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スーパーカミオカンデ

Utyusenkenkyujo

 2020年、多くの逝去された著名な方々がおられたが、とりわけ感慨深かったのは11月12日に亡くなられた小柴昌俊氏の訃報である。氏はニュートリノ天文学を開拓し、2002年にはノーベル物理学賞を受賞された。
 実際にお会いしたのは、大学の研究室における先輩の結婚式で仲人としていらしたときである。帝国ホテルでの式に参加し、良き時を過ごすことができた。

 その先輩とのご縁もあって、2009年3月、スーパーカミオカンデの内部を家族で見学することができた。
 岐阜県の山中にある施設の入口が最初わからず、ガードレールもない急峻な崖沿いの狭い道をどんどん上っていった。遥か下に川が見える崖から転落する恐怖におびえながら車を運転し、頂上に近い所で行き止まりになってようやく行き過ぎたことに気付き引き返した。
 施設の入口は、シャッターがひとつあるだけの何の変哲もない寂しい場所であった。ほどなくシャッターが開き、東大の先生が運転する専用車両が出てきてホッとした。
 子どもたちは宇宙線研究所で借りたヘルメットをかぶり、懐中電灯を手にして冒険気分で楽しそうであった。
 錆びたバンで鉱山跡の奥深くまで乗っていき、ようやく施設にたどり着く。内部には狭い部屋があり、壁を大きく占めるモニターには色とりどりの点が明滅していた。地下の巨大な水槽に据え付けらている光電管で捉えた素粒子を示すものであった。宇宙の真理を解明する試み、純粋に知的な営みが静かになされていることに感銘をおぼえた。基礎科学の重みを実感した体験であった。

 2020年はコロナ禍でイレギュラーなことが多い1年であった。それだけに、普遍的な科学への関心を高めることの重要性を痛感する年であった。

 「ミクロとマクロは繋がっている」
 小柴氏の言葉は、今も大切な視座を与え続けてくれる。

 2009年3月21日 スーパーカミオカンデ

一路(下)

 中山道を進む一行に、次々と難題が降りかかる。参勤道中を指揮する小野寺一路は、周囲の手助けを得ながら乗り切ろうとするが…。
 到着の遅れが許されない中、背後に藩内の謀略もあり物語は波乱に次ぐ波乱の展開。読み手を片時もあきさせないその手腕には感服する。
 行く土地における風習を生かしながら、ユーモアとサスペンスを織り交ぜ、なおかつ感涙の場をきっちり敷く熟達の筆。浅田ワールドの真骨頂たる時代小説。

一路(下) (中公文庫)

一路(上)

 参勤交代の差配役を十九歳にしてまかされることになった小野寺一路。父の跡を継ぎ、家伝の書を頼りに古式ゆかしき参勤交代を執り行うことになるが…。
 不手際があれば家名断絶となる運命を背負い、一路は行軍を指揮する。準備に難渋するが、中山道を進む行く手には、さらに数多くの困難が立ちはだかる。
 ロードムービー的な趣向と時代劇のお芝居的妙味を会わせた浅田次郎快心の歴史小説。

一路(上) (中公文庫)

クボ 二本の弦の秘密

 「コララインとボタンの魔女」のスタッフが制作した「クボ 二本の弦の秘密」。
 素晴らしい。あまりに素晴らしい。美術的な卓越したセンス。日本の文化に対するまごうかたなきリスペクト。技術と魂が融和した作品世界にひたすら没頭した。
 美とは人の営みが意志をもって突き詰められることによって他に感動を与える。それを如実に示した作品。折り紙のシークエンスはどれも見事。二胡の音楽はシンプルゆえにすっと心に届く。
 惜しむらくは、後半のストーリーの練度がいまひとつのところか。造形が前面に出て物語がついていけない側面があったことは否めない。しかし、ストップ・モーションの技術はそれを補って余りある。
 動きと美的センスが光る職人芸的アニメの傑作。

KUBO/クボ 二本の弦の秘密(字幕版)

