上杉鷹山

 「たとえ財政再建のための改革であっても、その対象となる人々への愛といたわりを欠けば、その改革は決して成功しない」

 上杉治憲(鷹山)が17歳で藩主となった米沢藩は、商人も見限り誰も金を貸してくれないほど財政が逼迫していた。格式を重んじる上杉家では膨大な出費がかさみ、幾世代にも渡った借金は膨大な額にのぼった。
 藩主治憲は改革案をまとめ、米沢領に入るが、昔からの重臣の抵抗に会い、度重なる妨害工作を受ける。

 童門冬二の小説「上杉鷹山」は、改革派と守旧派との対立を軸に、鷹山が危機的な状況にあった米沢藩の改革を成し遂げるまでを説得力のある文章で描いている。
 アメリカ大統領ジョン・F・ケネディが、最も尊敬する日本人としてあげた上杉鷹山。質素倹約を藩士や領民に強いるも、率先垂範を行い、人々が希望の灯をともし続ける影響力。複眼的で柔軟な思考を持ち、甘言に終始することなく、時には苛烈な処断を行う気構えを持っていた。その政策は、殖産興業と将来への備えを的確に行うことにより、天明の大飢饉においても米沢領内でひとりの餓死者も出さなかったことに示されるように、根底には領民への慈しみがあった。
 年頭にあたり、自らの内に基軸を持つためにも、鷹山の生き様から受けた刺激を大事にしたい。

全一冊 小説 上杉鷹山
童門 冬二
4087485463

坂本竜馬

 新しい日本の夜明けを目指して東奔西走した土佐の快男児、坂本竜馬。

 「福沢諭吉」の音読が終わった時、次は誰の伝記を読みたいと息子に聞くと、「坂本竜馬」と答えた。少し難しいかと思ったが、音読をさせてみた。
 幕末の複雑な情勢、多彩な人物、様々な事件など、この時代は記述すべきことがたくさんある。そのため、竜馬に関する部分が簡潔にならざるを得ないため、聴いていて、時代の流れで竜馬があれよあれよと転変していく感じを受けた。気がつくと、あっという間に近江屋での襲撃の場面になっていた。まさに、時代を駆け抜けたという印象が残った。

坂本竜馬―明治維新の原動力
砂田 弘
4061475584

ドラマ のだめカンタービレ 最終回

 ドラマ「のだめカンタービレ」がクリスマスの日に幕を閉じた。前半、のだめの実家、福岡県大川市でのエピソードでは、原作の家族がより個性的に再現されていた。母親役の宮崎美子が楽しそうに演じて光っていた。父親の岩松了、祖母の大方斐紗子もよい雰囲気であった。この家族だけでも、「寺内貫太郎一家」のようにひとつのドラマができそうだ。
 後半、サントリーホールのコンサートでは、キャラクターの一人一人に台詞を与える、丁寧なドラマのフィナーレだった。

 上野樹里は適役で、原作の雰囲気にぴったりであった。あれだけ多くの個性的なキャラクターを一人一人生かす脚本も、見事であった。何より、服部隆之のアレンジによる名曲の数々がドラマを存分に盛り上げ、クラシックのよさを味わうことができた。

 ドラマの11回分では、季節的なこともあって取り上げられなかった長野での夏の音楽祭のエピソードは、「のだめカンタービレ~夏のスペシャル」のように放映されるのであろうか。
 原作10巻からのヨーロッパを舞台とした物語はドラマ化されるのであろうか。
 良い音楽のように、その世界にもっと浸っていたいと思えるドラマであった。

のだめカンタービレ (出演 上野樹里、玉木宏)
B000HIVIGK

のだめカンタービレ (10)
二ノ宮 知子
4063405052

ドラマ のだめカンタービレ 10

 ドラマ「のだめカンタービレ」の第10話では、ピアノ・コンクールのシーンに引き込まれた。シューマンのソナタも良かったが、ペトルーシュカの変奏版?はある意味凄い。
 このコンクールについては、原作(第9巻)の表現が実に見事だ。道化師にのだめの心象を重ねたリズミカルなコマ割りに、思わずうなった。

