五体不満足

 乙武氏自身も相当努力をしたのであろうが、周囲の人々が素晴しいと感じる。子どものあるがままを受け容れ、環境を整えるために転居を繰り返す両親。将来を考え、あえて支援を控え、自分自身の力で成し遂げさせようとする小学校の担任の先生。乙武君も参加できるようにと遊びのルールを考え出す級友。このような周りの人々に支えられ、自己肯定感を強く持ち続けることができたのだろう。
 乙武氏自身が本書を朗読したCDも、気持ちが伝わってくる。

五体不満足
乙武 洋匡
4062091542

五体不満足 (CD BOOK)
乙武 洋匡
4069340009

2次関数の授業 射影幾何学入門

 高校生に、5年ぶりに授業をする。関数描画ソフトGRAPESを生徒が実際に操作しながら、2次関数と2次方程式の関係を学ぶ内容。
 2次関数とx軸との交点に2次方程式の解が現れることを復習した後、2次関数y=x^2-4x+kがx軸と「2点で交わる」「接する」「共有点を持たない」の各条件を求めさせる。続いて、2次関数y=x^2と直線y=2x+kと同様の条件を求めさせる。瀬戸大橋の写真を示し、一様の重さを支える吊橋の形状は理論的には放物線になり、構造計算には、ケーブルの接線方向にかかる力を考えることが必要であることを伝え、接線の重要性を示す。
 次に、2次関数y=x^2の(t,t^2)における接線の方程式y=2tx-t^2を求めさせ、それをもとにGRAPESの残像機能を用いて包絡線を描かせる。y=2tx-t^2 をtの2次方程式として捉えさせ、t^2-2tx+y=0 から接する条件D=0を用い、包絡線y=x^2 を求めさせる。「接線の直線群」と、「包絡線」が、2次方程式の判別式を軸として、「双対性」をなすことを伝える。演習として、t^2-xt+y=0 , yt^2-2t+x=0 の包絡線を求めさせる。
 最後に、真っ直ぐな道が地平線に向かって伸び、地平線で交わる情景から、平行線が無限の彼方で交わる「無限遠点」と、地平線上に示される「無限遠直線」を考えることで、新たな数学「射影幾何学」が生まれることを示す。3D-GRAPESで放物線が無限遠直線に接することを示し、2次曲線「双曲線」「放物線」「円・楕円」が無限遠直線と「2点で交わる」「接する」「共有点をもたない」の関係で分類できることを伝え、「判別」の役割の重要性を伝える。
 この内容を扱うのに、45分という時間はあまりに短かったが、生徒たちに数学の広がりの一端が伝われば、本時の役割は果たせたと考える。 

射影幾何学入門―生物の形態と数学
丹羽 敏雄
4407028181

広中平祐 生きること学ぶこと

 数学のノーベル賞とも言えるフィールズ賞を受賞した世界的数学者、広中平祐が語る人生論。父母のことや学者との交流などを、飾らない言葉で綴っている。数学の難問に立ち向かう中での様々な学者との出会いや受けた影響の記述は、特に示唆に富んでいる。

生きること学ぶこと (集英社文庫)
広中 平祐
4087507319

だから、あなたも生きぬいて

 中学時代にいじめを受け、自殺を図り、その後非行に走り、極道の妻になるまで転落を続けた著者が、弁護士となるまでに立ち直る軌跡を描いた「だから、あなたも生きぬいて」。そのCDブックを聴き、いたく感動を覚える。宮本信子の朗読が素晴しく、じっくりと聴き入ることができた。
 著者を支えた養父の姿勢や言葉には、自然と頭が下がる。

CDブック だから、あなたも生きぬいて (CD BOOK)
大平 光代
4062105454

未来のきみが待つ場所へ

 貧困や周囲の無理解により、小中学校時代にまったく学習意欲をなくし、オール1であった筆者が立ち直るまでの軌跡を描いた「未来のきみが待つ場所へ」。中学校時代に掛け算九九すら言えなかった筆者は、アインシュタイン・ロマンに感銘を受け、多くの人々の支えで大学に進学し、高校の教員として活躍している。
 周囲の理解と支援がいかに人を育てるかということを実感させられる。

未来のきみが待つ場所へ 先生はいじめられっ子だった
宮本 延春
4062136724

学校評価を共に創る

 大阪府の学校評価の取取組みについて、理論・政策・実践の三側面から描いた本。現在文部科学省が進めている学校評価の枠組みとは多少異なるが、学校評価を学校の改善に活かすという重要なスタンスは、繰り返し記されている。校長を中心としたリーダーシップの基、学校をより良くしようと展開された実践例は興味深かった。

