茶の本

 岡倉天心の「茶の本」は、明治時代、日本の美意識を英語で表現し、世界中で読み継がれている書。
 茶の思想にこめられた東洋の精神文化を、簡明な文体で綴っている。東洋が西洋から蔑まれていた時代に、やや挑発的な表現も含みながら、日本独自の価値観を矜持をもって表している。
 日本文化の根底に流れる思想を、茶を基軸としながら浮き彫りにする真の名著。

茶の本 (岩波文庫)
岡倉 覚三 村岡 博

田口八重「おこしやす」

 京都の老舗旅館「柊家」で仲居としての日々を綴った田口八重のエッセイを、森光子が朗読するCDを聴く。
 仲居になりたての苦労から始まり、川端康成、三島由紀夫、平沼騏一郎などの著名人と接した思い出が語られる。お客様に心をこめて接するうちに、著名人も素顔を見せ心を開いていく様が、淡々としていながら心にすっとはいる言葉で語られる。 
 森光子の朗読が素晴らしく、自然と引き込まれる。仲居の息づかいが伝わるようであり、深い共感がなければこうは読めない。
 「おもてなしの心」の神髄を伝える珠玉の朗読。

田口八重「おこしやす」朗読 森光子 CD2枚組 (<CD>)

蜜蜂と遠雷

 「ああ、我々は、自分をこの音楽家に託してよいのだ。」

 久しぶりに、読み進むのがもったいない、読み終わりたくないと思える小説に出会えた。ピアノコンクールを舞台に、人間模様と音楽を描いた恩田陸の小説「蜜蜂と遠雷」である。
 養蜂家の少年、元プロであった少女、アメリカで実力を磨いた多国籍の系譜をもつ青年、音楽家への夢が捨てられない会社員など、参加者が織りなす演奏を軸に、それらを取り巻く人々や審査員など様々な視点でコンクールの進行を紡いでゆく。 
 ピアノ演奏の魅力をここまで具体的に表現した作品があっただろうか。登場人物それぞれが、曲から受ける心象を記していく。それにより、ピアノが奏でる音楽が表現するものを豊かに描き出していく。
 音楽への深い愛情が、繊細な言葉によって伝わってくる。同時に、人々の生き様が、音楽によって見事に浮き彫りにされていくのだ。登場人物に共感し、何度涙を溢れさせたことだろうか。
 音楽の素晴らしさを人々のハーモニーで奏で、いつまでもその調べに浸っていたいと感じさせる素敵な小説。

蜜蜂と遠雷

チョコレートコスモス

 恩田陸の小説「チョコレートコスモス」は、演劇に関わる人々を描いた作品。
 強烈に面白い。演じる人々の心理描写が実に見事。ときおり鳥肌が立つほど、煌めく場面がある。
 500ページ以上ある本であるが、本を読んでいることすら忘れてしまうほど、魅力にあふれている。
 舞台の上の小宇宙を圧巻の筆力で活写する傑作ロマン。

チョコレートコスモス (角川文庫)

機動警察パトレイバー 劇場版

 「機動警察パトレイバー 劇場版」は、押井守監督による1989年公開のアニメーション。労働を担うロボット、レイバーが至る所で利用される日本を舞台に、首都を襲う事態に立ち向かう警察の若き面々の活躍を描く。
 押井監督のこだわりが随所に感じられる緻密な町の描写が素晴らしい。脚本も見事で、卓抜な発想と重厚なストーリーで見る者を最後まで惹き付ける。
 川井憲次の音楽が緊迫感を盛り上げる。冒頭の自衛隊レイバーが暴走するシーンから緊迫感があり、最後のカタルシス溢れる音楽は名曲。
 近未来を見事に描いたアニメーション映画の傑作。

機動警察パトレイバー 劇場版 [DVD]

ブルース・ブラザース

ブルース・ブラザースは、ジョン・ベルーシとダン・エイクロイドが主演のコメディ映画。1980年、ジョン・ランディス監督作品。
 黒ずくめの服、黒いサングラスで通す2人組を中心に、ノリのよいギャグでテンポ良く進む痛快作。ハチャメチャなカー・チェイスなど破天荒なアクションも満載。
 そして何より、一流の音楽に彩られていることが魅力の映画。 レイ・チャールズ、アレサ・フランクリンなど一級のミュージシャンも参加し、良質の音楽を存分に楽しませてくれる。
 オールド・ファッションの心地よさを満喫させてくれる映画。

ブルース・ブラザース [Blu-ray]

二百三高地

 「二百三高地」は、日露戦争での乃木将軍を中心に据え、旅順攻略の激戦を正面切って描いた重厚な映画。1980年、舛田利雄監督作品。
 冒頭、森繁久彌演じる伊藤博文と丹波哲郎が演じる児玉源太郎が料亭でロシアと開戦するかどうかを語るが、その場面だけでも異様な迫力があった。
 俳優同士の個性が火花を散らし、戦争の悲惨さを活写する超弩級の歴史大作。

二百三高地 [DVD]

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの

 対話型ロボット、自動運転、医療診断など、人工知能のトピックスが随分とニュース等を賑わせている。囲碁や将棋で人間に勝つなど、フレームの決まった問題に対して、人工知能は人間の能力を超える力を発揮している。
 ネット上の情報を収集・分析するビッグ・データ解析の性能も恐るべき勢いで向上している。人工知能は今後、産業・社会に大きな影響を与えていくことは間違いない。発展する人工知能はどこに向かおうとしているのか。人類に脅威を与える存在になりうるのだろうか。
 本書は、人工知能研究の歴史と今を語り、今後の方向と可能性を記している。人工知能研究者によって著された本であり、特徴表現学習、ディープラーニングについては詳細に書かれている。
 人工知能研究の「知の格闘」の軌跡が興味深い。冬の時代を生き抜いた研究者の不屈の精神も感じられる。また、人工知能の方向についても冷静に分析され、見通しを持つことができる。丁寧な記述からは、人工知能について分かりやすく伝えたいという思いがひしひしと感じられる。
 人工知能の過去・現在とこれからの展望を示した良書。 

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)
松尾 豊

狗賓童子の島

 幕末、隠岐の島に15歳の少年が流刑囚として送られてきた。大塩平八郎の乱における首謀者の一人、西村履三郎の息子であり、父親の咎を受けての島流しあった。
 少年は村人たちに温かく迎えられ、成長していく。しかし、隠岐の島も幕末の動乱とは無関係ではなかった…。
 主人公と島の人々との交流を軸にしながら、幕末の日本を重層的に描く飯嶋和一の歴史小説「狗賓童子の島」。
 押し寄せる波のように、静かな島は幕府の圧政や迫り来る病、海外からの干渉にさらされる。著者は弱者の立場に視線をおき、島民の様子をつまびらかに描写する。淡々とした筆致であるが、主人公の体験に身をおき独特の感慨が味わえた。
 格別の読書体験ができる重厚な歴史小説。

狗賓童子の島 (小学館文庫)
飯嶋 和一

始祖鳥記

 江戸天明期、空を飛ぶことに自らのすべてをかけた男の生き様を描いた飯嶋和一の小説「始祖鳥記」。
 幸吉は腕の良い表具師であったが、自ら作った凧で空を駆け、お上の世を騒がせた罪で捕縛される。
 主人公の数奇な運命を通して、当時の経済を活写した物語でもある。幸吉の生き様も興味深いが、とりまく人々が実に味わいがある。多層的な深みと爽快さを合わせもっており、読後の充実感は何物にも代え難い。
 読書の醍醐味を与えてくれる感動の小説。

始祖鳥記 (小学館文庫)
飯嶋 和一

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