていることが、講義の骨子であった。そこでは、多くの数学や、統計手法が駆使されている。
 講師の方は、銀行内部のシステム開発に長く携わり、ディーリングの部署で実務を経験した後、現在監査業務に就き、生の数値をもとに経営管理を支えている。その豊富な経験から、普段教員が触れることの少ない世界を分かりやすく説明くださった。数学が実際に生きた形で使われていることを具体的に示してくださり、受講者も刺激を受けた。
 中学・高校を通じて、数学で「統計」はほとんど教えられることはない。しかし、実社会で最も活用されている数学は「統計」である。その事実を目の当たりにした日でもあった。

高校数学でわかるシュレディンガー方程式

 量子力学の歴史をたどりながら、最も重要なシュレーディンガー方程式が導かれるまでを、高校程度の数学を用いて解説した本。量子力学の誕生から、どう発展していったのか、その過程が分かりやすく語られ、たいへん興味深く読める。比較的簡単な数式を用いながら解説されている点が良い。
 こういった科学の本は、ともすると文章だけで綴られていて、数式がほとんど現れず本質がつかみづらいか、逆に数式の羅列に終始してその式の表わす意味が理解しづらいか、いずれかに陥ることが多い。本書は、文章と数式のバランスが良く、歴史とからめた形で数式の意味を納得でき、基本を押さえることができる。
 科学に興味を持つ高校生や、量子力学の基礎を確認したい大学生に薦められる一冊。

高校数学でわかるシュレディンガー方程式―量子力学を学びたい人、ほんとうに理解したい人へ (ブルーバックス)

ニュートン

 「物質を引っぱる力は、宇宙全体にみちている」

 万有引力の法則、微積分法の確立、光の分析、数々の偉大な業績を残した近代科学の父、ニュートン。その伝記を息子の音読によって聴き、人間ニュートンの側面を知ることができた。養父との確執、孤独な青年時代、ペストが吹き荒れる中でも失われることのなかった、不屈の探求心。
 ルターの宗教改革、成長する市民階級、議会と国王との対立で揺れ動くイギリス。著者は、ニュートンの生きた時代背景を丁寧に記し、近代科学が築かれる社会の雰囲気を伝えている。
 ニュートンの偉大な業績の多くは、25歳までの間に着想や発見の糸口が認められるという。そのためか、後半生の記述はそれほど多くない。実際の理論や数式と向き合うことが、もっともニュートンにふさわしい対話の仕方と言うことであろうか。
 息子がニュートンの伝記で感心したのは、未熟児で生まれたのに、体調がすぐれないと自分で薬を作って体を治し、84歳まで長生きをしたことだった。

ニュートン―りんごはなぜおちるか (講談社火の鳥伝記文庫 (51))
斎藤 晴輝
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基礎がため100%中1数学(関数・図形編)

 「くもんの中学基礎がため100%中1数学 (関数・図形編)」は、同じシリーズの「計算編」とセットになっている中学1年数学のドリル。「比例・反比例」「図形の性質」「立体図形の体積・表面積」 などが扱われる。
 中1ギャップの最たるものは、「数学」であると言われる。まず、「正・負の数」でマイナスを含む加減乗除が登場する。次に、文字式が登場し、それに分数・小数が混じって扱われ、さらに当然のごとく習ったばかりのマイナスを含む文字計算となる。続いて一次方程式が登場する。次々と、小学生のときにはなかった抽象的な概念が現れる。それも、小学校での小数・分数の計算が完璧に理解されていることを前提としている。そのため、この時点で小数の計算や分数の通分に習熟していなければならない。
 文章題も、文字式に落とし込む感覚を身につけなければならず、食塩水の問題など、割合の概念がきちんと捉えられていないと難しい。

