授業研究に学ぶ高校新数学の在り方

 高校数学の問題や課題について、数学教育者、数学者それぞれの立場で述べられた本。授業の実践事例が、検討会の様子もふまえて載せられており、参考になる部分も多い。
 高校数学については、目先の問題をどう解かせるかに汲々として、授業の方法を突き詰める場面が小中学校に比べて少ないように思う。授業研究を通して、高校数学教育の在り方がもっと討議されることが必要と感じる。何のために数学を教えるのか、その原点を改めて考えるよいきっかけとなった。

授業研究に学ぶ高校新数学科の在り方
長崎 栄三 吉田 明史 渡辺 公夫
4185086180

国家の品格

 数学者、藤原正彦の「国家の品格」を読む。胸のすく日本人論。明快であり、すぐに読めた。
 日本の良さを見直そうと鼓舞する内容で、たいへん反響のあった本。長く続いた不況や治安の悪化、福祉や少子化への不安など、日本人が自信を失いかけていたときに良いタイミングで出たという側面もあるだろう。もっとも、この本がたいへんに売れていること自体が、日本の底力を示しているように思う。
 歯に衣着せぬ物言いで、やや先鋭に過ぎる論調ではあるが、納得できる部分も多い。
 教育についても、様々な具体例があげられているが、特に数学の天才が出る風土については、たいへん興味深かった。日本の教育にとって何が重要であるのかを大局から考えるきっかけを与えてくれた。

国家の品格
藤原 正彦
4106101416

ライト兄弟

『 ゆめ-それはきえやすいものです。けれど、また、ながく心の中に生きつづけて、その人をみちびいていく大きな力にもなります。ライト兄弟の一生は、このゆめにみちびかれ、そのゆめをじっさいにあらわすための努力だったといえましょう。』

 長男に毎日させている、飛行機の父、ライト兄弟の伝記の朗読が今日終わった。母に図面を書くことの大切さを教えられ、ソリを自らの手でつくりあげたこと、父からヘリコプターのおもちゃを与えられ、大空への夢をかき立てられたこと。様々な経験が、ライト兄弟の初飛行につながっていた。
 内燃機関の専門家であった著者は、飛行機の発明が偶然ではなく、ライト兄弟の多くの体験と試行錯誤があって成し遂げられたことを丁寧に記している。
 思いを持ち続け、地道な努力を続けることがいかに大切か。
 技術立国日本の復権のためにも、それを様々な場面で子どもたちに伝えていくことが必要だと強く感じさせられた。

ライト兄弟―とべ!飛行機第一号
富塚 清
4061475096

GRAPES

 “GRAPES” 、一粒一粒がつややかに実った葡萄のように、作者が慈しみながら育てあげてきた思いが伝わるソフトである。インターネットに公開されているフリーソフトで、容量は本体とサンプルで1枚のフロッピィデスクに収まる大きさ。実際に操作し、サンプルを見ることで、サイズは小粒ながら意外な広がりを持ったソフトだと納得できるだろう。

X2bx  例えば、「陽関数」の「作成」ボタンを押し,x^2+bx と入力するだけで、パラメータbを表す欄が自動的に作成される。このbの値はマウスでクリックして増減させることができ、それに伴ってx^2+bxのグラフも移動していく。式を入れるだけでパラメータをすぐに操作でき、グラフがすっと動く軽快さが心地よい。

Trochoid  描いたグラフの拡大・縮小・移動なども任意の範囲を指定して手軽にできる。陽関数以外にも陰関数や、極座標関数、図形など、様々な対象を描画できる。また、簡単なプログラミングができ、関数を用いたアニメーションを効果的に見せる表現力も豊かである。これだけの機能を持ったソフトを無償で提供している友田勝久氏に敬意を表したい。

 昨日、パイオニアのプラズマ電子情報ボードを使って、GRAPESを利用した数学の模擬授業を行った。指で画面をなぞるだけで、座標の移動や拡大・縮小がいとも手軽にできることを生かし、2次関数と微分について動的に提示した。
 GRAPES+電子情報ボードが、数学の授業を柔軟かつダイナミックに展開する優れた組合せであることを実感した。

GRAPES

宮沢賢治

 花巻の地に旅したとき、どこまでも続く木々を見て、安心と畏怖が入り交じった不思議な気持ちになった。風にさわぐ木々の薫りにふれ、まさしく人と文学を育む地だと感じた。
 宮沢賢治のひたむきさと澄んだ抒情にあふれた作品に接するとき、この花巻の森を思い出す。

