学校崩壊

 1997年の神戸連続児童殺傷事件、98年の黒磯事件などをきっかけに、「学級崩壊」について急速に目が向けられるようになった。
 「学校崩壊」には、現場で真剣に生徒と向き合ってきた河上亮一氏の実体験に基づき、児童生徒の変化と、行ってきた対応、マスコミの言説に対する批判が記されている。1999年に発刊された本であるが、現在でも示唆に富む。
 「他人を受け入れない、固くて狭い自我を持った子どもの登場」「社会的自立がきわめて困難になった子どもたち」は、フリーターやニートの増加などの社会問題につながっている。また、クレームが急増し、閉塞感のある現状とも関連がある。
 著者は、目の前の事態に対し、「できることを精いっぱいやる、そのうえで、できないことはできないと、社会に向かって発言し、問題を公にすることが要求される。」と記す。第一線で生徒指導に取り組んだ著者の実感がこもっている。現実をしっかり見据えることを訴えた教育書。

学校崩壊
河上 亮一
4794208677

ジオ・ワールド(10)「恐竜大図鑑」

 ナショナル・ジオグラフィックスの子ども向けビデオ版の「恐竜大図鑑」。アメリカ的なジョークのセンスで進む、ポップなビデオ。学術的な内容も含まれてこってりとしているが、詰め込みすぎ。様々なカットが次々と変わり、落ち着きがないこと甚だしい。前半は映画などからとった恐竜の映像が用いられている。後半は、コウモリや毒蜘蛛などの映像で、番外編といった趣き。

ジオ・ワールド(10)「恐竜大図鑑」

西郷隆盛

 明治維新を成し遂げた西郷隆盛の生涯を息子の音読でたどる。NHKの大河ドラマで「篤姫」が放送されるので、今回はそれにちなんで鹿児島が生んだ偉人を選んだ。毎日一章ずつ読み、一ヶ月かからずに読み通せた。

 島津斉彬に見いだされ、藤田東湖、橋本左内など優れた人物と出会い、多くの人と交わり人望を高めていく。斉彬公亡き後、僧月照と入水自殺をはかる。島津久光にうとんぜられ、島流しとなり苦境の日々を送るが、その人望ゆえに京で薩摩藩の中心となり活躍する。戊辰戦争では、勝海舟との会談に応じて江戸を戦火から救う。維新後、請われて明治政府に入るが、征韓論で大久保利通と袂を分かち、鹿児島の野に下る。士族の反発を抑えきれず、やがて西南戦争に担ぎ出される。誠に私心を棄てて事に当たり、義を貫く生涯であった。

 幕末の動乱と維新直後の混乱を描くには、さすがにページ数が足りない。平易に記す努力はされているが、子どもには読んでいて意味の分からない語句が多かったようだ。それでも、「西郷さんの心根の強さがすごいと思いました。」と感想を書いていたので、人物の偉大さは伝わったようだ。
 勝海舟も「氷川清話」の中で、「至誠の人」として、西郷の人物の大きさを讃えている。
 「敬天愛人」、西郷隆盛の生き様は、生涯にわたり刺激を与え続ける。

西郷隆盛―明治維新の功労者 (講談社火の鳥伝記文庫 (26))
福田 清人
4061475266

高校数学で解く社会問題

 正社員とフリーターの収入格差は生涯を通すとどのくらいになるか。松枯れをどのようにして防ぐのか。地震のエネルギーはどのように計算されるのか。本書は、このような社会問題に関わる場面で、高校数学がどのように使われているかを記した書である。

「高校学校においては、目標について、高等学校における数学学習の意義や有用性を一層重視し改善する。」
 平成20年1月17日に示された中央教育審議会答申「学習指導要領等の改善について」において、高等学校数学の項では、このように記述されている。
 しかし、現在の高校数学の教科書では、なぜか社会で数学が応用される例はほとんどあげら れていない。 三角関数、微分積分、ベクトルと行列などは、社会科学でもごくあたりまえに使われている。その一端を示すだけで、数学への興味を持つ生徒の割合は増えると思う。しかし、現状では、教科書に応用面を書くと、まるで純血が汚されると恐れているかのように、極力記述を避けているように感じてしまう。

 「高校数学で解く社会問題」では、様々な立場の専門家が、高校数学の使われ方を記し「有用性」を示している 。ただ、もう少し数式を載せてもよいのではと感じた。専門的な話は興味深いのだが、数学が適用される数式の例はもっとあったほうが、本書の趣旨にあうのではないか。
 その点、第一章の「学歴社会の収入格差を考える 」では式を用いて的確な説明がなされていた。生涯賃金を計算するにあたり、具体的なデータから3次関数に補完し、積分で求め る説明はたいへん分かりやすい。しかも、EXCELを用いて実際に計算する方法が示 されている点がよい。このように、社会問題を自らの手で計算する様々な場面を設けることで、数学を理解する層が厚みを増すであろう。

 別の面から捉えると、社会問題で使われている数学を整理することで、高校数学に求められている内容がより明確になるのではないか。例えば、最小二乗法などは、どの分野でも用いられる手法であり、高校数学のひとつの到達点として位置づけることもできる。