 コンサートが終わった後の、のだめと千秋のやりとりは心に残る名場面。
「自由に楽しくピアノを弾いて
 なにが悪いんですか!?」

のだめカンタービレ オフィシャルサイト

「のだめオーケストラ」LIVE!
のだめオーケストラ 東京都交響楽団
B000I5YAD0

映画 遠き落日

 野口英世の生涯を描く、神山征二郎監督の映画「遠き落日」は、渡辺淳一の原作を2時間の映像にまとめた作品。

 野口の故郷である猪苗代や、研究に勤しむ古き良きアメリカの雰囲気などは丁寧によく描けている。俳優も、母シカに三田佳子、英世を三上博史、恩師小林栄を仲代達矢などが熱演している。
 しかし、野口の生涯を2時間にまとめたため、どうしても一つ一つのシーンが短くなってしまっている。英世と母シカとの交流が軸となっているが、やはり時間の制約のためか、いまひとつ深みに欠ける感じがある。
 原作のエピソードのポイントは押さえてあるので、最後まで興味深く見られる作品ではある。

遠き落日
三田佳子 神山征二郎 三上博史
B000FVRSZE

ドラマ のだめカンタービレ 9

 ドラマ「のだめカンタービレ」の第9話は、のだめがピアノコンクールに出場する回。コンクールに向けての練習場面や本番での鍵盤の描写により、ピアノ曲の魅力がじっくりと伝わってくる。
 千秋のトラウマが解消されたかと思ったら、今度は、のだめの幼少時の傷がほのめかされる。「ぎゃぴー」などといって叩かれたりするシーンが多い一見ふざけたドラマだが、実のところは過去を乗り越え成長する物語の王道をしっかりと歩んでいる。
 原作第9巻で、物語は一区切りつく。この巻も、少女漫画の王道を行く展開。

のだめカンタービレ (9)
二ノ宮 知子
4063404889

博士の愛した数式

 80分しか記憶がもたない博士と、世話をする家政婦、その息子の交流を描く小川洋子の小説「博士の愛した数式」。博士が示す数の持つ美しい性質を軸に、静かな筆致で三人のやりとりが綴られる。
 記憶を失う運命を背負いながらも、数論に向き合い、子どもに愛情を注ぐ博士の純粋さに、清廉な暖かみを感じる。
 推理小説などに、数学の問題や数式が現れることがあるが、とってつけたような形になることが多い。しかし、この小説では完全数やオイラーの公式などが必然であるかのように登場し、文学との整合性を欠くどころか、味わいのある文脈の中に取り込まれている。
 人々のやさしさと数式との幸せな出会いにふれ、読後も清々しさが残った。

博士の愛した数式
小川 洋子
4101215235

エリカ 奇跡のいのち

 柳田邦男氏の講演会で紹介された絵本「エリカ 奇跡のいのち」を見る。時をそこに永遠にとどめたような稠密な絵に、目を見張る。赤ん坊のとき、強制収容所ダッハウへ向かう列車の小窓から外へ放り投げられ、奇跡的に生き延びた女性の凛然とした言葉に胸を打たれる。

エリカ 奇跡のいのち
ルース・バンダー ジー ロベルト インノチェンティ
4062124858

ドラマ のだめカンタービレ 8

 最近、コンサートになかなか行けない。そのため、のだめカンタービレでオーケストラの本番がある回は実に楽しみだ。
 さて、第8話では、ライジング・スター・オーケストラの初公演で、モーツァルトのオーボエ協奏曲とブラームス交響曲第1番が演奏された。始まる前のバックにボレロという斬新な演出。ブラームスでは、指揮が始まる前に、テレビの映像であるにもかかわらず、見ていて本物のコンサートのように緊張した。
 のだめが千秋のトラウマを解消しようとする場面は、丁寧な映像で作り手の思い入れが感じられた。

のだめカンタービレ (8)
二ノ宮 知子
4063404765

R62号の発明

 最近、安部公房の初期の短編「R62号の発明」がよく思い出される。潜在意識下にあって刺激しつづける本編は、時代の先を見据えた名作であることを示している。

R62号の発明・鉛の卵
安部 公房
4101121095

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