天才バカヴォン 蘇るフランダースの犬

 「フランダースの犬」のネロとパトラッシュは天国に召されるはずだったが、怨みを抱き地獄に趣く。世界征服をもくろむ組織はそれを利用しようとするが、バカボンのパパがひたむきなバカで立ち向かう。
 と言う設定であるが、ネロはそのままイノセントであり、バカボンとのからみも実にストイック。パパも突き進む様はそのままに善良さが前面に出ている。なので、設定はハチャメチャであるが脚本は意外に常識的なお話にまとまっている。
 官僚である神田さんの献身的な姿勢に心打たれたりする。プロフェッショナルの流儀を体現しているのだ。バカボンのママは理想的なママ。それら常識人に支えられパパはバカを貫ける。これでいいのだ。
 「天才バカボン」「フランダースの犬」、共通点はテーマ音楽の作曲者が渡辺岳夫である点。偉人の上になりたつ存外まっとうなアニメーションである。

天才バカヴォン 蘇るフランダースの犬

映画「けいおん!」

 テレビアニメ「けいおん!」の第2期の流れをくむ映画。テレビシリーズ同様、京都アニメーションの山田尚子が監督をつとめる2011年公開作品。
 軽音部の4人は卒業旅行に行くことを決め、紆余曲折の末ロンドンに行くことになる。後輩の梓も加え、海外に旅立つ。
 京都アニメーションのやわらかな作画が心地良く作品にひたらせてくれる。特に、ロンドンの描写は秀逸で、細部まで丁寧に描かれており素晴らしい。
 ゆったりとした時と青春のきらめきを共に感じさせてくれる良作。

映画「けいおん!」【TBSオンデマンド】

薬師丸ひろ子 時の扉

 「浜辺の歌」「椰子の実」など、薬師丸ひろ子が女優35周年記念として自らセレクトしたカヴァー・アルバム。
 温かみのあるやわらかい歌声が心地よい。バックの演奏もよく、「仰げば尊し」などもポピュラーのように聞こえる。
 「黄昏のビギン」などノスタルジアを感じる曲もいい。
 はっとさせられたのは、「セーラー服と機関銃」。マンドリン、ウッドベース、ドラムというシンプルなバックで歌われ、ジャズの趣もあり新鮮な魅力を放っていた。
 時を超えて生きる音楽を丁寧にひたむきに紡ぐアルバム。

薬師丸ひろ子セレクション・カバーアルバム 時の扉

タリスク ビヨンド

 スコットランドの3人組バンド、タリスクのCD「ビヨンド」を聴く。フィドル、ギター、コンサーティーナで躍動感溢れる音楽が展開される。
 特に、小型の蛇腹楽器、コンサーティーナの演奏が素晴らしい。緩急自在にメロディとリズムを紡いで行く。弦との掛け合いがスリリングに楽しく演じられる。
 爽やかな風のようなアンサンブルが心地良いアルバム。

ビヨンド

水滸伝 十九 旌旗の章

 北方謙三の「水滸伝」第十九巻、旌旗の章。童貫の総攻撃により、梁山泊は追い詰められていく。壮絶な闘いにより、多くの士が最期を迎える。起死回生をはかり、史進と楊令は童貫の首を狙い疾駆する。
 壮大な物語の最終巻。筆者はこれをすべて原稿用紙に万年筆で書いたという。前半は牧歌的な描写もあったが、ここに至り筆は憑かれたように突き進む。
 幾多の登場人物たちが苛烈な状況下で懸命に生きる様は、永遠に読み手を刺激する。
 人生の諸相を鮮やかに活写する、怒濤の長編小説。畢生の大傑作。

水滸伝 19 旌旗の章 (集英社文庫)

水滸伝 十八 乾坤の章

 北方謙三の「水滸伝」第十八巻、乾坤の章。童貫の猛攻撃に梁山泊は軍略と智略で立ち向かう。
 陸の戦に加え、水上の闘いも激しさを増す。苦しい状況の中、楊令の颯爽とした勇姿がカタルシスを感じさせてくれる。
 緊迫感みなぎる激闘の巻。

水滸伝 18 乾坤の章 (集英社文庫)

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