ウィリアム・ブレイクと神の世界

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 高崎市美術館で開催された「ウィリアム・ブレイクと神の世界」展に家族で行く。
 ギリシャ神話や聖書の世界を描いた版画を中心とした展示。稠密な線で描かれた幻想的な挿絵には引き込まれるような魅力がある。聖書『ヨブ記』を描いた連作の挿絵が印象に残る。
 ジョン・マーティンによるミルトン『失楽園』の版画では、幻想的で壮大な物語世界が展開され圧巻であった。

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 高崎市美術館に隣接する井上房一郎邸を久しぶりに訪れる。落ち着きのある空間に心を和ませる。

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 昼食後、高崎シティギャラリーに歩いて行き、「漢字三千年」展を見る。古代の動物の骨などに描かれた甲骨文字から、青銅器の内側に記された漢字など、漢字の変遷を歴史的文物で辿ることができ、興味深かった。
 絵画、書と文化を味わい、夏休みの終わりの日を家族で有意義に過ごすことができた。

高崎市美術館 ウィリアム・ブレイクと神の世界

特別展「漢字三千年」

J-PARC

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 J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex:大強度陽子加速器施設)の公開日に見学に行く。J-PARCは、素粒子物理学等の最先端研究を行う、茨城県東海村にある実験施設。
 高速の99.95%まで陽子を加速する世界最強クラスのハイパーマシンの心臓部、メインリングを見学する。一周1570mのシンクロトロンで、陽子のビームがこの中で約30万周する。それを実現する巨大な電磁石群はゆるやかなカーブを描き、技術の粋を感じさせる。

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 加速された陽子ビームは標的に衝突し、多数の素粒子を生成する。それを約300km先にある岐阜県飛騨市神岡町の地下1000mに位置するスーパーカミオカンデに発射し観測を行うT2K実験が行われている。ニュートリノ振動などの素粒子の振る舞いや、反物質の性質を調べ基礎科学に大きな貢献を成し遂げている。
 地下に鎮座した観測機器は圧巻の存在感を放っていた。

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 多くの企業等と共同で最先端実験を行っている物質・生命科学実験施設を見学する。放射状に伸びた陽子ビーム施設群は、カラフルに塗り分けられ多様な実験が進められる様子を示していた。
 日本の産業を支える施設であることが実感された。

 年に1回の公開日には、職員の方々も来場者への解説にあたられていた。実験を止めることは大きな影響があろうし、見学の準備をすることにも多大な労力が必要であったことと思う。しかし、それでもこの施設の役割や日本の技術水準の高さ、将来へのビジョンを示すためにも、公開日の役割は極めて大きいと感じる。生き生きと見学をしていた子どもたちの姿が印象的であった。

 J-PARC(大強度陽子加速器施設)

幻肢

 「幻肢」は、藤井道人監督による映画。交通事故で恋人の記憶をなくした青年をめぐるラブミステリー。趣のある演出で引き込まれる。
 藤井道人監督の撮影場面を見る機会があった。若手の女優さんの魅力を存分に引き出しているように感じた。

幻肢 [DVD]
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生物と無生物のあいだ

 生物とは何か。その根源的な問いに、生物学者福岡伸一が、DNA発見の経緯や自らの研究の過程を踏まえて向き合った書。
 魅力的な語り口で、生命の謎をときあかすドラマが綴られていく。科学的で精緻な文章でありながら、時折深い抒情をたたえて記されていく。それは、文学的香気をたたえた上質の推理小説を読んでいるかのようである。しかも、その内容は生命の神秘を伝えとめどもない深みをたたえている。

「1950年、彼女が三十歳になった秋のことだった。幸運と、その不運のすべてが、続く二十数ヶ月のうちにフランクリンの上に照射され、それはあらゆる方向に拡散した。」

 DNAの構造発見に大きく寄与したX線解析を専門とする科学者、ロザリンド・フランクリンに関する本書の文である。X線を物体にあて、その構造解析を行うことに彼女の運命を象徴させた比喩に感銘を受けた。
 彼女の研究はワトソン、クリック、ウィルキンズの3名がノーベル賞をとったDNA二重らせん構造の発見に大きく関わっているが、フランクリン自身の名はノーベル賞受賞者に刻まれることはなかった。
 このような、巧みな表現とドラマチックな展開により、読む者を強く惹き付ける魅力に満ちている。

 生命現象とその解明に挑んだ人々を描き、根源的な感銘を与えてくれる名著。    

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

発達障害の子どもたち

 学習障害、自閉症など、発達障害をかかえる子どもたちの対応について、多くの症例から具体的な記述がなされている。医学的な見地と教育的な視点が共にあり、支援に対する方向を示してくれる。
 通常学級においても困り感をもった児童生徒は多く、全ての教員が特別支援教育に対する理解を深めなくてはならないが、そのための基盤となる事柄が丁寧に記された良書。

発達障害の子どもたち (講談社現代新書)
杉山 登志郎
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高崎高校 第65回 翠巒祭

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 高崎高校の第65回翠巒祭が、2017年6月3日・4日に開催された。
 当日朝、校門近くに行くと、まだアーチを作成している途中であった。レンガを塗ったり天井を仕上げたりしている生徒の姿が見られた。

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 今年のテーマは”No SurFace”。「表面的ではない」文化祭と、「おもてなし」をかけているらしい。SとFが大文字なのは、Suiran Festival(翠巒祭)とSixty Fifth(65回)の頭文字であるからとのこと。

