実社会に活用される数学

 銀行の方を講師に招き、「実社会で活用される数学」という題で、高校10年目にあたる数学科の先生に対して講義をしてもらう。昨年度に引き続き、2度目の講義。

 「数学は美しいと思いますよね。」
とう言葉で始まり、数学科の先生たちとコミュニケーションをとりながら話が進められた。銀行の実際と金融工学の話題を基に、数式を織り交ぜながらの話だった。
 債券利率のイールドカーブの補間関数や、正規分布の確率密度関数など、板書によって説明された点は、特に受講者の関心をひいた。
 また、理系の人材が益々求められていることが力説され、数学を教える先生たちの励みになった。
 数学を真剣に学ぶ人々を育てることの重要性がじっくり伝わる講義であった。

 新学習指導要領では、高校においても数学の意義や重要性を一層重視することが強調される。その点でも、この講義は、これからの数学教育の方向に合致した内容であった。単に美しさを求めるだけでなく、生きた数学を学ぶことの大事さが伝えられ、受講生も刺激を受けたことであろう。
 数学が実社会を支えていることを伝えることは、今後も大きな課題。

フーリエの冒険

 皆でわいわい言いながら、数学を学びあっていく。そんな情景が浮かぶ、「フーリエの冒険」。これほど分かりやすくフーリエ級数を扱った本はないだろう。新しい世界に冒険をする心持ちで数学に触れることができる。
 波の成分の話から始まり、フーリエ展開、微分・積分、ベクトル、オイラーの公式、フーリエ変換と波の不確定性と進み、レベルは高い。しかし、手書きのイラストと具体的な例えにあふれ、たいへん親しみやすい。イメージが豊かで、数学の有用性を実感できる。高校生や大学生が読み進んで独習する価値が充分にある。
 数学を学ぶ楽しさを伝えてくれる、素晴しい本。

フーリエの冒険
トランスナショナル・カレッジ・オブ・レックス
4906519008

関東都県算数・数学教育研究群馬(前橋)大会

 平成20年8月19日、群馬大学を会場に開催された第63回関東都県算数・数学教育研究群馬(前橋)大会に参加する。
 受付が朝9時に始まるので、8時半頃に行ったのだが、すでに駐車場はかなりうまっており、全体会場も多くの人で賑わっていた。
 午前中は、東京大学大学院教授、佐藤学先生による記念講演で、演題は「すべての子どもの学びを大切にする教育を目指して」。1万を超す授業を検討した佐藤教授の言葉には説得力があった。平等で質の高い教育を行うための、学びの共同体を作る必要性を訴えていた。
 「最初の1500校までは実践は失敗した」という言葉が印象に残る。何事もひとつの形をなすためには、数をこなすことが絶対的に必要だと感じる。
 高校の数学で、話し合いにより高め合う形を、どのように具体化すればよいのか。限られた時間の中で多くの内容を伝えることが要求される現状では大きな課題。
 午後、高校のコンピュータ分科会に参加する。5つの先生方の発表を聴く。入谷昭先生のシンデレラを用いた実践は興味深かった。この方も、Cinderella、Cabriなど、コンピュータのソフトを用いて多くの実践を行っている。ホームページで実践の発信も行っている。

入谷昭先生「ビジュアル数学」

T^3 Japan 2日目

 T^3Japan第12回年回の2日目。午前中、半田真先生の「複利計算と自然対数の底」の実践発表と松木貴司先生の物理量測定の授業に関する発表を聴く。
T3japan_05 松木先生のセッションは参加者が少なかったが、一松京大名誉教授、中澤教授、河合先生と共に、LEDを使った電子回路などにふれて楽しんだ。自然に起こる様々な現象の背後にある仕組みを的確に把握するために物理や数学を使うことが実感でき、みずから自然の仕組みを解き明かす楽しさを体験することを目的とし、様々な工夫がなされた教材を見ることができた。

T3japan_06  午後、科学的教育グループSEGの古川昭夫氏による講演。1981年創立され、多くの人材を輩出した私塾SEGの実践内容が紹介された。「中学生に5分間で対数の概念を教えられるか」「100円電卓でlog 2 を計算させられるか」など、具体的な例示は説得力があった。軽やかな口調で語られていたが、「実験・発見・証明があって初めて本当の数学」など、重みのある言葉が多かった。

T3japan_07  最後に参加したセッションは、海陽中等教育学校の公庄庸三(くじょうようぞう)先生による中学1年生を対象にした特別セミナーの実践発表。Deriveを用い、絶対値を用いて、様々な形のグラフを描かせる内容。一次関数すら知らない中学1年生に、関数を用いて驚くほど多様な形を創作させてしまう。「後ろには時間が動いている」と直感的にパラメータによるグラフの概念をつかませ、「A」などの文字を描かせる流れは圧巻。エネルギッシュな発表で、生徒を引き込む様が感じられた。 
T3japan_08   左図は、中学1年生の生徒が試行錯誤の末に作成した関数であるが、探求する姿勢が育っていることが如実に示されている。様々な実践の積み重ねがあって初めて成し得る奥深い教育実践と感じた。