 それら、多くの新出事項を経た後に登場するのが、二変数の関係を扱った「比例・反比例」である。今までのように、答えがいくつと出るのではなく、「関係」を捉える内容である。その感覚がうまくつかめず、難しい印象を持つと、高校まで尾をひく。特に丁寧な指導が必要な箇所である。
 その後も「x=8,y=4 のとき、y=a x の比例定数 a の値はいくつか。」のように様々な問題のヴァリエーションが現れる。一次方程式に習熟していることも求められるのである。
 「関数」と聞くだけで、「難しい」「分からない」と拒絶反応を示す高校生が多い。その原因は、正負の計算、文字式の計算、一次方程式、文章問題と新しい概念や解法が矢継ぎ早に出てきた後の、「比例・反比例」の場面で苦手意識を持ってしまうことにあるのではないか。

 その他、作図、扇形の面積、円錐の表面積など、難関がいくつかある。それらは、前の事項を踏まえて解く内容であり、その繋がりこそが数学の醍醐味であるが、習熟が図られていないとただただ面倒な内容と感じてしまうであろう。
 三角形の3つの内角の二等分線は一点で交わり、それが外接円の中心となるなどの事実を作図で確認し、興味が持てれば、後の図形の学習にはずみがつく。数学が好きになるか嫌いになるか、中学1年の数学は、教える側の力量が大きく問われる。

 このように、中学1年の数学は、たいへんに中身が濃く、かつ、ほとんどがその後に直接繋がる内容である。そのため、家庭学習で定着をはかる努力が欠かせない。
 ドリル「基礎がため100%中1数学 (関数・図形編)」は、内容豊富なこの箇所の数学について、段階を踏んで問題が配置されている。スモール・ステップの問題を解いていくことにより、どこが分かりづらかったのかを確認することにも役立つであろう。

くもんの中学基礎がため100%中1数学―新学習指導要領対応版 (関数・図形編)
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腹十二分目

 小学4年生の長男は、体は小さいがよく食べる。今日も食卓に好物のネギトロが出たので、ペロリと平らげ、おかわりもしてお腹がパンパンに膨れていた。それでもまだ食べたそうであった。私のネギトロとご飯を少し分けてやってから、
「腹八分目というでしょう。それくらい食べれば今日はいいんじゃない。」
と言うと、小学1年生の次男が、
「お兄ちゃんのおなかは、腹十二分目だよね。」
と言う。
 ああ、この感覚は大事だなと思った。「腹八分目」は10を基準として-2の数を使っている。それに対し、+2をした数は、「十二分」である。次男は格別プラス・マイナスを意識していたわけではないだろうが、12という数が出てくる感覚はいいなあと思った。実際、満足をした状態を、「十二分に」というではないか。
 割合の計算は、算数の授業で重要なポイントであり、この部分の習熟が、中学・高校の数学、ひいては社会生活で大きな影響をもたらす。その意味でも、割合の感覚を日常の中で触れていくことは、たいへん大事だと次男の言葉から気づかされた。

フェルマーの最終定理

「3 以上の自然数 n について、xn + yn = zn となる 0 でない自然数 (x, y, z) の組み合わせは存在しない。」

 サイモン・シンの「フェルマーの最終定理」は、この一見単純な定理に挑戦した様々な人々のドラマを描いている。
「フェルマーの最終定理は数学のセイレーンなのだ。天才たちを魅惑の声で誘っては、その希望を打ち砕く。」
 この書では、数学者ワイルズの完全証明に至る苦難が後半のテーマであるが、特筆すべきは、証明に大きく貢献した「谷山=志村予想」という日本人による理論が取り上げられている点である。数学者谷山豊と志村五郎の物語は、たいへん胸を打たれる箇所であった。
 フェルマーの定理を軸としながら、様々な数学にまつわるエピソードを積み重ね、ドラマチックなうねりをつくりだす筆力には圧倒された。日本の理数教育に求められるのは、このように大所から捉え、具体的に分かりやすい形で学問を示す人材の層の厚さかもしれない。

フェルマーの最終定理
サイモン シン Simon Singh 青木 薫
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