伊奈かっぺい横浜アリーナ・ライブ

 伊奈かっぺいが横浜アリーナで行ったライブのCDを聴く。自分史的な内容であるが、会場の反応がとにかく凄い。最初、聴いてるこちらはほとんど面白く感じず、会場のあまりに大げさなリアクションが異様に感じたが、トークが進むにつれてだんだん慣れてきた。日常のささいなことを、笑いに結晶させる技量に感心する。

伊奈かっぺい横浜アリーナ・ライブ ~栄光ヘの奇跡!? ~
伊奈かっぺい
B00005EPGG

明治の人物誌 星新一

 ショート・ショートの名手、星新一が、父と関わりのあった明治の人物を描いた評伝。「中村正直」「野口英世」「岩下清周」「伊藤博文」「新渡戸稲造」「エジソン」「後藤猛太郎」「花井卓蔵」「後藤新平」「杉山茂丸」の10人の生涯が、父との交流も含めて語られる。
 簡潔な文章で平易に語られているが、密度が実に濃い。一編一編が、長編一つ分の内容を持つ。しかも、父親との交流や関わりのあった人たちであるためか、冷静な筆致の中にも暖かみが感じられ、血の通った文章になっている。
 野口英世が日本に凱旋する費用を出したのも、星製薬の社長であった星一であるなど、通常の伝記にないエピソードも書かれている。

 中村正直の章では、その訳書「西国立志編」(スマイルズの「自助論」)にふれ、次のように記している。
 「やむなく働かされてきた日本人の勤勉性を、自発的な勤勉性へと切り換える役目をも果たした。明治以降の近代化の歩みの引金となったのが、この『西国立志編』だと言っていいと思う。これがなかったら、産業がつぎつぎに興ったかどうか。」
 このように、さらりとした言葉で本質をすくい上げる。

 どの人物伝からも、明治時代の人々のスケールの大きさ、考え方の柔軟さ、寛やかさ、破天荒さなどに圧倒される。気骨のある精神をスマートな文体で示した、読みやすくも含蓄のある本。

明治の人物誌 (新潮文庫)
星 新一
4101098506

赤塚不二夫氏逝去

 「天才バカボン」「もーれつア太郎」「おそ松くん」など、数々のギャグマンガを世に送り出した赤塚不二夫氏が、肺炎のため8月2日午後4時55分に逝去した。
 世の全てを「これでいいのだ」と肯定し、突き抜けた笑いで元気を与えてくれた。
 小学校に上がる前に、叔父からもらった年賀状にニャロメが書いてあった。自分もノートにニャロメ、ケムンパス、ベシなどを真似てかいた。それが、小学生の時にマンガを書くきっかけとなった。絵は全くうまくならなかったが、拙いながらマンガを書くことでストーリーを作る喜びを教えてくれた。その気持ちは、今の仕事に繋がっているように思う。
 赤塚不二夫氏のマンガでは、日常の喜怒哀楽が、からりとした笑いに昇華されていく。その懐の深さに、癒されることも多かった。できそうでなかなかできない偉業を残された。
 ご冥福をお祈りいたします。

赤塚不二夫公認サイト これでいいのだ!!

ニャロメ!!―「もーれつア太郎」より (ちくま文庫)
赤塚 不二夫
4480038523

アインシュタイン 火の鳥伝記文庫

 『E=mc2 宇宙の総和は変わらない』

 自分が子どもの頃は、伝記などはそれほど読まなかったように記憶している。しかし、長男に伝記を音読させ、偉人たちの生涯をたどると、どれも実に興味深い。各人の子どもの頃の体験、青年期の恋愛、失敗のエピソード、テーマを追いかける力強さ、有名になってからの苦悩など、人生の様々な面が一冊に盛り込まれている。伝記の面白さ、良さを実感した。
 長男には、小学2年生での「エジソン」に始まり、3年間で20冊の伝記を音読してもらった。20冊目は、20世紀の科学の巨人、「アインシュタイン」を選んだ。子どもの頃からの柔軟な思考、相対性理論の発見、祖国を追われる日々、苦境の中でもユーモアを忘れない愛すべき人柄、原爆の誕生と苦悩など、波瀾の生涯が綴られている。分かりやすい言葉を用いるよう著者はつとめているが、内容は相当に濃かった。
 これまで読んできた「講談社 火の鳥伝記文庫」の人物をまとめると、次のようなリストになる。日付は、ブログに掲載した日。