 息子に、西本鶏介が思いを込めて書いた宮沢賢治の伝記を読ませている。信仰と現実とを一致させるべく苦悩する様を読んでも、小学2年生にはまだ実感を伴って理解できないかもしれない。しかし、自然への慈しみや、前向きに取り組むことの尊さは伝わるはずである。
 なにより、子どもの読む「永訣の朝」などの詩に感動できることは、この上ない喜びだ。

宮沢賢治
西本 鶏介
4061475207

ジョバンニの銀河・1983

 宮沢賢治の伝記を、このところ毎日長男に音読させている。図書館に行ったとき、宮沢賢治没後50年の節目に制作された「ジョバンニの銀河・1983」のビデオがあったので、借りて見る。1983年3月21日放送のNHK特集である。

 冒頭、生前の賢治の数少ない理解者であった草野心平が「永訣の朝」を吹雪く花巻の地で朗読する。前半は、賢治の作品が各国に翻訳されていることや、賢治の作品世界を広める努力としている人々が紹介される。
 後半は、「銀河鉄道の夜」の映像スケッチである。パウル・クレーの絵画や、鉱物の偏光顕微鏡写真の画像を背景に、銀河を旅するジョバンニたちの心象が語られる。
 科学と宗教が融和した賢治の世界が幻想的な映像で印象深く描かれていた。

ジョバンニの銀河1983
B00005IK54

ミクロの決死圏

 脳内出血で倒れた科学者を救うため、探査艇ごと縮小された医療チームを血管に注入し、体内から患部に行き治療するという着想の映画。1966年の作品。

 これを小学生の時にテレビで見て、すごく興奮した覚えがある。無数の赤血球が浮かぶ血管内、猛スピードで流れる心臓付近の静脈、神秘の色をたたえた内耳の風景、異物に襲いかかる抗体。一番身近である、自分自身の内部がこんなに巧みな仕組みと美しさに満ちているのかと、不思議な思いにとらわれた。人体内部が、小宇宙であることをまざまざと感じさせてくれ、生命に対する興味を決定的に高めてくれた映画だった。

 この人体内部の美術デザインは、シュルレアリスムの巨匠、サルバドール・ダリが手がけている。どんなにコンピュータ・グラフィックスの表現技法が発達しても、この映画が与えてくれた人体内部のインパクトを凌ぐ映像にはいまだ出会っていない。

 何度も見ても、色あせるどころが、新しい魅力が発見される素晴らしい映画だ。
 アイデアやストーリーが卓越しているだけでなく、科学に大いなる夢を持たせてくれた点でも、自分にとっては大切な作品。

ミクロの決死圏
スティーブン・ボイド アイザック・アシモフ リチャード・フライシャー
B0006TPEQK

小学国語辞典

 元旦の朝7時、久しぶりにジョギングをする。6kmほど走る。「一年の計は元旦にあり」を子どもに示すためである。走って家に戻ると、長男が起きていたので、「一年の計は元旦にあり」って知ってるかい。と聞くと、「計って、計画のことだよね。さっきママに聞いたよ」と答える。教えようと思ったこちらとしては、ちょっと面白くない。気をとりなおして、「さて、私の今年の計は…」と、紙に「健康」と書く。我ながら汚い字だ。「パパはね、ジョギングを始めたよ。」で、長男はどうするのかと尋ねると、紙に「たくさん本を読む」と書いた。よしよし。

 長男が、「三人寄ればけんかばかり」とか、「能ある鷹は爪をみがく」とか言っている。それ、違うんじゃないと言うと、国語辞典に書いてあったとのこと。そんな間違ったことを書く辞典はケシカランと思ったが、それは、一ヶ月前に自分が買い与えた国語辞典だった。
 「逆さに読んでも同じ言葉で、岸なんとかというのがあったんだけど…」と、長男は国語辞典をぱらぱらめくり、「あった!」」と叫ぶ。そこには、「岸にササニシキ」と書いてあった。そんなものは、パパも知ってるぞと、「シナモンパンもレモンパンもなし」とか、「さけをたがいににいがたおけさ」などと書く。冷静に振り返ると、大人げない1年の始まりだ。だいたい、ジョギングが3日と続くとは思えないし、「健康」と一年の計を書いておきながら、現在ワインを飲んだくれている。