 「数学が社会に生きている。」
生徒がそう実感できる高校数学になってほしいと切に願っている。

こんなに役立つ数学入門―高校数学で解く社会問題 (ちくま新書 653)
広田 照幸 川西 琢也
4480063587

池上彰 「伝える力」

 「週刊こどもニュース」のお父さん役だった池上彰が、「話す」「書く」「聞く」など、様々な場面での「伝え方」を綴った本。 伝え方の本としては、池上氏の前著『相手に「伝わる」話し方』も自身の体験に根ざしており良かったが、今回の書は、さらに方法や心得が全面に出ている。
 NHKのニュース・キャスターや、「こどもニュース」での体験なども盛り込まれ、さらりと読めるが内容はしっかり。ジャーナリズムの一線で活躍した著者により、洗練された「分かりやすさ」が示されている。

 「週刊こどもニュース」を制作するにあたって、「日銀のしくみ」や「インフレ」を説明するために教科書を見たが、ほとんど役に立たなかったという。「教科書や参考書は非常にわかりにくい」という指摘は考えさせられる。本書から、「分かりやすさ」を求めることの大切さを改めて実感できた。

 「根本的なことを、きちんとわかりやすく説明する。それがいかに難しいことか。多くの専門家が、その課題から逃げていたのです。」

伝える力 (PHPビジネス新書 28)
池上 彰
4569690815

授業参観

 「総合的な学習の時間」の授業参観で、地域のことを調べたポスターセッションが行われる。小学4年生の息子は、地元で製作されている「招き猫」について発表した。
 「3年生の時には、チョコレートのことを調べて、頭の中はチョコレートの種類や製法でいっぱいになり、今度は招き猫で、まとめたり発表したりで頭の中は招き猫、招き猫と、招き猫だらけだったよ。」と息子は言っていた。
 実際の研究でも、対象についてずっと考え続けることから成果が生まれる。その体験をさせる学習は、意義が大きいと感じた。

梶田叡一氏講演会

 「学習指導要領の改訂と確かな学力の形成」という演題で、中央教育審議会副会長、兵庫教育大学学長である梶田叡一氏の講演会が群馬県総合教育センターで行われた。
 平成20年1月17日に中央教育審議会から出された「学習指導要領の改善について(答申)」が生み出される過程やその理念が語られた。
 「ゆとり」か「詰め込み」かという2つの対立を乗り越えて、子どもたちが生きていくために必要な力をしっかりと育てなければならないという思いが伝わってきた。
 授業を創造すること、「授業文化」が盛んになることの重要性を再認識する講演であった。

基礎がため100%中2数学 (図形編)

 中学2年生の数学では、図形の証明が大きな山場となる。三角形、四角形の性質を踏まえ、合同条件などをもとに、論証を行っていく問題である。根拠を明確に示し、結論を導く過程を体験させることは、極めて重要である。しかし、こと証明問題については、一朝一夕に解けるようにはならない。様々なケースに触れながら、図形の性質を確認し、その手法を何度も体験して初めて、新たな問題を解く力が養われる。
  「基礎がため100%中2数学 図形編」では、角の性質、三角形、四角形の性質をスモール・ステップで学びながら、徐々に基礎的な証明問題が解けるよう配慮されている。入試に対応するためには、より広範な問題にあたる必要があるかもしれないが、まず、基礎をきちんと押さえることなくしては、自らの力で解くことはできない。この問題集では、似た問題に繰り返しふれることで、着実に基礎を押さえられるように構成されている。
 授業の予習や、短期間で総まとめを行うにはよい書き込み式問題集。 

くもんの中学基礎がため100%中2数学 (図形編)
4774305898

ノーベル

 ダイナマイトを発明し、遺産のほとんどを平和のための賞の設立に託したノーベル。その生涯を息子の音読でたどる。
 父の代から様々な発明で工場を興しながら、製品の事故や政治の都合によって、何度も倒産の憂き目にあう。しかし、次の発明によって、新たな事業を始めていく。その不撓不屈の姿勢がすごい。
 自ら発明したダイナマイトは、工事の効率を飛躍的に高め、産業の進展に貢献したが、同時に戦争に利用され、幾多の命をうばっていく。ノーベルは平和を願っていたが、戦争をなくすことの難しさもよく理解していた。ノーベル賞の設立は、幾多の発明を成し遂げる柔軟な思考の中で培われたバランス感覚があってこそ生まれた方策だったのではないか。
 科学者の気概と苦悩を伝える良書。

ノーベル―人類に進歩と平和を (講談社火の鳥伝記文庫 (41))
大野 進
406147541X

子どもを伸ばす共育コーチング

 ビジネスマンに対するコーチングを行っていた著者が、高校生の就職カウンセリングを行うことになった。やる気のない生徒、何でも「分からない」ですます生徒、自分に自身がもてない生徒などに、著者はコーチングの手法を用いてコミュニケーションをはかっていく。
 生徒との生のやりとりで示される、具体的なアプローチは、たいへん示唆に富む。子どもたちの可能性を引き出す技術には、もっと目が向られるべきだと切に感じた。

子どもを伸ばす共育コーチング―子どもの本音と行動を引き出すコミュニケーション術
石川 尚子 岸 英光
4806805483

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