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 次男はマンドリン部の一員として演奏し、司会もこなしていた。1年前はマンドリンに触れたばかりで、「森へゆきましょう」のような簡単な曲を弾くのみだったが、2年生になった今はレベルの高い演奏をいくつも披露するのみならず、編曲も手がけるようになった。高校時代の1年間の成長は本当に驚くべきものがある。
 なお、高崎高校は今年度、7月下旬に大阪府吹田市で行われる全国高等学校ギター・マンドリン音楽コンクールに群馬県の代表として出場する。

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 アーチも完成したようで、多くの来場者を迎えていた。春夏秋冬を表す絵やバラをかたどったステンドグラスなど内部の装飾も凝っており、日常と非日常との境を分ける役割を果たしていた。

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 校舎内に入ると、ここにも門があり、趣向を凝らし和の空間を演出していた。

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 校舎一面に掲げられた壁画は、新倉富士浅間神社をモチーフにしている。強風にあおられ、だいぶなびいていたため、実行委員によって一時撤去をしている最中だった。

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 数学部の割り箸を使ったピタゴラスイッチ風のしかけなど、手間のかかっている展示が多く見られた。

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 喫茶店は例年飾りが凝っているが、今年も自然を生かした落ち着いた空間を作っていた。

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 次男は創作班美術課として、校内の絵もいろいろ手がけたようだ。明るく優しい絵柄は、見る人の目を楽しませていた。
 毎日へろへろになりながら家に帰ってきたが、当日にその努力は実を結んでいると感じた。

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 毎年1万人以上が来場する翠巒祭。デザイン・センスに優れ、おもてなしの心を体現したレベルの高い文化祭は、確実に高崎高校が誇る伝統のひとつとなっている。

 高崎高校 第65回 翠巒祭

田口八重「おこしやす」

 京都の老舗旅館「柊家」で仲居としての日々を綴った田口八重のエッセイを、森光子が朗読するCDを聴く。
 仲居になりたての苦労から始まり、川端康成、三島由紀夫、平沼騏一郎などの著名人と接した思い出が語られる。お客様に心をこめて接するうちに、著名人も素顔を見せ心を開いていく様が、淡々としていながら心にすっとはいる言葉で語られる。 
 森光子の朗読が素晴らしく、自然と引き込まれる。仲居の息づかいが伝わるようであり、深い共感がなければこうは読めない。
 「おもてなしの心」の神髄を伝える珠玉の朗読。

田口八重「おこしやす」朗読 森光子 CD2枚組 (<CD>)

蜜蜂と遠雷

 「ああ、我々は、自分をこの音楽家に託してよいのだ。」

 久しぶりに、読み進むのがもったいない、読み終わりたくないと思える小説に出会えた。ピアノコンクールを舞台に、人間模様と音楽を描いた恩田陸の小説「蜜蜂と遠雷」である。
 養蜂家の少年、元プロであった少女、アメリカで実力を磨いた多国籍の系譜をもつ青年、音楽家への夢が捨てられない会社員など、参加者が織りなす演奏を軸に、それらを取り巻く人々や審査員など様々な視点でコンクールの進行を紡いでゆく。 
 ピアノ演奏の魅力をここまで具体的に表現した作品があっただろうか。登場人物それぞれが、曲から受ける心象を記していく。それにより、ピアノが奏でる音楽が表現するものを豊かに描き出していく。
 音楽への深い愛情が、繊細な言葉によって伝わってくる。同時に、人々の生き様が、音楽によって見事に浮き彫りにされていくのだ。登場人物に共感し、何度涙を溢れさせたことだろうか。
 音楽の素晴らしさを人々のハーモニーで奏で、いつまでもその調べに浸っていたいと感じさせる素敵な小説。

蜜蜂と遠雷

遠い空の向こうに

 1957年10月5日、ソ連の人工衛星スプートニクを夜空に見て触発された高校生が、ロケットの打ち上げに挑む映画「遠い空の向こうに」。炭坑夫の父親に反対されながらも、仲間と共にひたむきにロケットの制作に取り組む姿が清々しい。
 山火事がロケットのせいだと警察から濡衣を着せられ、数学を用いてロケットの軌跡を導きだし汚名を挽回する場面がことに良かった。生きた理数にふれる実体験が、その後の人生に与える影響の大きさを示していた。
 ウェスト・ヴァージニア州の小さな炭鉱町で繰り広げられる人間模様から、大きな感動を得た。高校生や教育に携わる人々に是非見てほしい、素晴しい青春映画。

遠い空の向こうに [DVD]
B006QJSUCY

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの

 対話型ロボット、自動運転、医療診断など、人工知能のトピックスが随分とニュース等を賑わせている。囲碁や将棋で人間に勝つなど、フレームの決まった問題に対して、人工知能は人間の能力を超える力を発揮している。
 ネット上の情報を収集・分析するビッグ・データ解析の性能も恐るべき勢いで向上している。人工知能は今後、産業・社会に大きな影響を与えていくことは間違いない。発展する人工知能はどこに向かおうとしているのか。人類に脅威を与える存在になりうるのだろうか。
 本書は、人工知能研究の歴史と今を語り、今後の方向と可能性を記している。人工知能研究者によって著された本であり、特徴表現学習、ディープラーニングについては詳細に書かれている。
 人工知能研究の「知の格闘」の軌跡が興味深い。冬の時代を生き抜いた研究者の不屈の精神も感じられる。また、人工知能の方向についても冷静に分析され、見通しを持つことができる。丁寧な記述からは、人工知能について分かりやすく伝えたいという思いがひしひしと感じられる。
 人工知能の過去・現在とこれからの展望を示した良書。 

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)
松尾 豊

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