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ぼくはだれもいない世界の果てで

 柳田邦男氏の講演会で、翻訳した氏自身から解説があった絵本のひとつ「ぼくは だれもいない 世界の果てで」を次男と音読をする。文の行数が少なめのページは次男が、長めの部分は親がと交互に読み進んだ。
 世界の果てで暮らす少年のまわりにあった自然が、大人によって徐々に失われていく様がディテール豊かに描かれている。テレビ、ゲーム機、携帯電話、インターネットなどに取り囲まれている現代、子どもたちが静かに自分を見つめる時を持つことの大切さに気づかせてくれる。
 ケビン・ホークスの雄大な自然の絵がことにすばらしい。

ぼくはだれもいない世界の果てで
M.T.アンダーソン ケビン・ホークス 柳田 邦男
4097261517

1000の風 1000のチェロ

 絵本「1000の風 1000のチェロ」を、この4月に小学校に入学する次男と一緒に音読をする。終わり近くで涙が込み上げてきて読めなくなったので、最後のところは、次男に読んでもらった。

1000の風 1000のチェロ
いせ ひでこ
4034351209

ザ・ウエスト・コースト パヴァーヌ

 ザ・ウエスト・コーストによる、ダブル・フルート編成のジャズ「パヴァーヌ」を聴く。メイン・タイトルの曲は、ラヴェルの「亡き女王のためのパヴァーヌ」のアレンジで、しっとりとしたセンシティブな魅力のある演奏。
 他に、バッハの「G線上のアリア」のアレンジや、「スターダスト」「カミン・ホーム・ベイビー」などのスタンダードなどが収められている。

PAVANE(パヴァーヌ)
ザ・ウエスト・コースト
B00005J3V5

グリーグ ピアノ協奏曲

 ルービンシュタインのピアノによる、シューマンとグリーグのピアノ協奏曲のCDを聴く。シューマンのピアノ協奏曲は、ジュリーニ指揮・シカゴ交響楽団とピアノとの緊密な演奏で、詩的なロマンティシズムに溢れている。
 グリーグのピアノ協奏曲は、ウォーレンシュタイン指揮、RCAビクター交響楽団との演奏。美しい旋律満ちた曲を、ルービンシュタインの円熟したピアノが格調高く奏でる。

シューマン&グリーグ:ピアノ協奏曲
ジュリーニ(カルロ・マリア) ウォーレンステイン(アルフレッド) ルービンシュタイン(アルトゥール)
B00005EGWI

朝比奈隆 バースデイ・コンサート '96

 朝比奈隆が88歳を迎えたことを祝う1996年のコンサートのCDを聴く。「モルダウ」「オ・ソレ・ミオ」「美しく青きドナウ」など、ポピュラーな曲を朝比奈が指揮する。祝賀気分で、伸び伸びと奏されていた。また、チャイコフスキー交響曲第5番も悠然たる演奏であった。

バースデイ・コンサート’96
朝比奈隆 大阪フィルハーモニー交響楽団 林誠
B00005FR7Q

小説「風林火山」

 井上靖の小説「風林火山」は、武田信玄に仕えた軍師山本勘助を描く小説。いやあ、実に面白い。文章に勢いがある。
 NHK大河ドラマ「風林火山」の原作である。大河ドラマでは第11話までを大森寿美男がオリジナルのストーリーを作り、第12話から小説の流れに乗る。原作を読み、脚本家を始めとしたスタッフの意欲を刺激するのがわかる。確かに映像化したいと思わせる、華麗さと力強さ、人々の機微に満ちた息づかいが格調高い文の中にあった。

風林火山
井上 靖
4101063079

風林火山 12

 NHKの大河ドラマ「風林火山」の第12回は「勘助仕官」。井上靖の原作は、この回からの内容になっている。これまでは、脚本家を始めとしたスタッフが比較的自由に物語を組み立てていたが、やはり原作を直接描く回になり、力が入っていた。山本勘助役の内野聖陽も、一層演技に凄みがあった。

NHK大河ドラマ「風林火山」

ハゲタカ 最終回

 NHKのドラマ「ハゲタカ」の最終回が3月24日に放映された。実に密度の濃いドラマであった。冷徹な外資系ファンドのやり口が描かれていたが、物語の落としどころとして、人情・信義という日本社会が本来の持っているよさに帰着した。
 合理性を追求することで、表面に現れない良さをもすべて削ぎ落とし、強みを失う事態になることが昨今では往々にしてあるようだ。ドラマを見て、その感を一層強くした。
 企業買収にからむ波乱に満ちた展開の中で、会社をめぐる「人」の存在が大きくクローズ・アップされたドラマであった。

NHKドラマ ハゲタカ

総会屋錦城

「推測はできても理解できそうにない撓みのない一徹さであった」

 城山三郎氏が昭和33年下半期に直木賞を受賞した「総会屋錦城」。老練な総会屋の最期の戦いとその家族を描いている。
 新潮文庫の「総会屋錦城」には、表題作の他に、戦後間もない日本の社会を鮮やかに切り取った6編の作品が収められている。

総会屋錦城
城山 三郎
4101133018

城山三郎氏を悼んで

 作家、城山三郎氏が3月22日死去した。79歳だった。
 経済の側面から日本人の姿を浮き彫りにした小説からは、どれも懸命に生きる人々の気概が伝わり、多くの作品から感銘を受けた。
 「雄気堂々」では、幕末から明治にかけて激動の時代に活躍をした渋沢栄一の生き様が、徳川慶喜、大隈重信らとの交流と共に描かれ実に興味深く読めた。わきかえる時代の描写、スケールの大きさな人物像に圧倒された。
 田中正造の晩年と、公害の被害者の生き様を描いた「辛酸」は、苦境の中でも信念を貫く人々の姿が印象に残る重みのある作品であった。
 「もう、きみには頼まない」は、高度経済成長期に経団連会長をつとめた石坂泰三を描いた小説。文化の薫りを持ち、グローバルな視点で経済の舵取りをし、気骨と懐の深さをもった財界人の生涯に刺激を受けた。
 「黄金の日日」では、信長・秀吉と経済を基に対峙する堺の人々の誇りと気概にふれ、時代小説の新たな魅力を感じさせられた。
 「百戦百勝」は、相場の世界に生きる男をユーモアに溢れた筆致でつづり、痛快無比な作品だった。
 「落日燃ゆ」は、最も大事にしたい小説の一つ。戦争回避に努めながらも、東京裁判で絞首刑を宣告され、一切の弁明をしかなった元総理、外相、広田弘毅。その生き様には頭を垂れる思いであった。
 城山三郎氏の描く、大局を見据え懐深く存在感のある人物像に強く惹かれるのは、日本が小さく固まらず、より良い方向へ導いてくれるリーダーを渇望しているためかもしれない。
 凛然とした文体は、時に自然と姿勢を正さずにはおられないほどの静かな迫力があった。組織や社会の複雑さが対象であるにもかかわらず、読後は常に快さが残った。根底に人に対する暖かい眼差しがあるためであろう。
 ご冥福をお祈りいたします。
 

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