 生徒の内面を引き出すテクノロジーの多様な活用法を見ることができ、実に有意義な2日間であった。

T^3 Japan

T^3 Japan 1日目

T3japan_01  T^3Japan 第12回年会に参加する。2008年度は、渋谷区広尾にある東京女学館高等学校で8月8日・9日の2日間で行われ、約200名の参加があった。

 T^3とはTeachers Teaching with Technology(テクノロジーによる数学関連の教育)の略称であり、1987年、オハイオ州立大学でのグラフ電卓による高等学校数学の授業を試みた頃から始まった。
 今年度の年会では、32のセッションが組まれ、電卓やコンピュータの数学教育への利用、理科教育との融合などの授業実践発表やワークショップが行われた。

T3japan_02  最初に、岡山後楽園高校の河合伸昭先生による公開授業が行われた。東京女学館高校の生徒6名に対し、数学の歴史を交えながら、電卓を用いて三角比の値を求めさせる内容。古代ローマ時代のプトレマイオスが示したsin1°=0.017453…とうい値にどこまで迫れるかというテーマがベースにあった。テンポ良く進む、ストーリーのある授業で惹き付けられた。
 公開授業後、同時に4~5のセッションが開かれているため、どれに参加するか迷った末、京都大学名誉教授の一松信先生の、「電卓利用の検定問題」を聴く。数学検定の誤答からみえる思考の傾向を示した、含蓄のある内容であった。

 昼食後、コンピュータ室で、中込雄治先生による「作図問題とCabri」では、角の二等分線の作図が15例も示された。その中で、多様な解法を引き出す教材の重要性が示された。
 古宇田大介先生の「文房具としてのCabriⅡ」を聴き、Cabriの多様な活用法を知ることができた。「生徒の内面を引き出す使い方」という言葉が印象に残った。
 中澤房紀先生の「明日から使える二次関数の授業」で、グラフ電卓の扱いを学んだ。
T3japan_03  氏家亮子先生のセッションでは、金沢工業専門高等学校でのグラフ電卓とセンサーCBL2を組み合わせた数学の実践発表を聴く。実際にグラフ電卓で、センサーから入力した音声の波形を確認し、授業の楽しさを体験できた。

T3japan_04  午後5時半より、学内の食堂で懇親会。多くの人と交流でき、有意義な1日であった。テクノロジーは非人間的なものではなく、人をつなぐものであることを実感した。

T^3 Japan

中学基礎がため100%中3数学(計算・関数編)

 長男が、中学3年生数学のドリル(計算・関数編)を半年かかって、ようやく終える。多項式の展開・因数分解、平方根、2次方程式、2次関数が主な内容であり、実に骨があった。特に、平方根の計算は、意外に豊富な中身があり、ページ数も多くさかれていた。例えば、√108 を 6√3 に直すには、素因数分解の知識がいるし、(√2+√3)^2 の計算をするには、展開公式を覚えていなければならない。また、1/√2 など「分母の有理化」を適切に処理することも求められる。更に、これらは2次方程式ですぐに活用される。
 中3数学の代数的な単元は、それぞれが緊密な繋がりをもっており、数学としてのまとまりがある。それだけに、各内容に習熟しないと先に進めない。
 「中学基礎がため」シリーズは、平方根の内容を充分に細分化し、スモール・ステップで進む。問題も易から難へと配慮した流れを作っている。それゆえにつまずくポイントもつかみやすい。
 中3数学は、多項式の多様な処理、無理数の扱い、複数の解の存在、非線形な関数の変化の割合など、重要な内容を多く含んでいる。高校数学の基礎となる部分でもあり、問題を数多く解くことが直接、高校で数学を学ぶ際に生きてくる。

くもんの中学基礎がため100%中3数学―新学習指導要領対応版 (計算・関数編)
4774305871

これなら分かる応用数学教室 -最小二乗法からウェーブレットまで-

 本書は、大学2年生のための「応用数学」の授業のための講義ノートが基になっている。線形代数と解析の基礎を説明しながら、信号処理への応用を記した本である。

 「最小二乗法」から始まり、「直交関数展開」「フーリエ解析」「フーリエ級数」「固有値と2次形式」「主軸変換とその応用」「ウェーブレット解析」の章で構成されている。
 簡潔に定理とその解説が示され、多くの具体例を交えながら話が進む。情報処理社会を支えている基盤技術であるデジタル処理に、数学がどのように用いられているのか、スッキリと理解できる。画像処理、データ圧縮などに関わる内容であり、高校・大学で学んだ数学が、このように活用されるのかと感動すら覚える。まさに、「ストーリーのある数学」の書となっている。