アインシュタイン 08/07/31
西郷隆盛 08/02/29
ノーベル 08/01/26
勝海舟 07/11/30
ニュートン 07/08/25
ガリレオ 07/07/17
一休 07/06/30
ベートーヴェン 07/05/09
リンカーン 07/04/06
キュリー夫人 07/01/31
坂本竜馬 06/12/30
福沢諭吉 06/11/04
武田信玄 06/09/28
野口英世 06/09/01
豊臣秀吉 06/07/04
ヘレン=ケラー自伝 06/06/11
手塚治虫 06/04/16
ライト兄弟 06/03/05
宮沢賢治 06/01/31 06/02/07
エジソン 05/12/29

 このブログも、書き始めて3年がたつ。1日につき1つの記事を掲げる試みは、まだ途切れていない。紹介したいものはいくらでも生まれる。それほど、世の中には良いものが多いのだろう。
 長男と共にたどる伝記は、このブログを書くためのペース・メーカーとしての役割を果たしているようだ。これからも偉人の生涯に刺激を受け、記し続けていきたい。

アインシュタイン―科学の巨人 (講談社 火の鳥伝記文庫)
岡田 好恵
406149905X

小林亜星CMソング・アンソロジー

 「この木何の木、気になる木」「「どこまでも行こう」「新三共胃腸薬」「金銀パールプレゼント」「ふりむかないで東京の人」
 これらの歌詞を見て、自然とメロディが浮かんでくる人も多いだろう。全て小林亜星が作曲したCMソングだ。日本が高度経済成長期から今日まで駆け抜けてきた文化のそこかしこに、小林亜星の作品が登場する。しかも、色あせずに残る形で。
 「小林亜星CMソング・アンソロジー」は、彼が作曲した膨大な音楽の中から厳選した62曲が収められている。冒頭にあげた国民的愛唱歌とも言える名曲の数々や、サントリーのハイセンスな音楽、ダーバンの芸術性の高いインストゥルメンタルなど、その多様さと広がりに、ただただ圧倒される。
 「酒は大関こころいき」、ストレートに日本人の心に迫る音楽の魅力に溢れ、これらCMが流れた時代を生きた喜びを感じることができるCD。

小林亜星CMソング・アンソロジー
CMソング
B00006G8XY

成功はゴミ箱の中に

 「未熟でいるうちは成長できる。成熟した途端、腐敗が始まる。」

 マクドナルドの創業者、レイ・クロックがハンバーガーチェーンの事業を始めたのは、52歳のときであった。彼は、砂漠の中にあるにもかかわらず、大いに繁盛しているハンバーガー店を目の当たりにする。そのシンプルなメニュー構成と標準化された調理工程などに関心し、長年の営業マンの勘でビジネスになると直感し、事業を立ち上げる。
 1954年に始めた零細な会社は、1977年には4000を超える店舗を従える大企業に成長した。しかし、その道のりは平坦ではなく、数多くの失敗や裏切りがあった。それらを乗り越え、全米一のフード・チェーンに成長させたのは、レイ・クロックの勇気を持って果敢に挑戦する気概と、豊富な経験に裏打ちされた経営手法に他ならない。
 アメリカン・ドリームを体現したレイ・クロックの名言に満ちた自伝。