文部科学省 「学校評価ガイドライン」の改訂について

学校評価を共に創る―学校・教委・大学のコラボレーション
長尾 彰夫 大脇 康弘 和佐 真宏
4761910186

尾瀬高等学校

Oze_01_2  秋の清澄な空気を感じながら、群馬県立尾瀬高等学校を訪れる。教室からの風景は、それ自体が学習対象である「自然」が眼前にせまっている。

Oze_04  尾瀬高等学校は、「自然との共生を図ることのできる人づくり」を目指した学校であり、普通科と自然環境学科で構成されている。特に、自然環境学科はフィールドワークを始めとする体験学習を重視し、体験したことを元に協議する活動が繰り返され、コミュニケーション能力・自己表現力をつけるカリキュラムが組まれている。

Oze_02  普通科においても、自然環境学科の取り組みによる生徒の伸びに刺激を受け、その手法を取り入れる試みがなされている。今回、数学の授業を参観したが、「学び合い」により、生徒が高度な課題に主体的に取り組む姿が見られた。積分の公式が成り立つ理由を、小グループで話し合い、教え合うことにより、全員が理解し、更にその公式を適用できる問題を教科書から見つける展開であった。
 目標を明確にし、教師が支援する側にまわることで、生徒が深い理解を得られる授業であった。

Oze_03 自然環境棟という象徴的な施設がある。フィールドワークの前に説明をしたり、事後の発表をしたりするスペースだが、椅子だけで机がない。野外でもメモがとれるように訓練するためとのこと。

Oze_05  小中学生など、他からの見学や交流も頻繁にあるようだ。親しみやすいよう、剥製などが至る所に置いてある。博物館のような趣き。

Oze_06  恵まれた自然環境と前向きな生徒、熱心な指導者と多方面からの支援により、特色ある教育活動を展開し、実績をあげている。

群馬県立尾瀬高等学校

学校の挑戦―学びの共同体を創る

 「学びとは対象(教材)との出会いであり、他者(仲間や教師)との出会いと対話であり、自己との出会いと対話である。」

 先日、東京大学大学院教授、佐藤学氏の講義を聴いた。1万以上もの授業を分析し、教育のヴィジョンを示し続けている氏の講義は、たいへん説得力のある内容であった。
 「最初の1500校は失敗した、3000校あたりから見えてきた。」という言葉が印象に残る。あくまで現場主義。学校、教室の空気を感じ、学びに根ざした授業実践を重視する。机上の空論ではなく、数多くの学校の改革に方向を示し、子どもたちが学び合い、教師と生徒が共に高め合う学校づくりを推進している。

 「学校の挑戦-学びの共同体を創る」には、氏の関わった実践が数多く掲げられている。
 「平等で質の高い学び」を実現するために、静かだが着実な歩みが各所で始まっている。声高に改革を叫ぶのではなく、地味な実践に耳を傾け、話し合いを通して子どもたちの学びがいかに行われたかを教師同士が分析し、共に質の高い学びの実現を目指していく。

 「学びに挑戦し続けている子ども(生徒)は、家庭が崩壊しようと友人が崩壊しようと、決して崩れることはない。」
 学びに真剣に向き合う場が、まさしく学校である。そのことを、しっかりと目の前に示してくれた。数多くの実践から語られる学びの風景には、静かな感動を覚える。

学校の挑戦―学びの共同体を創る
佐藤 学
409837370X

実社会に活用される数学

 銀行の方を講師に招き、「実社会で活用される数学」という題で、高校10年目にあたる数学科の先生に対して講義をしてもらう。昨年度に引き続き、2度目の講義。

 「数学は美しいと思いますよね。」
とう言葉で始まり、数学科の先生たちとコミュニケーションをとりながら話が進められた。銀行の実際と金融工学の話題を基に、数式を織り交ぜながらの話だった。
 債券利率のイールドカーブの補間関数や、正規分布の確率密度関数など、板書によって説明された点は、特に受講者の関心をひいた。
 また、理系の人材が益々求められていることが力説され、数学を教える先生たちの励みになった。
 数学を真剣に学ぶ人々を育てることの重要性がじっくり伝わる講義であった。

 新学習指導要領では、高校においても数学の意義や重要性を一層重視することが強調される。その点でも、この講義は、これからの数学教育の方向に合致した内容であった。単に美しさを求めるだけでなく、生きた数学を学ぶことの大事さが伝えられ、受講生も刺激を受けたことであろう。
 数学が実社会を支えていることを伝えることは、今後も大きな課題。

フーリエの冒険

 皆でわいわい言いながら、数学を学びあっていく。そんな情景が浮かぶ、「フーリエの冒険」。これほど分かりやすくフーリエ級数を扱った本はないだろう。新しい世界に冒険をする心持ちで数学に触れることができる。
 波の成分の話から始まり、フーリエ展開、微分・積分、ベクトル、オイラーの公式、フーリエ変換と波の不確定性と進み、レベルは高い。しかし、手書きのイラストと具体的な例えにあふれ、たいへん親しみやすい。イメージが豊かで、数学の有用性を実感できる。高校生や大学生が読み進んで独習する価値が充分にある。
 数学を学ぶ楽しさを伝えてくれる、素晴しい本。

フーリエの冒険
トランスナショナル・カレッジ・オブ・レックス
4906519008

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