 節の最後にある「先生」と「学生」の「ディスカッション」がこの書の大きな特徴となっている。対話の中で、学生が質問をし、先生が答えるのだが、具体的なイメージを与える解説であったり、先につながる発展的な事柄を示すなどの内容になっている。読んでいて、「そうそう、そこが疑問だったんだよ」という点を「学生」はズバリと質問してくれる。「先生」の回答により、数式の意味がよりはっきりと捉えられるであろう。
 また、数式や計算を追うことに疲れた頃合いで丁度「ディスカッション」となる。「ディスカッション」は読者が学ぶ際のリズムを作る役割も担っている。

 生きた数学を伝えてくれる、教育的な配慮が行き届いた優れた書。

これなら分かる応用数学教室―最小二乗法からウェーブレットまで

アインシュタイン・ロマン  第1回 黄泉の時空から

 NHKスペシャルとして1991年に放送された「アインシュタイン・ロマン第1回 黄泉の時空から」のビデオを見る。アインシュタインの生涯と思想を映像化した作品。歴史・科学・民族・自然観など、多面的に描いている。
 コンピュータ・グラフィックスを駆使して幻想的な映像を創りあげている。しかし、90分間にわたり繰り広げられる稠密な映像は、作り手にとっては実験的に様々な試みができてよかったのかもしれないが、見る方はしんどい。興味深い内容であるが、映像技術に頼りすぎている感が強い。
 知の巨人の苦悩を伝える重厚な第1回。

アインシュタイン・ロマン1~黄泉の時空から
広瀬久美子 小川真司 毬谷友子
B00005KKVK

高校数学で解く社会問題

 正社員とフリーターの収入格差は生涯を通すとどのくらいになるか。松枯れをどのようにして防ぐのか。地震のエネルギーはどのように計算されるのか。本書は、このような社会問題に関わる場面で、高校数学がどのように使われているかを記した書である。

「高校学校においては、目標について、高等学校における数学学習の意義や有用性を一層重視し改善する。」
 平成20年1月17日に示された中央教育審議会答申「学習指導要領等の改善について」において、高等学校数学の項では、このように記述されている。
 しかし、現在の高校数学の教科書では、なぜか社会で数学が応用される例はほとんどあげら れていない。 三角関数、微分積分、ベクトルと行列などは、社会科学でもごくあたりまえに使われている。その一端を示すだけで、数学への興味を持つ生徒の割合は増えると思う。しかし、現状では、教科書に応用面を書くと、まるで純血が汚されると恐れているかのように、極力記述を避けているように感じてしまう。

 「高校数学で解く社会問題」では、様々な立場の専門家が、高校数学の使われ方を記し「有用性」を示している 。ただ、もう少し数式を載せてもよいのではと感じた。専門的な話は興味深いのだが、数学が適用される数式の例はもっとあったほうが、本書の趣旨にあうのではないか。
 その点、第一章の「学歴社会の収入格差を考える 」では式を用いて的確な説明がなされていた。生涯賃金を計算するにあたり、具体的なデータから3次関数に補完し、積分で求め る説明はたいへん分かりやすい。しかも、EXCELを用いて実際に計算する方法が示 されている点がよい。このように、社会問題を自らの手で計算する様々な場面を設けることで、数学を理解する層が厚みを増すであろう。

 別の面から捉えると、社会問題で使われている数学を整理することで、高校数学に求められている内容がより明確になるのではないか。例えば、最小二乗法などは、どの分野でも用いられる手法であり、高校数学のひとつの到達点として位置づけることもできる。

 「数学が社会に生きている。」
生徒がそう実感できる高校数学になってほしいと切に願っている。

こんなに役立つ数学入門―高校数学で解く社会問題 (ちくま新書 653)
広田 照幸 川西 琢也
4480063587

基礎がため100%中2数学 (図形編)

 中学2年生の数学では、図形の証明が大きな山場となる。三角形、四角形の性質を踏まえ、合同条件などをもとに、論証を行っていく問題である。根拠を明確に示し、結論を導く過程を体験させることは、極めて重要である。しかし、こと証明問題については、一朝一夕に解けるようにはならない。様々なケースに触れながら、図形の性質を確認し、その手法を何度も体験して初めて、新たな問題を解く力が養われる。
  「基礎がため100%中2数学 図形編」では、角の性質、三角形、四角形の性質をスモール・ステップで学びながら、徐々に基礎的な証明問題が解けるよう配慮されている。入試に対応するためには、より広範な問題にあたる必要があるかもしれないが、まず、基礎をきちんと押さえることなくしては、自らの力で解くことはできない。この問題集では、似た問題に繰り返しふれることで、着実に基礎を押さえられるように構成されている。
 授業の予習や、短期間で総まとめを行うにはよい書き込み式問題集。 

くもんの中学基礎がため100%中2数学 (図形編)
4774305898

アクセスランキング

Ajax Amazon

  • Amazon.co.jpアソシエイト
  • UserLocal
  • Ajax Amazon
    with Ajax Amazon