成功はゴミ箱の中に―レイ・クロック自伝 世界一、億万長者を生んだ男-マクドナルド創業者 (PRESIDENT BOOKS)
野崎 稚恵
4833418452

孟嘗君 5

 中国戦国時代、民から慕われた宰相として名高い孟嘗君を描く宮城谷昌光の小説は、文庫本5巻で完結する。
 この長大な小説で、孟嘗君が宰相として活躍する部分は意外に短い。しかし、その前の分量の多さが、この小説の真価でもある。名宰相が生まれるまでの、人々との出会い、様々な人物の生き様が、変化に富んだストーリーの中で見事に編み上げられているからである。
 特に、孟嘗君の育ての親、白圭の行動は、「義人」という現代では忘れ去られた感のある生き方を示している。それも、爽やかな風にふれるような心持ちで読ませてくれる。
 国同士が互いに知力と武力を駆使してせめぎ合う戦乱の世に、凛とした生き方を貫いた孟嘗君の生涯は、一つの理想像と言える。
 国を統べる人格を、波瀾に満ちた物語の中に練達の筆で活写した歴史ロマン。

孟嘗君(5) (講談社文庫)
宮城谷 昌光

いずみたく作品集

 「世界は二人のために」「恋の季節」「太陽がくれた季節」「夜明けのうた」「ふれあい」「いい湯だな」「手のひらを太陽に」「見上げてごらん夜の星を」など、数多くの名曲を世に送り出した、いずみたくの作品集を聴く。
 2枚組のCDで、DISK1には、先にあげた曲を含む20の歌謡曲が、DISK2には、「ゲゲゲの鬼太郎」「アンパンマン音頭」「もーれつア太郎」「ケロヨンソング」「チョコレートは明治」「伊東に行くならハトヤ」などのアニメやコマーシャル・ソング30曲が収録されている。いずみたくの生み出した曲の幅広さと詩情の豊かさに感嘆する。

いずみたく作品集
オムニバス 沢たまき 由紀さおり
B00005GMKV

中坊公平・私の事件簿

 「森永ヒ素ミルク中毒事件」「豊田商事事件」など、社会を揺るがした事件の顧問弁護士となり、住専不良債権の整理回収機構社長を務めた中坊公平。彼が担当した事件の中から、節目となった14のケースを取り上げ、「事件の概要」と「教訓と思い出」を語った書。
 あるときは使命感に燃え、あるときは義憤にかられ、熱意と誠意をもってそれぞれの事件に取り組んできたことが伝わってくる。

 「事件を繙(ひもと)く本質は法律にあるのではなく現場にあります。現場の中に小宇宙があり、現場に神宿る-私はそんなふうに考え、今日に至るまで「現場主義」を貫いています。」

 現場に何度も足を運び、そこから本質をつかみ取り、粘りとひたむきさで問題の打開を図ろうとする姿が具体的に記されている。淡々とした記述だが、どの言葉も現実に立脚した深みと力がある。
 特に、「森永ヒ素ミルク中毒事件」の冒頭陳述には心を揺さぶられた。
 真摯に社会問題に向かう弁護士という仕事の尊さと難しさを感じさせられた書であった。 

中坊公平・私の事件簿
中坊 公平
4087200639

ガリレオ

 「振子の等時性」「落体の運動」など、物理学上の大発見を成し遂げ、自ら望遠鏡を作って天体を観測し、数々の偉業を残したガリレオ=ガリレイ。すべてのものは観察と実験によって真理をつきとめることができる、ということを身をもって実行した「近代科学の父」。その生涯を、息子の音読でたどり、親子共に感慨を得ることができた。

 特に、望遠鏡で初めて月を覗いたときの描写は、こちらも興奮してくるほどであった。著者の草下英明氏は、五島プラネタリウムの解説員をしていた。そのため、近代天体学の出発点となったガリレオの観測に、深く心を寄せて書いていったのであろう。

 ガリレオは晩年、著書「天文対話」などで地動説を広めたことにより、ローマ法王庁によって宗教裁判にかけられる。「それでも地球は動く」と言ったことで有名な史実である。伝記によって生涯をたどることにより、地動説を誤りと認めることがガリレオにとってどんなに悔しいことであったかが、心に迫ってくる。

 伝記の最後に、1992年にローマ法王ヨハネ=パウロ二世の発表によって、ガリレオのローマ=カトリック教会からの破門は誤りだったとして、ガリレオが359年ぶりに破門を解かれて名誉を回復したことが付記されている。伝記の著者、草下氏が亡くなった翌年のことであった。

ガリレオ―それでも地球は動く
草下 英明
4061475290

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