 さて、国語辞典は、子どもの言葉の世界を広げるのに役立っているようで、いい買い物だったと思っている。学研の「新レインボー小学国語辞典」だ。長男は、ケロロ軍曹の「軍曹」は、どれほど偉いのか、辞書を引き調べていた。階級上は、ケロロ軍曹より、クルル曹長のほうが偉いようだ。また、長男は、辞書に載っていたローマ字の一覧にふりがなをふり、「KERORO」と自分で書いた絵の横に記すなど、活用していた。

 この辞典は、引きやすく読みやすい。巻末には、小学校で習う漢字が筆順つきで載っているなど、資料も充実している。下の欄外に、先ほどのことわざパロディや回文、漢字クイズなどが載っており、国語に親しみやすくする工夫がなされている。自らの国の言葉に誇りを持つためには、まず、その言葉を好きになることから入るのがよいだろう。その意味で、この辞典は子どもの言葉の世界を広げるよいきっかけになるようだ。

 自分も、言葉をより大事にするために、このブログを続けていきたい。そのために、息切れしないよう、自然体でこの1年も望んでいきたい。

新レインボー小学国語辞典
金田一 春彦 金田一 秀穂
4053017939

コンピュータが連れてきた子どもたち

 年末にあたりこの1年を振り返って、自分にとって一番変化があったことと言えば、このブログを始めたことであろう。1日に1つのペースで何かを記していくことで、多くのものに意識的に関わるようになり、日々の生活に張りを与えてくれるきっかけとなった。

 このブログの一番最初に、教育用のソフトウェアLOGOの背景を述べた著作「マインド・ストーム」のことを記した。この本は、大学時代に読んでたいへん影響を受けた本であった。
 また、日本で最初に、本格的にLOGOを教育に取り入れた戸塚滝登氏も、影響を受けた方である。大学時代、1983、4年の頃だったが、戸塚氏が雑誌で、コンピュータを電子問題集としての利用でなく、思考のための道具として活用すべきという趣旨の記述を読んだことが最初だったように記憶している。以来、氏の様々な優れた実践を知り、コンピュータと教育との関わりを考える上で多くの示唆をいただいた。

 その戸塚氏から、このブログにコメントをいただき、たいへん恐縮した。紹介のあった著作「コンピュータが連れてきた子どもたち」を瞬時に注文し、読ませていただいた。

 佐世保事件とインターネットとの関わりから始まり、コンピュータを利用した教育についての功罪が示されている。デジタル社会・ネットワーク環境が子どもに及ぼす影響、脳科学からのアプローチ、そして、氏の豊富な実践に基づく子どもたちの「学び」のあり方が表現豊かに語られている。

 コンピュータを利用した教育のパイオニアとして、インターネットなどによる教育が子どもたちを間違った方向に導くことを防げなければならないという、強い思いが伝わってくる。そして、氏の子どもたちに向ける暖かいまなざしが感じられ、コンピュータを超えて教育という営み本来の姿を問いかけられた。

 ありあまる物質と飽食、何でもすぐに手に入る利便性に慣れてしまい、教える側自身も方向を見誤っていないか。「子どもたちに何が必要か、そして、子どもたちを何から守るか」をもう一度問い直すべきであることを実感させられる著作であった。

コンピュータが連れてきた子どもたち
―ネットの世界でいま何が起こっているのか

戸塚 滝登
4098400987

エジソン

 冬休みの宿題で、「好きな本を音読する」という項目があったので、息子にエジソンの伝記を読ませている。この本は、学校で朝読書があるというので、読み応えのある本が良いと思い、買い与えたものだ。
 読ませてみると、思った以上にすらすら読む。朝読書の成果だろうか。
 また、内容が実に豊富で、エジソンが蓄電池の発明で水酸化ニッケルと酸化鉄を電極に使い、水酸化カリウムの溶液にひたすなど化学的な内容が出てきたときには、元素を周期表で確認させるなど、他に学習を広げるきっかけとなる事項がたくさん出てくる点が良い。

 息子が読むのを聴いて、あまりに面白いので、親が自分で手にとってみたが、読み終わっていたく感動した。
 たとえ内容が少々難しくとも、このような偉人の伝記に触れることは、伏流水のようにその子の心を潤し将来に繋がるであろう。

エジソン―いたずらと発明の天才
崎川 範行
4061475029

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